気づけば自分は、何故か走っていた。
制服のまま、まるで迷路のように入り組んでいるところを回り、
時には行き止まりにぶつかったり、とても忙しない。
まるで、『何か』から逃げてるように思えた。
そう意識し出した途端、後ろから何かが迫ってくるのを感じた。
足音はない。けれど、私の後ろを誰かが追いかけていることは理解できる。
何故?
私を追う理由は?
当然疑問は浮かぶわけだが、夢の中の私はそんな余裕すらない。
後ろの誰かに捕まってはいけない気がして、後ろを振り向く勇気が出なかった。
顔すら見ていないが、かなりの執着心を感じる。それも、歪なもので。
どのくらい走ったのか、息切れが徐々にひどくなっていく。
ああ、捕まりたくない―――早く・・・早く―――ッ!
私の意志とは無情にも等しく、あっさりと腕をつかまれた。
自分より手の大きい、ゴツゴツしていてしっかりしている。男の手だ。
あろうことか、私の手首を掴んだまま引っ張られ、手の甲に唇とやや硬い肌の感触が来た。
一体何のいやがらせだ?
このまま終わりだなんて嫌だ。せめてその顔を拝ませてやる。
「っ―――・・・。」
・・・起きた。どうして肝心なところで目を覚ますんだろう。
辛うじて見えたのは高そうなスーツと、その背後に別の影がいたくらいだ。
顔を見れても、それはそれでこわいかもしれない。現実に同じ顔がいたら嫌だし。
といっても所詮、夢なのだが。学校へ行く頃には、もう夢のことは忘れているだろう。
***
自分が性癖の強い殺人鬼であるせいか、『彼女』にしようと女性を無意識に追ってしまう。
夢の中でもそうであるように、今、自分は一人の女生徒を追っている。
経緯は分からないが、視界に映るその女は黒髪で、あの制服はぶどうヶ丘高校のものだ。
一向に顔を見ることはできないが、一般の女子がつけたがるようなものではない
黒いグローブからチラリと手首が見れただけで十分だった。
あのきめ細かな健康的な肌は美しい手であることに違いない。
早くあの邪魔なグローブをとってこの目で見たい。
それにしても、諦めの悪い女だ。かなり粘る。
自分は体力はそこそこあるが、全速力で走るタイプではない。
一体いつになったらあの手に会えるんだッ!
途中、迷路に迷い込み、何度か姿を見失ったときには思わず舌打ちした。
しばらく経って、少女の速度が落ちてきた。こんなにも走り回ったんだ。疲れが出て当然だ。
この好機を逃さんとばかりに、ついに―――その手を掴んだ。
(そして、すぐに黒いグローブを取り払った)
ああ・・・・・・やはり思ってた通り、きれいな肌をしている。爪の手入れも完璧。
ただ、目立たないところに薄っすらと傷あとがあったのは残念だが、
薬を塗ればいつか消えていくだろう。
連れて帰りたいが、私にはまだ『彼女』がいる・・・・・・ああ、どうしようか。
このまま離すのも惜しい。頬ずりしてかまわないだろう。
なんて素晴らしい夢なんだ!
大抵現れる女は叫びまわったり、喚くやつばかりで鬱陶しくてたまらないが
この手首の持ち主は私に腕を掴まれているにも関わらず、かなり冷静だ。
しかし、じんわりと手のひらが汗ばんでいるからか、緊張を隠せていない。
女の顔など興味はないが、目の前に少女のことが少し気になった。
ゆっくりとこちらを振り向こうとした時、セットしていた目覚ましのアラームが響いた。
ただの夢ならいいのだが