日に日にエリナさんの体内に宿る生命が成長していく中、
ストレイツォさんが「エリザベスを育てる。」と引き取ることになった。
それを機に彼はエリザベスを抱えて、エリナさんとスピードワゴンと写真撮影をした。
本当はこのままで終わるつもりだったが、突然「も来なさい。」とエリナさんに声をかけられる。
「(ううっ・・・でも・・・・・・)」
「ったく、なに躊躇してンだよ。もう家族の一員だろ?」
やれやれといった感じでスピードワゴンに腕を引っ張られる。
すると「大事に抱えて下さいね。」の声と共に、私の両腕の中に重みが来た。
至近距離で見るエリザベス。まだまだ小さいのに、こんなに重みがあるんだ。
「笑うのですよ。でなきゃエリザベスが悲しみますよ。」
わかってるよ、エリナさん―――。
また込み上げて来そうになる涙をこらえ、カメラと向き合う。
シャッターが下りた時、エリザベスが私に向かって微笑んだ気がした。
***
ストレイツォさん達が乗った船を見送ってから、どのくらい経ったのか。
エリナさんの出産に立ち合ったものの、今の私が出来るのは彼女を見守るだけ。
スピードワゴンはうろたえるばかりで邪魔扱いされたあげく、室外に追い出されていた。
「(エリナさん・・・がんばって・・・!!)」
母さんは言っていた。
赤ちゃんを産むことは想像以上に疲労するのだと・・・
どんなに苦しくても子を成す女性の体は丈夫にできているのだと―――。
無意識に二つの懐中時計を握る。時間との戦いが続く中、室内に元気な産声が上がる。
「おめでとう御座います!元気な男の子ですよ!」
産まれたばかりの自分の赤子を抱き上げ、その子に微笑みながらエリナさんの口が開く。
「この子はジョージ・・・。ジョージ・ジョースター・・・。」
最愛の夫の父親の名―――・・・何だか私まで涙が出て来た。
「あなたも休んだ方がいいですよ。」そのお言葉に甘えて軽く息を吸って、吐いた。外の風が心地良い。
「(無事生まれたよ、ジョナサン・・・)」
ウサギの懐中時計に触れてふと、それを見て思わず瞬きした。
目元をこすってもう一度見てみると、私の右手だけが透けていた。
「(なっ・・・何だこれっ・・・!?)」
よく見ると右手だけでなく、足のつま先から肩へと部分毎に消えていく。痛みはない。
あたふたやっている内に透過は進んでいく一方。私の存在すら消えていくのかな・・・。
気がつけば自分はエリナさんのいる部屋へ向かっている。
すると追い出されていたスピードワゴンと目が合うなり、私の全身を見て驚愕の声を上げる。
「一体どうしたんだ!?何があってそんなっ・・・!」
「(・・・最初に会ったのが貴方でよかった・・・)」
「待ってろ!すぐ医者を呼んで―――。」」
けれど私は彼の服を引っ張って制止する。
体が消え始めて刻一刻と迫る中、なぐり書いたメモを渡した。
≪多分、私はここには戻って来れない。≫
「何バカなこと言ってんだ!まだ間に合うッ!」
≪エリナさんに直接伝えられなくてごめんなさいって―――。≫
「だっ・・・だめだッ!!ーッ!」
私の為に涙を流してくれてありがとう、スピードワゴン。
最初から最後まで迷惑ばかりかけてゴメン・・・。
そして、エリナさんも―――・・・。でも。
「(私は幸せ者だ―――)」
一瞬思った。あまりにも偶然が良すぎるこの時に限ってこの事態。
まるで私の役目は終わった、と言ってるようなものに感じる。・・・私の考えすぎだろうか。
私が消えた後、自分の行き先はどこなのか・・・彼らは今後どうなっていくのか・・・。
けれど、今の私に不安はない。
彼はここにいるのだと―――二つの懐中時計を見て、笑みを浮かべながら―――私は消えた。