あれはまだわたしが貧民街に身を寄せていた頃。 その当時は何の苦も世間の恐ろしさを知らない『金持ちの甘ちゃん』を悪意のある目で見ていた。 だがその思考を変えたのは、今亡きジョナサン・ジョースターだった。 「ぼくは・・・・・・父のためにここに来た・・・・・・。だから蹴る瞬間!  君にも父や母や兄弟がいるはずだと思った・・・・・・。君の父親が悲しむことはしたくないッ!」 襲って来たわたし達を一蹴したジョースターさんの攻撃には確かに手加減が加えられていた。 精神的にも本物の紳士である彼を気に入ったわたしは、ジョースターさんについて行くことを決めたのだ。 「・・・・・・大丈夫かな?」 「ジョースターさん、『』って・・・?」 ジョースター邸に着くまでの間、彼が熱く語ってくれたという東洋人は一体どんな女性か想像を膨らませた。 (何故彼女がジョースター家にいるかは、その当時は知らない) 「もしかしてあんたが・・・って子かい?」 実際に会った彼女は今よりずっと大人しく、外見からしても『病人』だと言われてもおかしくはなかった。 人見知りな彼女がこっそりとジョースター卿の側を離れずにいる姿は、本当に小動物のようだ。 「おい!行くぜ嬢ちゃんッ!」 さっきまで足を震わせていたというのに、負傷したわたしを先に屋敷から脱出させた。 (思いっきり背中を押された時は一体何が何なのか・・・) あの時、ジョースターさんと共にディオを倒すと決めたその意志は――― 彼女もジョースター卿の意志を受け継いでいるのだと理解した。 それは、『現在(いま)』も変わらない―――。 ≪―――スピードワゴン、どうしたの?≫ 「いや・・・・・・何、初めて君と出会った頃を思い出したのだよ。」 ≪・・・もう50年も経つんだね。≫ 「、君だけが『あの頃と変わらない』のを気に病むことはない。  エリナさんもわたしも・・・・・・君が無事でいれば―――それで満足なんだよ。」 俯くの両肩をそっと抱きしめた。こうして彼女に触れるのも懐かしい。 わたしの言葉を聞いては顔を上げ、≪私もエリナさんとスピードワゴンに会えて・・・とても幸せだよ!≫ とびっきりの笑顔で迎えられたメッセージに、わたしもつられて微笑んだ。 「スピードワゴンのじいさんに〜ッ!遊びに来たぜー!」 「おい!勝手に入るとは無礼だぞ!」 「平気平気!何回か出入りしているからさ。」 玄関先から聞こえる元気ありすぎる声に、思わず息を吐いた。 「やれやれ・・・また騒がしくなるな。」 ≪・・・だね。≫ 孫同然であるジョセフとその友人のシーザーを出迎えるべく、と共に玄関先へ向かった。 ・・・もう少し長生きするのも悪くないな。