背は四メートルもあり、墓石のような鈍い灰色の肌、 岩石のようにゴツゴツのずんぐりした巨体、 ハゲた頭は小さく、ココナッツがちょこんと載っているようだ。 短い脚は木の幹ほど太く、コブだらけの平たい足がついている。 腕が異常に長いので、手にした巨大な棍棒は床を引きずっている。 コイツは一体何なんだ・・・・・・? 放っているひどい悪臭に表情を歪めながら、後ろにいるハーマイオニーを意識した。 ちらりと見ると、ハーマイオニーは目の前にいる怪物に 恐怖で足が竦んで悪臭どころではない様子だ。 「(ハーマイオニー・・・・・・。洗面台の所へ逃げて)」 背後にいる彼女に小声で移動するよう付け足した。 一瞬、戸惑いながらこちらを見たが、 意を決した表情で私とは逆の方向へ、前屈みになって走った。 怪物がハーマイオニーを目で追ったが、「こっちだ!」と叫んで 懐に隠しておいた砂煙を顔面に向けて吹いた。 それが目に入ったようだが、私にとってそれが逆効果であることを思い知らされた。 「!」 ロンとやって来たハリーが叫んだ瞬間、 苦し紛れに振り回した棍棒が、私の顔面スレスレに横切った。 もし彼らが来なかったら、瞬時に飛び退くことはできなかっただろう。 次々と洗面台をなぎ倒しながら、 奥の壁に張り付いて動けないハーマイオニーに近づいていくのを見て、 私は最初に頭に浮かんだ『印』を実際に結んだ。 金縛りの術・・・! すると怪物の動きが止まり、心の中で「よし!」と意気揚々に叫んだが、 そう長く続かないのが、この忍術の欠点だ。 「ハリー!ロン!奴が動けない間にハーマイオニーを!」 「もしかして・・・君がやったのかい!?」 「話は後!早くしないと術が解ける!」 私が切羽詰まった声で叫ぶと、ついに術が解けてしまった。 動き出した怪物の後ろからハリーが勇敢とも、間抜けとも言えるような行動をした。 なんと、腕を奴の首ねっこに巻きついたのだ。 飛びついた後、持っていた杖をそいつの鼻の穴に突き上げた。 思わず、ロンまでが唸る。 ハリーを振り払おうと棍棒で強烈な一撃を食らわそうとしている中、 ロンはようやく自分の杖を取り出した。「ビューン、ヒョイ、よ!」 「ウィンガーディアム レヴィオーサ!」 突然棍棒が手から飛び出し、空中を高く上がって、 ゆっくり一回転してからボクッといういやな音を立てて持ち主の頭の上に落ちた。 怪物はふらふらしたかと思うと、ドサッと音を立ててその場にうつ伏せに伸びてしまった。 「これ・・・・・・死んだの?」 「いや、ノックアウトされただけだと思う。」 ハリーが屈み込んで、怪物(トロールと言うらしい)の鼻から自分の杖を引っ張り出した。 灰色の糊の塊のような物がベットリとついていた。 私も我慢できず表情を歪めると、出入り口からバタバタと足音が聞こえて顔を上げた。 マクゴナガル先生を始め、スネイプ先生とクィレル先生が飛び込んで来た。 「一体全体あなた方はどういうつもりなんですか。」 マクゴナガル先生の声は冷静だが怒りに満ちていた。 「寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」 その言葉の後にスネイプ先生がハリーに素早く、鋭い視線を投げた。 ふと、先生の片脚が血だらけになっていることに目を疑ったが、 私の視線を悟ってか、ローブで素早く隠した。 何か言われる前に、なるべくスネイプ先生を見ないよう背けた。 すると、「私が悪いんです。」とハーマイオニーが立ち上がった。 「私がトロールを探しに来たんです。 私・・・・・・私一人でやっつけられると思いました――― あの、本で読んでトロールについてはいろんなことを知ってたので。」 私だけでなく、ロンも杖を取り落として凝視していた。 ハーマイオニーが先生に真っ赤な嘘をつくなんて考えられない。 「でも、やっぱり一人じゃ心細かったので、 無理にを連れて来たのですが・・・・・・ もし二人が見つけてくれなかったら、私達、 いまごろ死んでいました。」 もちろん、それも嘘だ。 まさか私まで庇ってくれるなんて―――・・・。 「あなたには失望しました。」とマクゴナガル先生の厳しい声と共に、 五点減点です、と容赦ない判断が下された。 「先ほども言いましたが、あなたたちは運がよかった。 でも大人の野生トロールと対決できる一年生はそうざらにはいません。 一人五点ずつあげましょう。」 ハリーとロンが互いに顔を見合わせて笑みを浮かべると、 ハーマイオニーもつられて微笑んだ。 マクゴナガル先生とスネイプ先生が先に去っていくと、 クィレル先生が「トロールが起きない内に戻りなさい。」と付け足した。 彼の隣を横切った時、異様な気配を感じたが、すぐに忘れてハリー達の後を追った。