エバンズ家で暫しリリー達と過ごしたは、一度実家に戻ることを選んだ。 リリーは止めることもなく、「また明日ね。」と笑顔で手を振って、 姿が見えなくなるまで見送った。 家に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。 父に張り飛ばされるのを覚悟し、扉を開けた瞬間、ぎゅっと体を抱きしめられた。 「遅かったじゃない***!館内に魔法かけてもいないし、心配したんだから!」 「お、おばさん・・・?」 叔母と呼ばれた女性はを下ろし、強気な表情にホロリと涙が零れた。 「何で、ここに?」 「もちろん、あなたに会いによ! 兄さんは私が来るのを許してくれないからサルビアに通してもらったの!」 叔母・ジェニファーは元々ロードヴァリウスの血を引く魔女であるが、 マグルの日本人男性と結婚したことで血を裏切ったとみなされ、家系図から抹消されたのだ。 当時、既にこの家の主となっていたの父・エリオットは実の妹にも慈悲を見せなかった。 ジェニファーは相手が誰であろうと間違ったことを正さなければ気が済まない性格で、 魔術よりも体術寄りな彼女はとても男らしい。 殆どが野心家でエリオット側である親族は「一族の恥さらしだ。」等と罵倒しているが、 は正義感溢れるカッコいいジェニファーが好きであった。 「父さんに見つかったら無事じゃ済まないよ?」 「大丈夫!サルビアに聞いたら今、仕事だし、あと二日間は帰って来ないわよ。」 父が家を空けるのはそんなに珍しいことではない。 しかし、最近二日や三日も帰って来ないことが多い。 からすれば父と顔を合わせずにいられるので気は楽だ。 「お父さんのことが心配?」 「まさか!いなくてせいせいするよ! そんなことよりまた話を聞かせてよ、ジェニーおばさん。」 「あなたったら悪い子ね。」 そう言いながら悪戯な笑みを浮かべる叔母に、はニヤリと返した。 僅か数時間で幕を閉じた家出だが、道中で出会った同い年の少女が、 ずっと頭の中でチラついていた。 *** は父がいないことを良いことに、玄関から堂々と外を出てリリーの元へ向かった。 また会えたことを想像していなかったからか、リリーはの両手をぎゅーっと握りしめた。 「それで、お父さんと仲直りしたの?」 「いいや、いつもと変わらないよ。」 それどころか本人はいなかったし・・・・・・。 「そうなの?帰るって言うからてっきり・・・・・・。」 帰ろうと思ったのは父に対する気持ちを改めたわけではない。 自身も、その辺はよく分かっていなかった。 「でも、君がまた明日って言ったから、今も会えたし・・・・・・。」 「まあ!」 リリーはとても嬉しそうに顔をほころばせた。 「にこれあげる!」 リリーが後ろに隠していた何かをに見せた。 形からして花冠に見えるが、肝心の花は蕾の状態で茎の地味な色で目立っていた。 「見てて。」 すると、蕾がゆっくりと白い花を咲き開かせた。 それは一つだけでなく、二つ三つと一気に開いていく。 白く彩られた冠をの頭に載せた。 赤みのかかったこげ茶色の髪が濃いのもあって、見栄えがよかった。 はじっとそれを見つめ、その冠をいじったり、編み込まれた部分をじっくり見ていた。 自分が思っていた反応とは違う行動をとるを見て、リリーは寂しげな表情を浮かべた。 「もしかして・・・・・・気に入らなかったの?」 「そうじゃなくて・・・・・・こんな素敵なもの、初めて見たからさ。 リリーは、君も・・・・・・魔法使いなの?」 純粋に満ちた瞳がリリーをじっと見た。 一瞬、目を丸くするも、リリーの頬が次第に赤くなっていく。 「もう!ったら・・・・・・でも、喜んでくれたのならわたしもうれしいわ。」 は純粋に訊ねただけなのだが、リリーはそれをお世辞言葉として受け取った。 「頭の中で強く願ったの。満開に咲きますようにって。」 「へえ・・・・・・これ、いつから出来るようになったの?」 「さあ?気付いたらそうなってたの。 もしかしたら本当に、魔法使いかもしれないわね。」 リリーは得意げにふふと笑った。 その笑顔も、花が咲き開いたのと同じだと、はぼーっと見つめた。