私達が秘密裏に防衛術を特訓してきたのがバレてしまった。 その責任を自ら背負ったダンブルドアはフォークスと共に炎に包まれて消えたという。 ダンブルドアが易々と連行されずに済んでよかったのは最初の内だった。 ダンブルドアに代わり、アンブリッジが校長になったという最悪な展開だ。 「君、やれることはやったよ。あのばばぁには敵わないさ。」 「ダンブルドアすら予期しなかったことよ。責任ならわたしとロンにあるわ。」 「言い出したの僕達だもん。」 「僕も賛成した。役に立とうと頑張ったのに、事態を悪くしただけだ。 でも、どうでもいい。もう危ないことはしない。 大切に思うことが増えるほど、失った時が辛くなる。だからもういっそ―――」 「もう、これ以上―――皆に迷惑をかけたくない。」 ハリーの言っていることが、昔の自分と重なる。 キュッと胸が締め付けられたような感覚を抱いた。 「いっそ・・・・・・何?」 「一人の方がいい。」 嫌な汗が肌を伝う。何度も同じところに刻まれた『私は嘘をついてはいけない』傷が疼いた。 私が口を開こうとしたところを、ハグリッドは姿を見られたくないような姿勢で声をかけてきた。 一緒に来てほしいと、今すぐじゃだめだと。 ひどく悲しげな表情をするのはバックビークが処刑されると告白して以来だろうか。 即座に「いいよ。」と応じた。 「どこへ連れてく気かな?」 「ハグリッド、どうして教えてくれないの?」 眼前にケンタウルスの群れが怒声を上げて凄まじい速さで通り過ぎたのが見えた。 「あんなに怒ったケンタロウスは初めて見た。ただでさえおっかねえのに・・・・・・ 魔法省がこれ以上住処を制限したら反乱を起こすぞ。」 「一体何が起きてるの?」 「何も言わずに引っ張って来てすまねえ。 面倒はかけたくねえんだが、ダンブルドアはいねえし、 俺の首が飛ぶのもそう遠いことじゃねえ。その前にこいつのこと話しておかねえとな。」 涙ぐんだ声につられ、その奥にいる何かを目にした。 大きな背中はハグリッド以上に広いし、高さもそれ以上だった。 「お友達を連れて来たぞ。」ハグリッドが言った。 その巨人は嬉しそうな顔を浮かべた途端、ズシンズシンと勢いよく向かってきたが、 足を縛った縄の反動でピタリと止まった。改めてみると、かなり大きい。 「おいては来れなかった―――弟分なんだ。」 「すっげえ・・・・・・。」 「弟っちゅーても半分だが。 大丈夫、悪さはしねえ・・・・・・ちーと、元気が良すぎるだけで。」 ハグリッドが言っているそばで、悲鳴が耳をついた。 グロウプという巨人が素早くハーマイオニーをつかんだのだ。 「おい、言っただろう!鷲掴みはいけねえ!そいつは友達のハーマイオニーだ!」 「ハーマイオニーを放せ!」 ロンが勇敢にも落ちていた木の棒でグロウプの足を叩いたが、棒が先にだめになった。 グロウプはかゆいといった程度しか感じていないらしい。 ハグリッドのように英語が喋れるわけでもないし、相手は動物でもないから、 どうしたら―――。 「グロウプ!わたしを、下ろしなさい!」 先程、恐怖の声をあげていたハーマイオニーが威勢よく叫んだ。 グロウプは驚いた顔でじっと見つめた。「早く!」ハーマイオニーが言った。 すると、グロウプはゆっくりとハーマイオニーを下ろした。 なんだか寂しそう。 「大丈夫?」 「ええ、ちゃんと躾ければね・・・・・・。」 「君のこと好きみたい。」 ハーマイオニーは信じられないといった顔でハリーを見た。 その側で、「ハーマイオニーに近づくなよ!」ロンが言った。 グロウプは寝床に戻ったかと思うと、自転車のハンドルに付いているベルを鳴らした。 それをハーマイオニーに渡した。 彼女も同じようにベルを鳴らすと、グロウプは喜びの表情を浮かべた。 まるで大きくなりすぎた子供のようだ。 「食いもんは自分で取れる。時々来て、相手してやってくれ。 面倒見てやってくれるか?こいつには俺しかいねえんだ。」 *** 「信じられない。」ハグリッドと別れ、聞こえないところまで来た途端、 ハーマイオニーは動揺しきった声で言った。 「巨人よ!森に巨人なのよ!それに、その巨人に私たちが英語を教えるんですって! しかも、もちろん、殺気立ったケンタウルスの群れに、 途中気付かれずに森に出入りできればの話じゃない! ハグリッドったら、信じられない。ほんとに信じられないわ。」 「僕たち、まだ何もしなくてもいいんだ!」 「追い出されなければ、ハグリッドは何も頼みしないし、 追い出されないかもしれない。」 「まあ、、いい加減にしてよ!」 ハーマイオニーが憤慨して、私をキッと見上げた。 「あなたは今まで札付きの魔法生物たちをここで飼っている――― バレずにいられたのはハグリッドが匿ってくれたからよ! ハグリッドがここを去ったらどうなるというの?」 「だからって、苦しい思いをした子たちを―――放っておくわけにはいかない。 私は動物が好きだってだけであの子たちを連れてきたわけじゃない。 ハグリッドと、同じ気持ちなんだよ!」 前世でもホグワーツに無断で放し飼いしていた事を指摘されたと思い、 自分勝手だという罪悪感を一瞬で抑え、カッとなって叫んだ。 「今までの魔法生物と巨人じゃわけが違うわ。ハグリッドは必ず追い出されるわよ。 それに、はっきり言って、いましがた目撃したことから考えて、 アンブリッチが追い出しても無理もないじゃない?」 今度はハリーがハーマイオニーをじーっと睨んだ。 ハーマイオニーの目に涙がじんわりと滲んでいた。 「本気で言ったんじゃないよね?」 「ええ・・・・・・でも・・・・・・そうね・・・・・・本気じゃないわ。」 ハーマイオニーは怒りながら涙を拭った。 今、冷静に思うと、ハグリッドは苦労を背負いすぎなんだ。 少しでもそれを取り除けるなら、私だけでも―――。 「、今―――自分だけでもやろうと思ってたろ?」 「ああ、そうだよ。長いことハグリッドには世話になりっぱなしだし。」 「そんな、僕たちだってそうじゃないか!」 ハリーがきっぱりと言った。 そういえば、面と向かって発言してきたのは久しぶりかもしれない。 「約束しちゃったしな。」 ロンは不安そうな顔で、髪をなでつけた。 「ハグリッドはまだクビになってないだろ? これまでもち堪えたんだ。今学期一杯もつかもしれないし、 そしたらグロウプのところに行かなくてすむかもしれない。」 *** その日の夜、また前世の記憶が『夢』となって現れた。 トランクと魔法生物図鑑を持って、門を出た。 既に馬車が停車されている。すぐそばに屋敷しもべ妖精がいた。 「本当によろしいのですか?」 「ああ、自分から言ったことだ。今更へし曲げる気はない。 俺がどれだけ言われても、そう簡単にうんと言ったか?」 「ええ、そういう頑固曲りなところは旦那様にそっくりで御座います。」 「似たくもなかったな・・・・・・。」 「しかし、これからどうなさるつもりですか? ホグワーツに取り残されるあなたの愛しい家族を 森番にずっと面倒を見て頂くつもりですか?」 「俺が勝手にしたことをハグリッドに押し付けられないよ。 それで今考えているのだけど・・・・・・あの子達を別荘に移動できないかな?」 「まあ、サムバディ・パァスへ?」 「俺は学校を辞めるが、のこのこと実家に戻る気はない。 あいつに何か言われたら俺に脅されたと言ってくれ。」 「はあぁぁぁ・・・・・・このサルビア、ここまで手を焼かされたロードヴァリウスの子は 坊ちゃん―――いえ、***お嬢様しかおりませぬ。」 そこで背景がぐにゃりと歪み、夢から覚めるのだった。