ネビルが見つけた『あったりなかったり部屋』をダンブルドア軍団の会合の場所とした。 ハリーが回りながら皆を指導するのを横目に、 私は前世で学んだ防御術をおさらいするような形で杖を振るった。 時には指導補佐に回ることもあるが、 呑み込みが早いハーマイオニーがいるのでその必要はなかった。 いち早くダンブルドア軍団の存在を嗅ぎつけたアンブリッジはあの手この手と 証拠を掴もうと尋問をされたが、そこは忍術の助けも借りてうまく凌いでいた。 特にフィルチがずっと一か所だけ見張りをしていた後ろ姿はとても滑稽だった。 今日も防衛術を練習する中、ついにネビルが武装解除することに成功した。 ネビルすごい!と皆が駆け込んだ。 未だに信じられない顔をしているネビルはどう対応しようか分からずはにかんだ。 「いいか、。武装解除するコツは杖を振り回しすぎないこと―――そう、そうだ!  やるじゃないか、!」 「やった!―――あなたのおかげだよオンスロットさん!」 「さあ、練習はここまで。冬休みに入るからしばらくは集まれない。  だから出来るだけ自分で練習を続けて。  皆上手になったよ。ほんと―――がんばった!」 興奮にまじった拍手で我に返った。 皆は荷物を持って「メリー・クリスマス。」と声をかけて去っていった。 何故か出ようとしないハリーを見つけたが、ハーマイオニーに腕を引かれるまま私は出て行った。 「邪魔しちゃだめよ、。」 「邪魔って?」 「にっぶいなー。ハリーがチョウに気があるの知ってるだろ?」 「そうだけど・・・。」 ハリーがチョウに思いを寄せているのはもちろん、 チョウがセドリックのことを好きだっていうのも知っている。 人の恋路にどうこう言うつもりはないのだけど、これはいい事なのかよく分からなかった。 「そういえば、さっきボーッとしてたけど大丈夫なの?」 「ん・・・・・・前世で私が学校を中退してからの記憶を思い返してて。」 「・・・・・・ごめんなさい。」 「謝ることないよ。むしろ、楽しかった方さ。  あの時、ホグワーツの生活指導をしていたオンスロットにほぼ二年間勉強を教えて貰ってね、  時間を作ってはこっちに来てくれたんだ。  あの人だって他にやることがあるのに・・・・・・ほんとありがたいよ。」 昔を懐かしむ私を見て、ハーマイオニーとロンは気まずいような、 ちょっとホッとしような表情を浮かべた。 「でもさ、どうして中退なんかしたんだよ?  かなり成績が悪かったとか、もしくは危険生物を飼っていたのがバレたとか。」 「もう!ロン!」 「どっちも不正解―――といってもその事についてまだ、どういうことか思い出せないんだ。  分かっているのは自分が原因だってこと・・・・・・  昔から皆に迷惑かけているからよほどのことだろうね。」 嘲笑うように言ったが、ハーマイオニーは自分の予想外のことを口にした。 「あら、そんなの今に始まったことじゃないじゃない。  今だって十分、いい迷惑よ。」 「確かに。」 彼女の口調からして、決して悪意のあることではないと表していた。 ハーマイオニーにつられ、ロンもニヤリと笑った。 十中八九、ペットのことだなと私は苦笑した。 *** 「さあ、皆、パパが退院したわ!」 まだホグワーツを出る前、 ハリーが見た悪夢で現実でも重傷を負っていたウィーズリーさんだったが、 こうして無事に退院することができた。 痛々しい傷痕が残っているが、その顔には私達に負けない笑顔を浮かべていた。 シリウスは私に殴り書きの手紙を渡して以来、リーマス同様にあまり口を利かなくなっていた。 ハリーがこれからスネイプ先生との『閉心術』を学ぶことについてだったり、 ウィーズリーおばさんからの服を愚痴るロンを宥めたりと複雑な気持ちを紛らわした。 シリウスはホグワーツを楽しめという反面、苦い過去を振り返って苦い顔をしているのだ。 それを見てしまって、ますます記憶を消したいと望んでしまう。 クリスマス休暇を明け、喜ばしいニュースを聞きつけた。 ハグリッドが戻ってきたのだ―――。 超スピードで小屋の戸口が見えた時だった。 「いい?もう一度だけ聞きますわよ?今までどこにいたのか答えなさい。」 一番聞きたくない声が小屋の方から聞こえ、ピタリと止まった。 何故アンブリッジがハグリッドの小屋に? 「言っただろうが。健康上の理由で休んでた。」 「健康上の?」 「ああ、ちょいと―――新鮮な空気を―――。」 「そうね。家畜番はなかなか新鮮な空気を吸えないでしょうし。  戻ったからって、腰を押し付けないことですわね。荷解きもしない方がよろしいですわ。」 戸口から出て来たアンブリッジは自分の周りに香水(に見える)をふりかけてから、 また匂いがつかないよう、すぐに立ち去っていった。 完全に見えなくなったのを確認し、ようやくハグリッドと顔を合わせた。 しかし、久しぶりに見たハグリッドの顔には生々しい傷痕がいくつかあった。 「こいつは極秘だぞ。ええか?ダンブルドアの使いで巨人のところへいっとった。」 「巨人!?」 思わず大声を出してしまい、ハグリッドが人差し指を口に当てた。 一旦、無理やり閉じた口を解放して、息を顰めるように訪ねた。 「見つけたの?」 「連中を見つけるのはそう難しくはねえ。でっけえからな。  ―――で、味方についてくれるよう説得した。  だが他にも近づいてきた奴らがいてな。」 「死喰い人?」 「そうだ。『例のあの人』に組みするよう説き伏せておった。」 「で、どうなったの?」 「まあ、巨人の何人かが、ダンブルドアが友好的だっちゅうことを覚えているだろ。」 ハリーはハグリッドの顔中についている傷痕を見上げた。 「それ、巨人にやられたの?」 「いや、その・・・・・・。」 ハグリッドは歯切れ悪そうに呻いた。 すると、開いている窓の方から風がビュウと音を立てた。 それはとても久しいもので、懐かしいとは言い難いものだった。 *** 昨夕にアズカバンから囚人が集団脱獄したと『日刊予言者新聞』の一面に大きく載っていた。 シリウスの仕業ではないかと未だに白を切る文が述べられている。 平気な顔をしている生徒達の中、嬉しいことに最初に反論していたシェーマスが 「僕、君を信じるよ。」とダンブルドア軍団に加わったのだ。 味方が増えることはハリーにとっても心強かった。 「いいかい?思い出が力となる―――一番幸せな記憶で自分を満たすんだ!  続けてシェーマス!」 いろんな守護霊を創り出したり、うまくできなかったりといろんな声が飛び交った。 皆が一所懸命、杖を振るっている中、息を吸って―――目を閉じた。 幸せな思い出―――父に初めて教えてもらった忍術―――リーマスとの同居生活――― ハリー達との学校生活―――そして――― 懐かしき顔ぶれが集まる友人達とバカやって遊んだ記憶が浮かんだ。 「エクスペクト パトローナム!」 他の皆と違い、どういう生物かハッキリしていなかったが、守護霊は悠々と天井を飛び回った。 ルーナの守護霊であるウサギと顔を合わせると、かけっこをするかのように駆けていく。 だが幸せな気持ちは突然襲った震動で崩落した。 ピタリと音が止んだかと思うと、あの耳障りな声と共に壁が崩壊した。 「どうしよう、!」 ロンは何とかならないかと小声で言った。 逃げようにも、目の前にいる敵はしかと姿を捉えてしまった。 下手をすればここにいる全員退学になりかねない。 「こうなったからには腹をくくるしかない・・・・・・。」 とても悔しかった。皆、それぞれいい方へいったのに・・・・・・。 気持ちが急降下した同時に、守護霊は銀色の霞となって消えていった。