*途中からDIOのキャラが崩壊します。
スター・プラチナの拳にひびが走ったのを見て、『勝利』を確信した。
だが次の瞬間、ザ・ワールドの脚に亀裂が走る。
そして全身に―――今までにない激痛を感じる暇もなく、体が弾けた。
その後―――気づけば私は立っていた。
少しの間、記憶が飛んで意識がなかったが、私は生きているのか・・・?
てっきり太陽の下で照らされ放置されたとばかり思っていたが、
運命はまだ、私を生かしてくれるようだ。くつくつと笑みが出てくる。可笑しくてしょうがない。
百年経った今もジョースターの血族に大きな屈辱を与えられたが、まだ手は残っている。
自ら埋め込んだ『肉の芽』がある限り、このDIOが指示を出せば生き残りの手下は手なり足なり盾となる。
また一からやり直しか・・・フッ、だが、それもいい。今度こそ、以前よりうまくやるとも。
その時こそはジョースターとの因縁を断ち切れねばなるまい。
しかし、このDIOが立っているこの地はどこだ?エジプトの外景とは明らかに違う。
ふむ・・・・・・ザ・ワールドに新たな能力でも発現したのだろうか?
まあいい、ちょうど今は夕暮れ。まずは仮宿となる『城』を探さなくては・・・・・・。
その時、目線の先に人影を捉えた。
普通の人間では見ることもできないであろう遠距離にいるその姿を見て、目を細める。
嗚呼、やはり運命は逆らえないのだな。
顔つきは前よりも大人びて、服装も変わっているが、あの瞳は変わらず。
―――ジョースター家に続き、己の道を阻む与えられし者。
宿敵―――もう、そう認識していい。
まさかここですぐにお見えになるとは予想外だが、すぐに―――今度こそ芽を摘むべきだと動く。
未だにこちらに気づかない彼女の背後へ回り、ゆっくり息を吐いた。
すると、どうだ。思っていた通り、間の抜けた顔で振り返ったではないか。
スタンドを使うのはもう暫く後だ。何事もなかったように歩くの後ろをついていき、わざと音を鳴らす。
早歩きになったその女の顔は不安に包まれており、最初に館で会った頃を思い立たせ、謎の違和感を覚えた。
あいつらしくもない・・・・・・何だこれは・・・?
だが、前を進む彼女から緊張と不安からふつふつと怒りに変わっていくのを悟る。
そうでなくてはつまらん。さて、そろそろ表に出るとしよう。
『お前は相変わらず百面相だの、七面鳥の様だな。』
すると容赦なく足が飛んできた。スッとわざとらしく手を掲げてマナーのない女だな、と吐き捨てた。
姿を露わにした自分を見て、まじまじと凝視してくる。目を見開く宿敵にまた笑みがこぼれる。
『久しいな、声なき好敵手よ。このDIOの力をもってして尚生きていたとは本当にしぶとい女だ。』
手を伸ばして私の頬を撫でた―――が、直に肌に触れることはなく、そのまま貫通した。
思わず、自分の手を凝視した。これは一体どういうことだ?この女が何かしたのか?
だが、この様子からしてそうには思えない。いや、むしろ、何故そのような目で見てくる・・・?
「『貴方は一体何者だ?』」
女のスタンドによる『再生』で放たれた言葉に拍子を抜かれた。
このDIOに足を上げて、ただで済むと思っているのか?
『くだらん冗談だな。先ほどまで命を削って殺し合ったというのを忘れたと?
戦いに慣れすぎてとうとう気が狂ったか?』
「・・・『はい?』『あなたこそ』『何を言っているのか理解できないんだが』」
「理解できない?・・・・・・ならば聞くが、仮に全くの赤の他人である私にスタンド能力を利用し、
つぎはぎな言葉を出して不自然ではないか?」
「・・・!!」
『スタンド』という単語を口にした途端、不審なものから警戒する目に切り替わる。
「『スタンド使い』・・・『あんたも吉良吉影の父親』『吉良吉廣』『と』『似たような奴か』・・・・・・。」
『キラ・ヨシカゲ、ヨシヒロ・・・・・・ふむ、どれも聞かぬ名だな。その二人もスタンド使いか?』
「『ああ』『どちらも亡くなったけどね』『それで』『私に一体何の用で来たんだ?』」
完全に白を切るつもりらしい。おまえがその気なら、こちらも本題に入らせてもらう。
『、オレのことを知らないというならば思い出させてやる―――ザ・ワールドッ!』
スタンドを発現させた同時に能力を発動させ、横へ移動する。
すると何故か、も此方に視線を移動した。待て、どういうことだ・・・確かに時を止めたはず―――!
もう一度能力を使った。だが、一向に歯車がカチリと嵌った感覚がない。も動きを止めていない。
思わぬ事態に、承太郎に致命傷を受けてしまった時のように動揺を隠せない。
『どういうことだ!何故能力が発動しない!?貴様!一体何をしたッ!?』
「『何もしてないよ・・・・・・』」
何を言ってるんだコイツは?と見てくる女に、これ以上の屈辱はない。
『力』が発揮できないのであれば、直接やればいい―――ッ!
『このDIOを侮辱するのはそこまでだッ!死ね―――ッ!』
飛んでくるザ・ワールドの拳に対し、あろうことか生身で受け身を取ろうとしている。
そんな舐めた態度をとるのも今日までだ!しかし、その拳はの腕を貫通して、勢いのまま通り過ぎる。
今度はラッシュで試したが、それも当たらない。何故、何故―――!
「『えーっと』・・・『先を急いでいるんで・・・・・・』」
『待て!何故勝手に帰ろうとしているッ!』
「『ええ〜・・・』『先にちょっかい掛けてきたのそっちじゃん』『私、門限あるし』」
自分やスタンドが通用しないことをいいことに、はこのDIOを厄介払いしようとしている。
混乱するDIOを差し置いて、門限だの何だのとほざく小娘にますます苛立ちを募らせた。
何故スタンド能力が使えないのか、一つの因縁を断ち切るかどうかはこの際どうでもいい。
敵と認識されるどころか、不審者と同じ括りで邪険な扱いをされるなど腹正しい。
それだったら百年前の頃の反応がまだ初々しくてマシである。
『そう言ってこのDIOから逃げられると思ったか!波紋使いだろうが所詮人間!
モンキーが吸血鬼を追い越せるものか!』
「(さっきから何を言ってるんだ、あの人・・・何で波紋使いだって・・・・・・
この世に帰って来れたのが嬉しすぎてハイになってるのかな・・・?)」
『ムッ!また良からぬことを考えたな!いい加減諦めろッ!』
「『そう言われても』『私』『居候の身だから』『遅くなるわけにはいかない』」
『知っている。向かっているのが空条家なら尚更このDIOも顔を出さねばなるまい。』
「(うわあ・・・承太郎さんのことも知ってるの・・・・・・)」
だが居候先は空条家でなく、山岸という聞きなれない名前だった。
女性がいるからと念を押されたが、空条家にホリィという承太郎の母親がいただろうに。
一応話を聞くと、年頃の娘だから、という。
本来ならその娘を人質なり何なりと手を尽くすが、それができない今では仕方ない。
つくづく悪運に強い女だ。
「『話なら明日聞くから!』『じゃあね!』」
が一方的に無理やり話を終わらせたが、私がそう易々と引き下がると思っているのか?
こうしている間に承太郎たちに連絡を入れるのでは?と目を光らせたが、
そのような行動を一切起こすことなく就寝した。このDIOがいるのを忘れているな、この女・・・。
吸血してやりたいが、通り抜けては意味がない。舌打ちして、素直に山岸家から離れた。
せっかくの活動時間だというのに・・・忌々しい。
しかし、この体・・・・・・人だけでなく家の中まで通り抜けるなど・・・・・・まるで幽霊ではないか!
もう間近で見ることない朝日が昇ってきた頃、
今の自分にはそれは通用しないと知るのはその後からだった。
二日目
今日は珍しく暑苦しくない朝を迎えたが、窓に変なものが浮かんでいなければ気持ちのいいものだろう。
『フン・・・その顔だと昨日のことを忘れていたようだな。』
うん、夢だと思ってたよ。
『まあいい、貴様の媚に免じて中に立ち入れなかったのだ。
昨晩の約束、ちゃんと果たさせてもらうぞ。』
由花子さんはご両親と明後日まで家には戻ってこない。
今にして思うと、居候の身と恥じていいからついて来ればよかったと、
由花子さんの誘いを断った数分前の自分を呪った。
休みを貰って一日目にして早々に嫌な時間を過ごすことになると予感がしてならない。
突然現れた外人の幽霊に追い回された挙句、自分について思い出せと、
頼んでもいないのに一人でペラペラと話し出した。
あの時は急いでて口が滑ったとはいえ、一応あちらも律儀に守ってくれたのだから
(相手は霊だからあまり信用できないが)止めないでおこう。
***
気分転換がてらに戸締りをしっかり確認してからいつものカフェ ドゥ・マゴでアイスコーヒーを頼んだ。
当然、DIOもついてくるが、話を制止されないだけで良いのか、嫌な顔せず喋るのをやめなかった。
そんなに思い出してほしいのか・・・でも自己主張が強いから、ただ聞いてほしいだけかもしれない。
『―――ということになる・・・、聞いてるのか?』
うん、聞いてる聞いてる、と飲みながら頷く。
本当は半分しか聞いてないけど。でも、ようやく長い話が終わったか。
『しかし、よくその身で物を頼んだな。筆跡だけでは不便だろうに。』
≪一応ここでは常連だからね。≫
DIOがいるとはいえ、人が多いところでは安易にスタンドは使えない。
それにこの店の人は優しいからついつい甘えてしまう。
ただ常連客が多いため苦手な知り合いとも遭遇してしまう。そう、今まさに―――。
「か。一人でいるとは珍しいな。山岸由花子と一緒じゃないのか?」
≪ご家族と旅行中で私は留守番です。≫
「水入らずとはいえあの女なら連れていくと思うんだが、まあいい。最近変わったことはあったか?
できれば詳しく。」
そう言いながら断りなく席に座ってはスケッチブックを取り出す岸辺露伴。
どうしてこの人は会う度に何かに遭遇したという前提で絡んでくるんだ?
ちょっと、公共の場でスタンドを使わないでくださいよ。
あとDIOさん、あとでちゃんと説明するから下世話は結構です。・・・この際訊いてみるか。
≪金髪で筋肉隆々な二十代に見える195cmの外人男性の幽霊って見たことあります?≫
「まるで付き合いたい男の理想条件のようだな・・・ってそう睨むな。真面目に聞く。
にしても幽霊、だと・・・?杉本鈴美のような奴に会ったのか?どこで?」
≪昨日の霊園の前です。≫
『私の許可なしに勝手に打ち明けるとは無礼だな、貴様。』
後ろでDIOがごちゃごちゃと喋ってるが、ここはスルーに徹した。
念を押すが、DIOは幽霊だ。
周囲はもちろん、幽霊であった鈴美さんを直接何度も見ていた露伴先生でさえ見えていない。
(見えていればとっくに好奇の視線が集中している)
「振り向いてはいけない小道じゃあないのか・・・。」と呟き何やら考え込んでいる。
思ってたよりも真剣に考えているようだ。
「君は承太郎さんの話によると百年以上も前の時代に吸血鬼やゾンビと戦っていたってな。
波紋とやらを使っていたし、幽霊を見るのもそう少なくないだろう。
だがこの日本、杜王町の場合・・・・・・今までぼく達が遭遇した幽霊は殺人鬼―――
スタンド使いの被害者と奴に加担する者。
他のところでは同じかわからんが、スタンド使いは無意識にひかれ合う・・・・・・
君がいう幽霊もそのどちらかじゃないのか?」
被害者か加担する者か―――・・・あれ、もしDIOの話が本当だとすると・・・・・・
『、話がある。』
ぞくりと背筋に何とも言えないものが過ぎる。横目で腕組するDIOを見る。
無表情でこちらを見下ろすが、初めて会った時と違った冷ややかなものを感じた。
スタンド使いであるが、手を出せない幽霊とばかり思っていた自分の脳に警報が鳴りだす。
これは本気で、彼の言う通りにしないと―――。
「おい、どうした?」
≪すみません、用事を思い出したのでこれで。≫
「なっ・・・待て!結局話の続きはどうなるんだ!?肝心なところで区切るんじゃないッ!」
ごめんなさい露伴先生、いつか会ったときにコーヒーでも奢るんで。
2017/08/15