「来おい!ジョジョ!」 体をふるい立たせ、前に出ようとした彼をダイアーさんが止める。 「奴への恨みは自分が先に晴らす権利がある。」とディオの前に出る。 止めたいところだが、それでも彼は制止しないだろう。幾重にもぶれる姿から軽やかに地から飛び上がる。 まるでスローモーションのように、 ジョナサンの実力を確かめるため行ったあの動作がディオの前で繰り広げられる。 「そんなねむっちまいそうなのろい動きでこのディオが倒せるかァー!?」 ダイアーさんの両足を掴みかかるが、それも全て計算済みである。 「かかったなアホが!稲妻十字空烈刃!」 ディオの両手は彼の足によって塞がれているため防御は不可能。 「この必殺技は攻守において完璧だ。」とスピードワゴンさんが言う一方、その腕が突然止まってしまう。 いや、凍っていた―――。 「無駄無駄無駄無駄ァーッ!」 「はっ!・・・気化冷凍法!」 「相手の体内の水分を一瞬にして気化させることから熱を奪い凍らせる!  体を凍らせれば血液の流れから作る波紋はディオには決して流れることはない!」 長い解説をありがとう、スピードワゴンさん。忘れかけてたから助かった。 けれど瞬時に全身まで凍らせることができるなんて・・・・・・まさか、成長してる!? 「貧弱貧弱ゥ・・・。ちょいとでもかなうと思ったか!マヌケが(・・・・)ァ〜!  貴様らは犬死にするためにここへ来たのだ!よってもっとも残酷な死を贈ろう!」 「やっ、やめろーッ!」 たった一握りで凍った彼の体はガラス細工のように砕けた。 唯一冷凍化が進んでいない頭部がバラの中に落ちる。思わず唇をかみしめた。 「ジョジョ、行くぞ!次に死の忘却を迎え入れるのはお前よ!」 視線を外した隙に、そこを狙って1本のバラの棘が奴の右目に突き刺さる。 「フフ・・・は・・・波紋入りの薔薇の棘は・・・い、痛か・・・ろう・・・。」 フッと笑みを浮かべた瞬間、ついに頭部まで凍って散っていく。 奴の目から波紋が効いている証の煙がふいている。 「よ・・・よくも!よくもおれの顔に疵をつけたなァ・・・!」 ―――そうだ。ダイアーさんもただ仇を討つために命を散らしたのではない。 悲しみを堪えるジョナサンはスピードワゴンさんから剣を受け取る。 「お前の気化冷凍法!それを如何にして破るか(・・・・・・・・)!どうやって波紋を送り込むかッ!  その突破口!今、ダイアーさんの波紋を帯びた薔薇が教えてくれたぞッ!」 「波紋を込めて!この勇者ブラフォードの幸運(ラック)と勇気(プラック)の剣で斬る!!」 右目を押さえながらディオはテラスの方へ飛び退く。 「カエルの小便よりも・・・・・・下衆な!」ディオの怒声が呻く。 「下衆な波紋なぞをよくも!よくもこのおれに!」 「いい気になるなよ!」怒りをむき出し、牙をむく。そして次々とゾンビが沸いて来た。 「てめえら全員!亡者どもの餌だッ!青ちょびた面を餌としてやるぜッ!」 「出たな!奴のこの世のどんな悪よりもドス黒い性格が!  これまでの冷静さやダンディな態度など単なる仮面にすぎねえ!  これが奴の本性!初めて味わった奴の屈辱的波紋初体験って訳よ!」 なるほど。通りでディオが生前に腕をつかまれた時、違和感を抱かなかった訳だ。 妙な納得をしたところでコイツらをどう片付けようかと、改めて向き直った。 「絞り取ってやる!きさまの命を!」 「浄めてやるッ。その穢れたる野望!」 雑魚(ゾンビ)を相手に奮闘する中、ジョナサンとディオの戦いが始まった。勝負は一瞬。 互いにゆずらない一方、彼が積んで来た戦闘経験を生かし、剣の刃がディオを上半身まで真っ二つにした。 ゴボゴボとディオの口から奇妙な音がもれる。 「ついに倒したぞ!ディオを!」 「・・・・・・違うね!ゴボゴボ・・・・・・マヌケどもが〜!」 「なっ!」 「こ・・・これは!?」 奴の気化冷凍法が剣を握る両手をふさぐ。 それを機に、ディオの残った片手の指がジョナサンの首に突き刺さる。 「コリコリ弾力のある頸動脈に触っているぞォ、ジョジョ!このあたたかい弾力!ここちよい感触よッ!」 すかさずジョナサンは蹴りを繰り出そうとするも膝から凍らされ、残りの脚にまで凍らされてしまう。 「これからつまんでいるこいつにちょいと疵をつけ、  きさまの生命とおれの吸血鬼のエキスとを循環交換してやるのだからなァ!」 「少しの間そこの青ちょびた連中をよこすなよ!」その言葉通り、ゾンビが次々とキリがない。 応戦するスピードワゴンさんも「何とかならねえか!?」と私を見る。それはこちらも同じ気持ちだ。 「(種を飛ばすにもコイツらが邪魔だし、下手すれば彼に当たる・・・!)」 だとすれば『最終手段』しかない・・・!けれど間に合う(・・・・)かどうか―――。 「(・・・あの剣の先・・・火が伝導して溶かしてる・・・!?)」 幸いディオはまだ気付いていないが―――・・・。 「(有言実行・・・!)」 私の目の前に立ちふさがるゾンビ共に向かって種を弾く。 キレイに並んでいた奴らは一気に脳をぶっ飛ばされ、その『種子弾丸(シードブレッド)』はまっすぐディオに目掛けて飛んでいく。 「なんとッ!波紋法でパワーアップさせたとはいえ、あの威力・・・!」 「このままディオに行けば・・・!」 「・・・フン!」 そう簡単にはいかず、あっさりとかわされた。だけど・・・それでいい(・・・・・)。 「何ィィイイイ!?」 「なっ・・・何だありゃあ!?」 発芽の更に上を行く『成長』―――地下に忍ばせた種を念入りに練って波紋を込めて放置(・・)しておいたのだ。 名付けて『巨樹(ジャイアントツリー)』。・・・うん、まんまだね。 異常発達した木から伸びる蔦がディオに絡みつき、その反動でジョナサンを突き放した。 「やった・・・!」思わずスピードワゴンさんが歓喜の声を上げるが、ディオはまだ生きている。 「詰めが甘かったな・・・・・・ー!!」 「(う、げっ・・・!)」 ディオの傷口から切断された右腕に向かって血管が伸び、その右腕が私の首をつかんで引き寄せられた。 「このディオ、おまえの独特な思い付き、素晴らしいものがあった事も認めよう!!」 苦痛にたえる中、奴を拘束していたはずの蔦だけでなく、『巨樹』までも凍っていた。 ここまで成長させたのはいいものの、 完全に木まで達してしまった時点で帯びていた波紋効果が切れてしまったようだ。 「だが残念だ。おまえはもう少し賢い女だと思っていたんだがな。」 「(外道に言われても嬉しくないし・・・!)」 抵抗しようと奴を睨みつける。首を絞められ、弱々しい呼吸が続く。 「さあ・・・このディオを選ぶか、ジョジョを選ぶか・・・心して答えるんだ。」 ・・・たったこの短い間、コイツの瞳は随分と邪悪と化していた。 その目は何でも見抜くから、本当に大嫌いだった。だけど、今では懐かしい(・・・・)。 「(そういえば・・・・・・まだあの時(・・・)の返事(かり)、してなかったな)」 何故ディオの瞳に恐怖していたのか、おかしくて笑ってしまいそうだ。 その表情を悟られる前に、奴の右腕に軽く添えるように手を動かす。 男の目が細く笑んでいたが、すぐに大きく見開く。 「(蔓の波紋疾走(ヴァイン・オーバードライブ)ー!!)」 「こっ・・・こいつ!?」 ツルで覆われている拳でその右腕の骨を折る。「(これは腕をつかまれた『借り』・・・!)」 更にその拳でディオの胸倉をつかむ。思わず、ニヤリと笑った。 「ッ・・・何故だッ!何故おまえはおれに・・・ッ!」 何か言おうとしているが、その隙を黙っておくほどお人好しではない。 「最後の最後に敗北するのはどちらかーっ。今わかるぞディオッ!!」 「WRRRRRYYY!!」 グローブに火をつけたジョナサンの拳を、我に返ったディオが冷凍化した両手で受け止める。 その際、完全にディオの手から逃れた。その拳はディオの胸を突き抜け、波紋の流れる音が轟く。 「おお・・・おっ!おれの体がッ!おれの体が溶けていくゥ!こ・・・・・・この激痛!!この熱さッ!!  何世紀も未来へ!永遠へ・・・・・・・・・・・・生きるはずのこのディオがッ!」 「散滅すべし、ディオ!」 しかし、安堵させんと言わんばかりにディオの目から体液が発射されるも、 致命的な負傷をすることなく逃れた。 最後の悪あがきを終えたディオはそのまま崖へ落ちていく。 その行方を見つめるジョナサンの頬に一筋の涙が流れた。 私は彼を背に、今だはびこるゾンビの一掃に取り掛かった。 1888年、12月1日のことだった―――。