心地良い天候に恵まれ、青空の下で芝生の上であぐらをかきながら父と戯れる弟と私。
幼児時代にまだ自我が目覚めていなかった為、その頃の記憶はほぼ無いに等しかったが、
この時父との温もりが確かにあったのを覚えていた。
「・・・あれ?」
それから何年も月日が経過して何かことに気付いた。
今思えば―――あの時、母を傷つけてしまったかもしれない。
「ねえ、お父さんは?」
***
ジョージさんを刺した際、手に濡れたその血を石仮面につけたディオ。石仮面から針が飛び出て脳を突き刺す。
謎の光が放った瞬間、銃弾がディオを襲い、ガラスを突き破ってそのまま動かなくなった。
「ジョジョ・・・・・・・・・・・・。」
「と・・・・・・・・・とうさん。」
弱々しく震える手で我が息子の頬を撫でる父をジョナサンが支える。間違いなく急所だ。
・・・どうして彼が死ななければならないの?やっと・・・やっと助かったと思ったのに・・・。
「わ・・・・・・わしの責任だ!ディオ・ブランドーの父親を流島の刑にしていれば!」
「ディオ・ブランドーの父親?」
警部が20年前について語り始めたが、今の私の耳に入って来なかった。
目の前にいる親子が限られた最後の会話を交わす姿を、目を離さずにいた。
「ジョジョ。ディオを恨まないでやってくれ・・・・・・・・・。わたしが悪かったのだ・・・・・・・・・・・・。
実の息子ゆえにおまえを厳しく教育したけれどディオの気持ちからすると
かえって不平等に感じたのかもしれない・・・・・・・・・・・・。それが彼をこのようなことにしむけたのだろう。」
「ディオはブランドー氏のそばに葬ってやってくれ。」と言うジョージさんにジョナサンはゆっくり頷いてみせた。
「・・・そこにいるかい?」
この時まさかジョージさんに呼ばれるとは思いもしなかった。
「こちらに来てくれないか?」躊躇してすぐに動けなかったが、ジョナサンが後押しするように手招きした。
だって・・・そこは家族だけの輪で・・・私なんかが入る余地なんて・・・。
「・・・最後まで君を支えることができなくて、すまない・・・。短い間だったが・・・・・・・・・
本当の娘を持った気分だ。」
「・・・っ・・・。」
嗚呼・・・そんなこと言わないで。言ってしまったら私は―――。
「余計なことだが・・・ずっとここにいてもいいと願ってしまったわたしを許してくれ・・・。」
貴方が謝ることなんて一つもない。むしろ感謝の言葉しかない。
声が出ない代わりに、精一杯の笑顔を浮かべた。
既に頬を伝っていた大粒の涙を、ジョージさんは優しく拭ってくれた。
「悪くないぞジョジョ、・・・・・・。子供達に囲まれて死んでいくと・・・・・・・・・・・・いう・・・・・・・・・のは。」
頬から滑り落ちたジョージさんの手が床に冷たい音を立てる。
もう、この人の命の灯火は完全に消えたと分かった瞬間、拭ってもらった目から再び涙が溢れた。
「何で君のところはお父さんがいないの?」
「離婚・・・・・・・・・したってことでしょ?」
「―――、お父さんからよ。」
「元気かい?。」
父親がいないことに大きな不満とか、そういった感情を持っていなかった頃だったからか―――
10年ぶりに聞いた父の声は、もう覚えていない。
「フッ切れた。」―――そうだったに違いないが、偶然テレビで映される『現代の父娘』をテーマに
特集される番組を観る度、『うらやましい』とひっそり泣いていた。
私はずっと求めていたんだ。『理想の父親像』を―――。
「(嗚呼、どうして・・・どうして私は声が出ないの・・・!?)」
今まで人に声をかけるのを躊躇っていた自分が、今ではとても憎らしい。
「う・・・う・・・!あのやさしさがこんな・・・・・・・・・間違いだったんだ!死んでしまったらおしまいじゃ!」
「ちがうッ!あの父親の精神は・・・・・・・・・息子のジョナサン・ジョースターが立派に受け継いでいる!
それは彼の強い意志となり誇りとなり、未来となるだろうぜッ!!」
『強い意志』―――その『受け継ぐ者』がジョナサンなのだ。
私と同じように涙を流す彼の瞳に、後悔の念はなかった。
「死体が・・・ディオ・ブランドーの!!死体がないッ!」
えっ―――。
「警察のだんな窓から離れろーッ!!」
振り返った瞬間、窓の側に立っていた警部の頭部が奴の手によって引き裂かれた。