「ついに。ついに来たか、あの予言の時が。」
「これが運命ならあるがまま受け入れよう!」
「―――うわあああああああっ。」
スピードワゴンさんの叫びを目覚ましに視界に飛び込んで来たのは、
切断されたツェペリさんと血を噴出すジョナサンだった。
***
ゲボッとのどに詰まった血を吐き出した私に気付いたスピードワゴンさんが
「気付いたかッ!?」と顔を近づける。重傷(多分)の私を抱えてくれたようだ。申し訳ない・・・。
「(それよりも・・・一体何が!?)」
私が気を失っている間、かなり血生臭いことになっていた。
どうしてツェペリさんが・・・!?残酷すぎる光景に言葉を失っていると、苦しげな声がもれる。
ジョナサン―――いや、彼だけでなくツェペリさんもまだ息があったのだ。
「わが究極の・・・・・・わが・・・究極の・・・わが究極の奥義・・・ジョジョに捧げる。」
タルカスが近づく中、上半身を引きずりながらツェペリさんはジョナサンに生命エネルギーを注ぐ。
ジョナサンの服が破れ、筋肉も盛り上がったように見える。
「フフ・・・・・・・・・JOJO。わたしの生命エネルギー全てを捧げた・・・ぞ。」
一気に老化したツェペリさんからゆらりと泳ぐ光の粒。
彼の目に『生』が薄くなっている事実に息が止まった。
「てめえらふたりとも。わしの足底でズダボロと化せい―――ッ!」
だがその足がツェペリさんの体に触れることは叶わず、徐々に徐々にとつり上げられていた。
鎖を引っ張っているのは、まぎれもないジョナサンだ。
「ヌハハーッ。マヌケーッ。その首輪をひきちぎる気か、人間のてめえがか。
ディオ様に力をさずかったこのわしでさえてこずる鋼鉄をよ!」
しかしそれに反してジョナサンの掴む鋼鉄の輪が次々と折れていく。
「うおおぉぉぉぁぁ―――!ッゆるさんタルカス!」
完全に引き千切ったことで鎖が無様にもタルカスの頭上に落ちる。
「そのゆがんだ精神!醜悪なる狂気!心の奥底まで魂をディオに売り渡したな!」
「URRRRRYYYYYYY―――ッ!」
巨体なタルカスなど、今のジョナサンからすれば敵ではない。奴の腕を手刀で切り崩したのだ。
今までと違う圧倒的な強さ。それはツェペリさんの生命波紋を宿しているからだ。
「歴史の闇に永遠に沈め!」
「ほざけーッ。てめーこわっぱがァーッ!」
悪あがきであろう奴の牙がジョナサンの目元に突き刺さったが、攻撃は緩めない。
雄叫びを上げながらタルカスの顔に両拳を放つ。
嫌な鈍い音を立てながら溶けていく奴の体は完全に消滅された。
けれど、それでツェペリさんが生きられるという保障はない。
弱々しい呼吸が更に私の涙腺を弱くする。
「あなたがいなくなったら、ぼくらはどうすればいい?」と涙するジョナサンにツェペリさんは叱咤する。
「悲しんでいる場合か!」と・・・。そして安らいだ笑みを浮かべて「早く行け。」と急かす。
彼の言うことは最もだ。けれど、私にとってあまりにも酷だ。
助けられるはずの命を・・・また救えなかった・・・!!
「・・・わしの死の運命を止められなかったと悔やんでおるであろうが・・・
責任を感じる必要はないぞ・・・。」
項垂れる私の顔を上げ、ジョージさんがしてくれたように涙をふき取った。
「よく覚えておくのだ・・・。
おまえを受け入れたジョースター卿も、わしも・・・ただ死んで終わる訳ではない、と・・・。」
「―――わしは最後に自分の全てを伝えた・・・・・・・・・・・・。ジョジョ、、おまえ達はわしの希望だ!」
私達の手を合わせたそこから僅かに残る温かみがある。それがもうすぐ、消える・・・。
「―――そしてわしはこれからおまえ達の中で生きる・・・。」
握ってくれた彼の手が滑り落ち、ポコの涙声が静かに響く。
焼かれていくツェペリさんの亡骸から沸く煙を空まで上がっていくのを黙って見つめた。