学校のローブに着替え、はいそいそと新一年生の列の中へ紛れ込んだ。 数が多いため、この中からかきわけてリリーとスネイプを見つけるのは困難だった。 蝋燭に照らされた寮のテーブルから夢中で見つめる視線が集まる中、 マクゴナガル先生(さっき会った先生だ)が次の名前を呼んだ。 「エバンズ、リリー!」 目の前でリリーが震える足で丸椅子に腰掛けたのを見守った。 その視界の隅にスネイプがいたのを捉えた。 マクゴナガル先生が組分け帽子をリリーの頭に被せた。 「グリフィンドール!」 リリーは安堵の笑みを浮かべて、歓迎に沸くグリフィンドール生の席へ急いだ。 はスネイプをチラリと見た。 温かく迎えられたリリーを愁いを帯びた表情で見つめていた。 それから点呼が続き、あと十数人の生徒が残った。 マクゴナガル先生がスネイプの名前を呼んだ。 帽子をスネイプの頭に載せた瞬間、「スリザリン!」組分け帽子が叫んだ。 スネイプはリリーのいる席から反対側へ移動した。 監督生バッジを胸に光らせたプラチナブロンドの髪を下ろしたスリザリン生が スネイプの背中を軽く叩いた。 寮を選ぶならスリザリンだとすっぱくして答えた彼の背中が、以前よりも小さく見えた。 「ロードヴァリウス、!」 本来ならば、ロードヴァリウスの次に来るのは実の名前。 だがは、母がくれた名前で通していくつもりだ。 これが、ダンブルドアに話した『親への反抗』である。 マクゴナガル先生が組分け帽子を頭に載せた。 すると、帽子がの脳内に直接語り掛けてきた。 「ほう、ロードヴァリウスの子か・・・・・・。  エリオットよりもリーシャ寄りだが、君はスリザリンに入る気はないのだろう?」 「(最初はね・・・・・・でも僕には考えがあってあの寮に入るつもりなんだ)」 「父への対抗心か、それもよかろう―――スリザリン!」 寮が決まってスーッと何かが零れ落ちたような感覚だった。 はグリフィンドール席を横目で見た。リリーが残念そうな、寂しげな表情を浮かべていた。 スリザリン生のテーブルへ移動し、後方側の空いてる席に座った。 スネイプとの距離は遠く、声をかけるのを断念した。 ダンブルドアの一声で現れたご馳走を見て、は顔を輝かせた。 すごい!早速チュニーに教えなきゃ! そう思った瞬間、ホームでペチュニアの何ともいえない表情を思い出した。 四人の中で一番ホグワーツに行きたがっていたのはペチュニアで、人一倍も努力していたのも彼女だ。 その本人だけがここにいない。 今、ペチュニアがどうしているのかと思うと、沸き上がっていた心が徐々に沈んでいった。 校長の話を聞き終わるまでも、一つの視線が時折を一点注いでいた。 *** スリザリンの談話室は大理石に囲まれ、地下にあるためかジメジメと冷たく陰気な印象を受けた。 設置されている窓から湖内の生物が優雅に泳いでいるのが見える。 まるで、隔離されているかのように何故だが息苦しい。 普段の行動から湖の生物をじっくり観察するところだが、今はそういう気分になれそうになかった。 ドアを開けると、既に自分の荷物が部屋に用意されている。 はローブを着たまま、ベッドの上にダイブした。 後から同室者であろう足音が聞こえたが、の意識はそのまま落ちていった。 熟睡していたはスッキリとした気分で目覚めた。隣のベッドを見た時には誰もいなかった。 談話室へ下りると昨日チラッとだけ見た監督生と目が合った。 「やあ、よく眠れたかな?」 「ええ、まあ、えっと・・・・・・。」 「ルシウス・マルフォイだ。失礼だが、君はロードヴァリウスの者で間違いないかな?」 「それ以外に、何か?」 何かを探ろうとしている言葉に、の眉がピクリと動いた。 「気を悪くしたならすまない。  君の家は純血の魔法族と聞いているが、あまり表舞台に出たがらないのでね。  どういった人物か知りたかったのだよ。」 「確かに、目立つことはしてませんね。」 ロードヴァリウスの人間は皆、純血ではない。 マグル生まれの魔女の母の間に生まれた自身は半純血であり、 何世紀も過去に何人か、半純血やマグルと結婚もしているため、 純血主義の魔法族の間での評判はあまりよくなかった。 (本人もどういった家系か詳しく知らされてはいないが) だがその話も時代と共に風化して、それを知る者はほぼいない。 自分の家のことを大好きとはいえないが、自分の母まで指摘されたのかと思うと、 の機嫌は悪くなった。 「僕も、ロードヴァリウス家も完全な純血とは言えないでしょうが、  自分なりにスリザリンに相応しい行いをするつもりです。」 上級生を相手にツンとした口調で返しただが、 ルシウスの表情は依然として平常心で、口元を緩めていた。 「なるほど、中々面白いことを言うな君は。あと一つ気になることが・・・・・・。」 「あらルシウス、もうその子と仲良くなったの?」 「ああ、ナルシッサ。」 ルシウスの腕に寄り添うように近づいたナルシッサは、彼と同じブロンドの髪で中々の美人だ。 一目見てキレイだという印象がついたが、リリーほどではないなと心の何処かで思った。 「ナルシッサ・ブラックだ。」 「初めまして。」 「そう畏まらなくていいわ。って言ったわね?私のことは気軽にシシーと呼んでちょうだい。  一緒に大広間へ行きましょう。」 「でも、友達が・・・・・・。」 「それはセブルスのことかな?」 どうして知っているんだと、ルシウスを凝視した。 (しかも既に名前で呼んでいる) 「宴の中、しきりに彼のことを気にしていたのを見たのでね。  セブルスならもう大広間へ向かったよ。」 自分を見ていた視線の正体はルシウスだったのか。 それと同時に見られていたのだと、は顔を真っ赤にした。 ナルシッサはクスクスと笑った。 何故か上級生二人と大広間へ行き、まるで連れて来られたような感覚で席についた。 ここでやっと、セブルスと顔を合わせた。 「おはよう、セブ。」 「ああ。」 「今日からどんな授業やるか楽しみだね!」 スネイプの返事は「ああ。」の一点張りだった。 きっと朝起きるのが苦手なんだなと自己解釈し、朝食が始まったのを機に声をかけるのを止めた。