あれ以来、スリザリン寮生達(特にマルフォイ)に
たくさん声をかけられるようになった。
私を見つけるなり、(ほぼ強引に)お茶に誘ったり、
会話を交わす中、決まって目が合う度に
男女関係なく頬を赤らめて顔を背ける。
特にマルフォイの別人ぶりには本当に舌を巻いた。
それが影響して寮内でも好奇な目で見られるようになった。
いや、別にマルフォイ達のことは嫌いじゃないんだけど・・・。
ホグワーツに来て早くも二ヶ月が経ったハロウィーン当日、
談話室にいるハリーとロンの姿を見つけた。
同じ寮だから会えないことはないのだが、
飛行訓練の授業以来、気まずくて声をかけられずにいたのだ。
私は二人に駆け寄ると、真っ先にハリーに
「シーカーに選ばれたんだね。おめでとう。」と言葉をかけた。
随分前から知っていたが、やはりちゃんと言わなくては。
ハリーは若干頬を赤く染めながらも、「ありがとう。」と返した。
「それにしても・・・・・・ってすごいよな。
あの空気の中でたった一人マルフォイの頬を打ったんだからさ。
他のスリザリンの奴らのあの顔、
フレッドとジョージにも見せてやりたかったよ。」
私の機嫌がいいと分かってホッとした様子でロンが言った。
以前に、他の同寮生たちにも同じこと言われたのを思い出す。
ロンはマルフォイの落ち込みっぷりにいい気分に浸っているようだが、
カッとなって手を上げた張本人である私はそれ所ではない。
「そう言わないであげて。
自分の感情を抑えず打った私に非があるから。」
「スリザリンに気を遣うなんて変わってるなあ・・・・・・。」
何で庇う必要があるんだ、と納得の色がないロン。
今までの言動からして、相当スリザリンがお気に召さないらしい。
そこに、ずっと黙っていたハリーがフォローするように
「そういうのも、なりの優しさなんじゃないかな。」と控えめに言った。
ハリーにつられて、私の顔も熱くなっていくのを感じた。
「そうだ。ハーマイオニーのことなんだけど・・・・・・。」
「あいつがどうかしたかい?」
「うん。あの時・・・彼女も怖がらせてしまったから謝りたくて・・・。」
まだ部屋に戻って来ないんだと伝える。
すると、二人は「これは秘密だよ。」と忠告して、
此間の夜、『禁じられた廊下』に立ち入ってしまったことを告白した。
三つ首の怪物犬がいることも、何かを守っていることも―――。
それを私に話してくれるということは、
信頼している証なんだろうか?
それ以来、ハーマイオニーは一度も二人と口をきいていないらしいが、
今回は訳が違うようだ。
「何?どうしたの?」
「・・・『妖精の呪文』の授業で・・・あいつの態度に我慢できなくなって、
授業帰りにちょっと・・・・・・。」
それは流石に―――と二人を見るが、
ハリーもロンも少しバツの悪そうな顔をしていたので
私は何も言わなかった。
大広間に向かう途中、ハーマイオニーがトイレで泣いていると小耳に挟み、
ハリー達から離れようとした所に、ロンが制止した。
「どこ行くの?」
「ハーマイオニーのとこ。」
ロンが一瞬硬直したが、咎めることもなく「わかった。」と頷いた。
ハリーが不安そうに見て来たが、「大丈夫だよ。」と返した。
私もハロウィーンのご馳走を楽しみにしていたけど、
ハーマイオニーが気になって仕方ない。
彼女がいるであろう女子トイレに顔を出して辺りを見渡す。
姿は見えないが、奥の扉からすすり泣く声が聞こえて来る。
ゆっくり近づき、静かに息を吐いて口を開いた。
「あの・・・ハーマイオニー?」
ずっと聞いていたという形に取られるかもしれないが、
声をかけずにはいられない。
ピタリ、とすすり泣く声が止まる。
私はそのまま言葉を続ける。
「失礼の承知で言わせてもらうけど・・・・・・。
あの時―――怖がらせてごめん・・・。」
今更すぎるかもしれないけど・・・私はそう言って返事を待つが、
返答は来ない。
「それじゃあ・・・。」とその場を後にしようとした時、
突然後ろから扉が開く音が響く。
「あなた・・・それだけを言うためにわざわざ来たの?」
振り返ると、意外ね、と言い気なハーマイオニーが立っていた。
まだ涙が引いていないようで、彼女の目が赤く充血している。
「うん。」
私は間を入れず、頷いた。
「・・・・・・あなた、一つ誤解しているわ。」
「え?」
「怖がらせてしまったと思ってるようだけど、
私はこれっぽちも気にしてないわよ。」
「でもっ・・・!」
「だから、気にしてないって!」
ムキになって言ったハーマイオニーの声がトイレに反響する。
暫しの沈黙、私たちは顔を合わせて思わずプッと笑みを噴き出した。
「ごめんなさい。今のは大人気なかったわ。」
「ううん。こっちこそ。」
ハリー達もそうだけど、久しぶりに喋れた気がする。
いつもの笑顔も見れたことだし、良かった。
「さ、ハーマイオニーも大広間に行こう。」
「えっ、でも・・・・・・。」
「大丈夫。私も一緒にいるから。」
問題はハリーとロンだが、
彼らならきっと仲直りができるだろう。
躊躇するハーマイオニーの手を取った瞬間、
一つの影が私達を覆った。