結局、その日の授業に出席する気になれず、夕食の席にも来なかった。 朝になってやっと食欲が戻ってきたが、初日のようなワクワクとした気持ちは沸いて来なかった。 リリーが「大丈夫なの?」と声をかけてくれたが、 彼女のせいだと思ってほしくなくて、大丈夫だと無理やり笑顔を作った。 入学早々、授業をサボるなんて父親が許すはずがないが、今のにその心配する所ではなかった。 自分がどうしようが、スリザリンの中に心配してくれる者はいない。 唯一顔見知りであるスネイプとはあれ以来、口をきいていないのだ。 リリーは何とかしようと気遣ってくれるが、全てうやむやに終わってしまう。 早くも一ヶ月過ぎ、この生活にも慣れ始めた頃、未だにスネイプの仲は悪いままだ。 どうしようかと原っぱの上にドカッと座ったの側に一匹のウサギが近寄った。 「やあ、君はホグワーツに住んでる子かな?」 小さな体をそっと膝の上に乗せて、もふもふとした毛を撫でた。 久しく動物と触れ合っていなかったなと改めて思った。 「僕は、悪いことするつもりなんてなかったんだ。  でも、こんな形になっちゃってさ、セブなんて先月からずっと無視さ。  一体、どうしたらいいと思う?」 ひとりごちたをよそに、ウサギはぴょんと膝から跳び下りた。 「ちょっと待ってよー!」 ウサギを追いかけていくと、木で建てられた小屋を前には立ち止まった。 こういう建物あったっけ・・・・・・?家の周りには斧や畑に使う道具などが置かれている。 周りを見渡していると視界に木々で覆われている森が映った。 今は昼間のはずなのに、暗闇で奥がどうなっているのかよく見えない。 この奥に惹かれるような何かを感じたが、大きな怒声で現実に引き戻された。 「そっちは禁断の森だぞ!入っちゃいかんとダンブルドアが言っただろう。」 自分の何倍の大柄である森番のルビウス・ハグリッドが野菜を抱えて、大股でやって来た。 「え、これが禁断の森?」 「ああ、毎年注意しとるっちゅーのに好奇心で来たがる生徒で後が絶たんわい。」 大男は野菜をどすんと地面に置いて、大きく溜息ついた。 「ねえ、ケンタウルスや一角獣がいるって本当?」 「まあな、それを見に来たジェームズとシリウスをさっき追っ払ったとこだ。」 「誰それ?」 「お前さんと同じ一年生だ。まったくとんでもない悪餓鬼でな。  見たところ、動物好きそうな顔してんな。」 「わかるの?」 「ファングが初対面の人間にすぐ心を開いてるいい証拠だ。」 「あんたの飼い犬だったんだ。」 腰を下ろし、自分の足にすりすりと自分の体を押し付ける黒い大型犬と目を合わせた。 厳つい外見とは裏腹に、顎下を撫でられると気持ちよさそうに目を閉じていた。 可愛い表情をするファングを見て、心が癒されるのを感じた。 「そういや、もうすぐ授業始まるんじゃねえのか?行かなくていいんか?」 「えっ!もうそんな時間?」 もう少しいたかったなあ、とはぼやいた。 「おお、いつでも来ていいぞ。あんまりスリザリン生のことは好きじゃないが、  お前さんのような生徒なら大歓迎だ。ファングも喜ぶしな。」 「ありがとうハグリッド。また後でね、ファング。」 ワン!と吠えると、嬉しそうに尻尾を振った。 沈んでいた気持ちが少しだけ和らいだ気がした。 *** 「そこにいるのは分かってるんです!待ちなさい!」 最近、マクゴナガル先生の怒声が授業以外にもよく響いている。 いつも険しい表情に、更に眉間のしわが濃くなっていた。 先生が去っていくその後ろでクスクスと笑いを耐える声が聞こえた。 原因はこのジェームズ・ポッター、シリウス・ブラックの二人である。 「ほらな?今日も捕まらなかった!」 「本当に君は悪い奴だなジェームズ!」 「そういう君もなシリウス!」 次は何をしてやろうと会話を交わしながら、何処かへ走り去っていった。 グリフィンドールは勇気果敢な騎士道を有する生徒が集うと聞いたが、 あの二人から見えるのは傲慢さだ。 ハグリッドが言う『悪餓鬼』の単語が見事に当てはまっていた。嫌な奴らだ。 ある日、図書館からいくつか借りた本を持って出ようとした時、ドサッと本を落とした重い音がした。 図書館にいる皆が一斉に音が聞こえた方へ視線を向けた。スネイプだ。 そしてその向こう側にジェームズがしてやったりな顔をしている。 「大丈夫?セブ。」 リリーは床に伏せている本を拾い集めた。 スネイプは逃げるように去っていくジェームズの姿が見えなくなるまで睨んでいた。 はその場に近づき、最後の本を拾い上げた。 「はい、セブルス。」 「・・・・・・ああ。」 スネイプは遅れて気のない返事をすると、その本を無理やり取って図書館を後にした。 相変わらず、目線はには向いていなかった。 「さっき、ポッターがセブルスにわざとぶつかったのよ。」 「あいつが?」 スネイプが去った後を見つめながら、リリーはそう言った。 接点がないように思う二人だが、何故そんなことをするのか聞いた。 「ホグワーツ特急で乗り合わせていたコンパートメントでちょっと・・・・・・  ポッターもブラックも嫌な奴よ。」 リリーはツンとした声で言い切ると、大嫌いだわといった表情を露わにした。 それからというもの、ジェームズ・ポッターが主に、スネイプへの嫌がらせは頻繁になっていた。 明らかに悪意のあるものばかりで、は益々ジェームズが嫌いになっていった。 合同授業が終わり、皆が立ち上がった同時にジェームズがスネイプの足を引っ掛けようとした。 はバランスを崩すスネイプの腕を掴んで、よろめいた身体を支えた。 「気をつけろよースニべルス!」 悪びれた様子もなく、ジェームズは笑いながら足早に教室を出ていった。 はその後ろ姿に向かってギロリと睨んだ。 「いつまで掴んでるんだ。」 「ああ、ごめん。」 不愉快だといった口調で言うスネイプに、は慌てて手を離した。 軽くローブを払う彼に、は呼びかけた。 「あのさ、セブルス・・・・・・先生に言わなくていいのか?さっきの事も含めて。」 「何が言いたい?」 「ジェームズ・ポッターがお前に嫌がらせしてること。」 ハッキリと言うと、スネイプは呆れを通り越して、屈辱と怒りを露わにしていた。 「明らかにお前に対して悪意のある行動だ。あんなの許されるべきじゃない。」 「それをダンブルドアに報告しろと?今度は誰にそう言えといわれた?」 「他の誰でもない。僕自身だ。」 「いい加減にしてくれ。お前の偽善まがいに付き合ってほど暇じゃないんだ!」 スネイプはの言葉を振り切るように冷たく突き放した。 も負けじと言い返した。 「だったら何で言い返さないんだよ?あんなことされて嫌じゃないのか!?」 スネイプは応じる素振りも見せず、扉はバタンと閉められた。