邪悪な妄執を漂わせるタルカスと対峙している中、水面から額に傷を負ったブラフォードが飛び出した。
続いて水面から顔を出すジョナサン。何らかの発想でこの修羅場を活きたのだろう。
「ディオ様が・・・・・・・・・・・・我に生命を与えてくださり、
この男と闘わせてくれたことに感謝とこの上ない名誉を感じる!この男は勇者の素質十分!」
「もう水中というハンデの上での闘いは終わりだァァ!今度は能力と能力!技と技!精神と精神!
きさま最大を尽くし、このブラフォードと闘えィィィィ!」
ディオに操られながらも生前の強烈なる自分の生き方を記憶しているようだ。
それは闘うことへの、暴力への『誇り』―――。
「また髪の毛攻撃か―――ッ!!」
その黒髪は大きく広がり、ジョナサンの全身に絡みつく。彼の105kgの体を持ち上げ、木に縛りつけた。
「ま・・・まずいッ!『波紋』は体の手や足など末端部分からしか出せないッ!」
ガンジがらめにされては両腕がつかえない。
身動きが取れないジョナサンに向かってブラフォードは剣を振り上げる。
ジョナサンはそこに目を付け、鋼を伝わって波紋を流した。
ブラフォードの右腕がドロドロと溶け落ちる。それに構わず襲って来るブラフォードを連打で応戦する。
「やったッ、この音!いつも聞く『波紋』の流れる音だ!」
スピードワゴンさんが思わず拳を握る中、全
身から煙を噴き出たせていながらもブラフォードは剣を持って立ち上がる。
「おれは・・・黒騎士ブラフォード。これしきの痛み!へこたれぬわッ!」
「・・・・・・・・・・・・!!」
「見苦しいぜブラフォード!そんなに醜くなってまでもよォ。
屍生人としての殺意が消えず襲ってくるなんてよ!」
空中で体をひねりながら飛んで来るブラフォードにジョナサンは動こうとしない。
「何故!?」皆がそう驚かずにいられない場面に、
ブラフォードの剣が頬を少しかすった程度のところで止まった。
「あなたは今・・・『これしきの痛み』と言った・・・・・・。
『痛み』・・・と。あなたは『痛み』を感じている!」
そんなブラフォードの足元に枯れかけている花が満開に咲き始めた。
それは彼の肉体が崩れつつあること・・・同時に『痛み』を取り戻していた。
つまり人間としての『痛み』―――
波紋は彼のゾンビとしての肉体を滅ぼすと同時に高潔な人間としての魂を甦らせた、
とツェペリさんは言う。
「だからぼくはあなたとの戦いを止めた・・・。だからあなたは剣の攻撃を途中で止めた!」
さっきまで怒りと憎しみに歪んだ顔は、母親と会話する息子のようにやすらいでいた。
英国人じゃないため彼らについて歴史は存知ないが、
現代では考えられない壮絶な人生を送って来たのだろう。
「フフフ・・・この『痛み』こそ『生』のあかし。
この『痛み』あればこそ『喜び』も感じることができる。これが人間か・・・。」
「奇妙なやすらぎをおれは今感じる。もう世への恨みはない・・・。
こんなすばらしい男にこんなあたたかい人間に最後の最後に出会えたから・・・。」
「我が女王のもとへ旅立とう・・・・・・。」己が持っていた剣を前に差し出す。
「三百年たった世界の友人よ。おまえの名をきかせてくれ。」
「ジョナサン・ジョースター。」
「ジョナサン・・・我が女王よりたまわったこの剣に刻んであるこの言葉をおまえに捧げよう!
Luck!(幸運を)」
「そして君の未来へこれを持って行けッ!」自分の切った指の血でPLUCK(勇気をッ!)と付け足す。
まるで役目を終えたと言わせるようにブラフォードの甲冑だけが取り残された。
奇妙なものだった。いくら恨みをもって処刑されたといえど、高貴なる心を持っていた。
それをドス黒い狂気に変える石仮面―――それを操るディオを倒さねばとジョナサンが拳を握る中、
その後ろにいつの間にかタルカスが迫っていた。
「フン。」
「このこしぬけが!」無情にも暴言を吐き捨て、
ブラフォードの遺品とも呼べる甲冑を粉みじんに蹴り飛ばした。
ちょっ・・・友人じゃなかったのかよ!!
「絶望の悲鳴を発せ!MUOOHHHH!!」
大剣によって地面が割れ、私達がいる岩場も崩れていく寸前だ。
タルカスが迫ってくる中、足元にある葉を見てツェペリさん達と共に波紋を流す。
前方に二人、後方は私が巨大化した葉っぱの固まりを支える。
「つかまれ!スピードワゴン!ポコ!」
二人がそれぞれしがみついた同時に地面を蹴った。
人間の体は微量ながら磁気をおびていて生命磁石となっていると考えられる。
波紋疾走はそれをパワーアップさせ、葉っぱ自体を生命磁石としてくっつけたのだから驚きだ。
「にいちゃんたち・・・まさか人間なの?それとも天から降りてきた神様の使い!?」
「まったくだぜ!常識が麻痺しちまって疑問にも思わなかったが、
いちばんの謎はあんただぜツェペリのおっさん!
あんたはいったいどこでこんなことおぼえたんだ!?」
ツェペリさんが神妙な顔をしているのを見て、
修業中に彼がそれにまつわる過去を話してくれたのを思い出す。
ツェペリさんが若い頃、インドの港町で『医者』と名乗る男から教えてもらった
トンペティ師のいるチベットへ向かった経緯を話したところで、
「ジョジョには決して伝えるな。」と真剣な表情で『あること』を語り出す。
「わが師トンペティの予言―――恐らくこの旅で『その時』が来るだろう。」
不安が記憶と共に脳裏に過ぎる。風を切る音に混じり、奇妙な音が響く。
これは波紋のものではない。タルカスが身を投げて来たのだ。
波紋が流れていた為、当然奴は弾かれるが、このままでは地面に叩きつけられてしまう。
「た・・・建物へ飛びうつれッ。」
何とか騎士たちの修練場という遺跡に着地できたものの、
石壁に突っ込んだタルカスは骨が砕かれているのに関わらずこちらへ向かって来ている。
コイツを片付ける前にポコを避難させなくては―――。
「ジョースターさん、何か出てくるぞッ!」
鎖で繋がれた首輪が彼の首にはまると、そのまま空中にぶら下がる。
内側から閉められたドアの向こうにタルカスの姿が―――。
「チェーン首輪デスマッチ!48人を葬った・・・わしのもっとも得意とする競技のひとつよ・・・・・・・・・・・・。」
このドアを破壊しようにも分厚すぎる。
あくまでも『対生物』の効果を持つ『波紋法』ではあのチェーンをも切断することは不可能だ。
ジョナサンには不利すぎる。何とかして入れる場所は―――・・・。
「(明り窓・・・!)」
とても小さいが、私かポコくらいなら入れそうだ。
けれど・・・。
「(できる・・・だろうか、私が・・・)」
「う・・・う・・・おれはいつも傍観者よ・・・。何も出来ねえ!なんにもしてやれねえ。」
スピードワゴンさんの嘆く言葉が私の胸に突き刺さる。
それと同時にただ見ているしかなかった自分を思い出す。
「(今まで私は何をして来たんだ・・・!!)」
ブラフォードが口にしていた言葉があった。
"『痛み』こそ『生』のあかし。この『痛み』あればこそ『喜び』も感じることができる"
―――私は『痛み』を恐れていた。
明り窓に入った時には後ろから何か言っていたが気にしている暇はない。
前に出ると後ろから誰かが飛び出して来た。えっ、ポコ・・・!?
「街は!姉ちゃんは!おいらは守る!」そう言ってレバーがある方へ走って来た。
その少年をタルカスが見逃すはずなかった。
「おあああああっ!!」
ジョナサンは自らの首輪についている鎖を引っ張り、
私はポコを守るため発芽した種を彼に付けて『蔓の鎧』にする。
もう自分のことだとか、そんな余裕はなかった。
ビス―――
「「うわああああーっ。」」
「―――ッ!!」
タルカスの巨大な脚が重く私の体に圧し掛かる。石壁に激突した私の視界は完全にぼやけていた。
「(こわい・・・のは・・・痛み、じゃない・・・・・・・・・)」
ガグンと音が聞こえた。
嗚呼、ポコがレバーを押したんだと理解した時、もう思考がはっきりしていなかった。