今日もふくろう小屋へ行って手紙を出そうとして、一旦立ち止まった。 手紙を出し続けて一ヶ月過ぎるのに、未だに返事は来ない。 もう、書かない方がいいのだろうか。震わす封筒にしわが走る中、を覆う影が現れる。 「出さないのかね?」 「あっ・・・オンスロットさん。」 「ここの通路は狭い。ここに立ち止まっちゃあ他にも利用したい子が困るぞ。」 「すみません・・・。」 この人の言う通りだと更に顔が暗くなる。 端に寄って道を行かせたが、オンスロットは未だにを見つめている。 居心地悪そうに「何か?」と訊ねた。 「この後、時間はあるかい?もし嫌じゃなければお茶でも飲んでってくれ。 この年になって遊びに来てくれる子がいなくてな・・・・・・。」 「僕でよければ、ぜひ。」 このまま自分の寮に戻る気になれなかったは心の内でガッツポーズした。 何か言われてもいろんな理由はつけられる。 ふくろう小屋から移動して、城から少し離れた場所に建っている歪な家の前に足を止めた。 カエルレウスが体を丸めての方をチラリと見るも、すぐに目を閉じた。 家はハグリッドほどの大きさではないが、中に入るとあらゆる物が壁一面に飾っている。 あれは、これは何だろうとは視線を忙しなく動かす。 オンスロットは笑いながら「大した面白いもんがなくてすまんな。」と紅茶を用意した。 「私はね、生徒の案内役ではなく、やむを得ず授業が受けれない子に勉強を教えるんだ。」 「やむを得ず・・・?」 「家庭の事情や本人の体調が著しくない、とかね。 今はそういう生徒はいないからいいんだがね。」 そうだったのかと思うと同時に、何故自分にそれを話したのか疑問に思った。 すると、さっきまで浮かんでいた笑顔が消えて、 オンスロットの視線は紅茶の水面に映る自分を見落とす。 「幼馴染がいてね。私が君と同じ年でいつも決まった場所で遊んで魔法界に憧れを抱いた。 『もうすぐ十一歳になればホグワーツに通える』―――だが、手紙が来たのは一通だけ。」 「え・・・・・・。」 「私は魔法族で、彼は普通の一般人という事実を突きつけた。 何故自分だけと嘆いて、私が何を言ってもだめだった。それ以来、会わなくなってしまった。 私はただ純粋に、彼と共に勉学を、苦楽を共に過ごしたかった・・・。」 オンスロットの話が偶然にも、今置かれている自分たちに当てはまっている。 自分たちも、二度と会わないことになってしまうのかとカップを握りしめた。 「だが、君たちならまだ間に合う。」 「え。」 はドキッと息が止まった。 気づいていた・・・?いつ?思うように頭が働かない。 オンスロットは困った顔して「すまないね。」と詫びる。 「立ち聞きするつもりはなかったんだがな。 ダンブルドアから君のことを大まかなことしか聞いてないからね。 家庭の事情はともかく、あんな形で入学することになって、 生きた心地がしなかっただろう。」 「・・・僕・・・・・・学校に行けて喜んだ・・・・・・一番行きたかったのはチュニーなのに! なのに、僕は・・・!」 あの時、涙をたくさん流したのに、また勝手に溢れてくる。 どんなに瞼を擦っても止まってはくれない。 オンスロットは、これ以上やったら目に悪いと、やんわり手首を掴んだ。 「喜ぶことは悪くないぞ。 は、その喜びをその子と分かち合いたかったんだろう?」 「うん・・・・・・階段が動いたり・・・ゴーストがいたり、すごいご馳走が出るって・・・。」 オンスロットは嗚咽するの背中を摩った。 しわが多い手がとても大きくて、温かくて、は不思議と安心していた。 「あきらめるのはまだ早いぞ。君は、君のやるべきことをやればいいんだ。」 *** 「さあ!皆、一列に並んで!右手は箒の上に!」 飛行訓練の授業では、今回もグリフィンドールとスリザリンが合同で行われている。 ポカポカと暖かい気持ちいい天気には持ってこいである。 皆がそれぞれ自分の箒を手にしているのに対し、 スネイプは未だに上がってこない箒に焦りと苛立ちを露わにしている。 クスクスと笑うのが聞こえてグリフィンドール勢を見た。 既に終えているジェームズとシリウスがスネイプを盗み見しては何かを耳打ちしている。 嫌な予感しかしない。 「私が笛を吹いたら地面を強く蹴ってください。 箒はぐらつかないように押さえて、二メートルぐらい浮上して!」 笛の音を合図に地面を蹴った。 一瞬ぐらついたが、ピタリと指定された高さに止まれた。 他の皆が次々と浮上していく中、スネイプの体はゆっくりと浮上している。 その時、ジェームズは先生の視線が別のほうへ向いているのを見計らって ボール状の物を取り出した。それが何なのか分からない。 ジェームズが箒に集中しているスネイプに向かって投げたのを見て、 は一直線に飛んでいった。 ボールがスネイプに直撃する前に、それを取ろうと手を伸ばすが、 箒の柄がそれにぶつかってしまい、の体が大きく弧を描いて宙に投げ飛ばされた。 悲鳴を聞いてスネイプが異常に気付いた時には、は地面の上に伏せていた。 「!しっかりして!」 「触れてはだめですエバンズ!」 意識はある。ただ、身体中のあちこちが悲鳴を上げている。 痛い箇所がたくさんありすぎて、うまく言えそうにない。 頭上から「何があったんです?」と質問を投げられ、 は下りていたジェームズを目にすると、ボロボロの体を起き上がらせた。 「お前・・・・・・セブルスをこうするつもりだったのか。」 「は?何を根拠に?」 「一歩間違えば、セブだけじゃなく他の皆にも被害が出るとこだった・・・・・・。 人にケガまでさせるのもイタズラだっていうのか?」 「違う!僕は―――!」 「お前も、知ってたんだろ?友達なら、何で止めないんだよ? 怪我人出させてまで人気を集められると思ってたのか!? 行動を弁えろ!―――『グリフィンドールの恥知らずがッ!』」 隣に立っていたシリウスを睨む。 シリウスも何の異議も唱えず、視線を逸らしている。 同じグリフィンドール生たちでさえ、非難の色をした目で見ていた。 ジェームズは噛み潰したような顔をして、次第に俯いた。 「もういいです、ロードヴァリウス。貴方を医務室へ連れていきます。 授業は一旦中止です。ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラック! 貴方たちは私が戻ってきたらついてきなさい。 それまで箒に触れたり、勝手な行動したらこの学校から出てってもらいます。」 は「大丈夫?」と心配の声をかけられながら 先生に抱き上げられた形で医務室へ移動された。 大声を出したのが災いして激しい痛みが襲う。 あの二人の顔を見ていないが、今回の件で相当参ったはずだ。 マダム・ポンフリーの小言を生活音として、残りの授業の分までベッドの上で過ごした。 お腹が空いてきて、閉じていた瞼を開く。 水の他に、申し訳程度にラッピングされたお菓子が置かれていた。 辛うじて動かせる左腕を伸ばした。リボンで巻かれただけのチョコレートだ。 だけど誰が? 「―――!」 「リリー!」 駆け寄るリリーに、は笑顔を見せる。 身を案じる声をかけられるかと思いきや、「ばか!」と浴びられた。 「聞いたわ。何の道具か分からないのに一人で突っ込むなんて!」 「いや、あの、考えるより先に体が動いちゃって・・・・・・。」 「そう、じゃあそろそろ話をつけてくれないかしら、お二人さん?」 そう言って、スネイプが医務室の扉を開けて、渋々といった足取りで入ってきた。 リリーは「今してくれなきゃダメよ!」と腕組みして、距離を置いて仁王立ちしている。 こっちはベッドの上、スネイプはすぐ後ろにリリーという逃げられない状況である。 何ともいえない空気に、どう言おうか目を泳がせる。その時、小さな呟きを確かに聞いた。 「・・・・・・うん?」 「お前は、本当に馬鹿だ。僕なんか・・・庇って・・・・・・。」 「ああ。でも、自分を卑下するのは違うんじゃない?」 「何・・・?」 「これは、僕が勝手にやったことなんだから。」 「―――馬鹿。」 スネイプは視線を逸らすも、その目は冷たいものではないとリリーには分かっていた。 2017/11/05