肌寒くなり、廊下でも吐息が白く出る。 今日はいよいよハリーの初試合であるため、ローブとマフラーで防備している。 だがよりによって寝坊してしまうなんて最悪だ! 人の目を盗んで忍術を使いながら廊下を駆け抜ける。 マクゴナガル先生に見つかったら大目玉を食らうだろうが、 せめてパン1枚くらいは胃に吸収したい。 眼前の奥から人影が見えたので、早歩きに変えた。 スネイプ先生だ。 「あ、おはよう御座います。」 「・・・・・・ああ、おはよう。」 微妙に間が空いたが、ちゃんと目を見て返してくれた。 それはハリーに向ける冷たい視線ではなかった。 「朝食時間はもうすぐ終わるぞ。」 「はい。それでちょっと急いでて・・・。」 一瞬、あの時怪我していたのを思い出し、「大丈夫ですか?」と言おうとしたが、 この人なら絶対はぐらかすだろうと言葉を呑み込んだ。 「じゃあ、私はこれで・・・・・・。」 「待ちたまえ。」 「・・・・・・はい?」 先生に呼び止められ、思わず間抜けな声を出してしまう。 もしかして廊下を走っていたのがバレて減点されるのかな・・・。 不安な表情でスネイプ先生をじっと見ていたが、 「いや、何でもない。」結局何も起こらなかった。 しかし、よく見るとやはり脚を引きずっていた。 何があったのかは知らないが、このままにしておくのは気が引くな。 ハーマイオニーが貸してくれた本で覚えた治療呪文をこっそり使った。 スネイプ先生が不審がる前に大広間の方へ向かうと、 待ち構えていたかのようにハリー達が立っていた。 「遅かったじゃない。もう終わっちゃうわよ?」 「うん・・・・・・パンだけ貰おうかと思って。」 「それはそうと、・・・・・・大丈夫だった?」 「大丈夫って?」 ロンの意味深な問いに首を傾げる。 私が通った廊下を先程スネイプ先生が行ったからだと言う。 「何でそう心配するの?別に嫌がらせされた訳じゃないのに。」 「いや、そうなんだけど・・・・・・ううん、何でもない。」 結局詳しいことは言わず、会話はそこで途絶えた。 時間が迫っていた為、私は無理やりパンを一枚口の中に放り込んだ。 クィディッチ競技場の最上段をロン達と陣取って、 試合が始まるのを楽しみにしているのに対し、 心の中では半分、ハリーの初試合というのもあって心配でもあった。 「(あ・・・・・・ハリーだ!)」 グリフィンドール・チームキャプテンのウッドと一緒に出てきたハリーを見つけた。 クィディッチ用の真紅のローブを身に包み、箒に乗る姿が別の人物と重なる。 「さあ、皆さん、正々堂々戦いましょう。」 フーチ審判の銀の笛が高らかに鳴った。試合開始だ。 「さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールの  アンジェリーナ・ジョンソンが取りました―――  何てすばらしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります。」 「ジョーダン!」 「失礼しました、先生。」 双子のウィーズリーの仲間、リー・ジョーダンが マクゴナガル先生に注意されながら実況放送している。 前半はグリフィンドールが優勢に立っていたが、 徐々にグリフィンドール選手が減っていく一方で、スリザリン・チームと点数が並ぶ。 すると突然、ハリーは箒に乗ったまま激しく揺さぶられて今にも落ちそうな状況だ。 「何してるんだよ。」 「スネイプよ・・・・・・見てごらんなさい。」 隣でロンとハーマイオニーが小声で何か言っているのを小耳に挟み、 むかい側の観客席に視線を向けた。(これでも視力はいい方なのだ) スネイプ先生がハリーから目を離さず絶え間なくブツブツ呟いている中、 更に目を凝らすとクィレル先生までもが何か呪文を唱えていた。 相変わらずハリーの箒の揺れは収まらず、 私はムキになってハリーを目に捉えた瞬間、震えが止まったのだ。 むかい側の観客席が何故か騒がしいが、一体どちらがハリーを救ったのかは知る由もない。 空中のハリーは再び箒に跨り、 『金のスニッチ』を取ろうと腕を伸ばした同時に地面に落ちてしまった。 私は悲痛な表情を浮かべるが、ハリーが飲み込んでいたスニッチを吐き出した時、 試合終了とグリフィンドール勝利の笛が響き渡ったのだった。