私はトンペティ師に、共にチベットへ行くことを伝えた。
「君が同行するのに拒みはしないが・・・。」言い辛そうに口を動かす。
「じゃが、ジャースターの者達には言わんでいいのか?
お主を誘ったわしらが言うことではないが・・・。」
≪いいんです。打ち明けたら反対すると思いますから。≫
彼らに同伴すること―――それは『波紋法』を極めるため。でもただ単に鍛える為ではない。
エリナさん達を守るためにだ。
「(ジョナサンには・・・本当に申し訳ないのだけれど・・・)」
彼が守り抜いたものを、私も守る必要がある。その為に今の私では、まだまだ役不足だ。
もっと力が必要なのだ。
「お主がよくても・・・・・・その男はいい顔しておらんがの。」
ハッと我に返り、背後に誰かがいるのか理解し、静かに息を吐いた。
拳を震わせているのは何を隠そう―――スピードワゴンさんだ。
黙っていても、いつかは言わなくてはいけない。しかしこのタイミングは流石にまずい。
何せ空気がピリピリしていているからだ。
どうしようかと思考をめぐらせると「おれは・・・。」彼の口が開く。
「おれはあんたやジョースターさんみたく波紋は使えねえ・・・だが!」
私の胸倉をつかんで自分の目線を合わせられた。鮮明と彼の瞳が見える。
「鼻っから足手まといになる気はねェッ!おれはなァッ!
あんたがジョースターさんの友人だから言ってんじゃねェんだぞッ!!」
「・・・!!」
「の意見に口出しはしねェ・・・。だがエリナさんに黙って行くようなら、おれは一生許さねェ。」
生半可な気持ちではない。共に戦って直感で理解した。
目を見開いたままの私を解放し、深い溜息をついた。
微妙な空気の中、トンペティ師が軽く咳払いしたのをきっかけに、その人に向き直る。
≪あの、さっきのこと何ですが―――。≫
「ああ、おまえの好きなようにしなさい。我々はいつでも君を歓迎する。」
嫌な顔一つせず頷くなんて、寛容の広い方だ。
≪お手数かけてすみません。≫トンペティ師に伝えるつもりが、
「あんたがストイックすぎるんだよ。」スピードワゴンに突っ込まれた。
・・・もう『さん』付けなしでいいよね?
***
あの後、私は引っ叩かれる覚悟でエリナさんに伝えた。
私の母のように声を上げるのではないかと思っていたが、
彼女は至って冷静で凛とした目で私を見ている。
「おれも一緒に叩かれに行くぜ。」とついて来たスピードワゴンが後ろに控えている。
暫しの沈黙が続く一方、エリナさんの口から静かに息が流れる。
「本当にあなたは無茶ばかり・・・。」
「・・・。」
「そういう所だけジョナサンと似ているのだから・・・。」
「・・・・・・。」
区切りながらチクチクとした言葉を続けて、また静寂。
わずかに口元が震えているのを見て、息が止まりそうだ。
すると―――
「二度も待たされるのは―――これで最後です。」
・・・それって―――。
「いっ・・・いいのかよ、そんなあっさり・・・!」
「ただし一つだけ守って下さい。この子を見届けるまで・・・側にいると―――。」
エリナさんのお腹に宿る新たな生命。
ジョナサンの意志を『受け継ぐ者』―――その生命の誕生を見届けなければ、という使命感がわく。
私が頷くのを機に、エリナさんが「この子の名前なんですが・・・。」と私に視線を投げる。
「がつけてくれませんか?」
どうして私が―――?そう筆記で聞く前にエリナさんは答えた。
「ジョナサンが・・・あなたについて多く語ってくれました。
私にとって大切な人であるあなたに、彼が救ったこの生命に名を授けていただきたいのです。」
彼女が言うには、この赤子は母親に守られ、その母は絶命したと言う。
自分の母親も同じように死んでいるとジョナサンは言い、赤子を連れて逃げろと急かされた。
その命が今、エリナさんの腕の中ですやすやと眠っている。
「(16歳で名付け親かあ・・・)」
改めるとかなり責任重大だと思うのですが・・・なんて、もう言える流れではない。
その赤子が『女の子』だということで悩みに悩んだ末、ふと脳裏に浮かんだ名前に決定した。
≪エリザベス―――はどうかな?≫
「エリザベス・・・・・・ふふっ。この子も気に入ったみたいね。」
「ねえ、エリザベス。」エリナさんの言葉に反応してその子はキャッキャと笑った。
それだけなのに、何故か涙が溢れて止まらない。
「・・・しっかしよく許しましたね。もっとたくさん条件出すと思ったんだが・・・。」
「まあ。わたしもそこまで冷酷じゃありませんよ。ただ・・・。」
「?」
「これ以上限定したら・・・本当にいなくなってしまうかもしれないと思ったまでです。」
何故だろう・・・。エリナさんとエリザベスに一生頭が上がらなくなるかもしれない。