ここは、私がいた1889年から49年後のイギリスだった。
ちょうどジョージU世が生まれた季節でもある。
どうやら私はジョースター邸の屋根から転落したらしく、
一時は病院へ運ばれたが大事には至らなかったので、この館に戻って来たようだ。
波紋法を身に付けたとは言え、恐るべし・・・。
「あなたがいなくなってちょうどその日に現れたのです。あの頃と全く変わりなく・・・。」
だんだん語尾が小さくなるエリナさんに、どう言葉をかけたらいいのか悩んだ。
エリナさん達は49年も時間を過ごしているのに関わらず、私だけが16歳のまま・・・。
しかしその不穏な空気を破るようにドアが大きく開かれる。
「何だよエリナばあちゃん、いるじゃんか!何で玄関まで出迎えてくれなかったんだよ!」
体の大きい青年は声も大きく、何だか拗ねている様子だ。
そこで我に返ったエリナさんが小さく咳払いした。
「紹介します。あの子はジョナサン・ジョースターと・・・そして私の孫のジョセフです。」
『孫』―――言われてみればどこか、ジョナサンと似ている。
私がマジマジと見れば、相手は軽く首を傾げる。
彼は「なあ、その子って・・・。」エリナさんに視線を寄越す。
「彼女がです。わたしやスピードワゴンさん達の古くから親しい友人です。」
ぽかんと口を開けて「何だそりゃ。」と言わんばかりの表情を見せる。
まあ、そりゃあそうなるんだろうな・・・。
「が当時の姿のままでいるのかはわたしにも分かりません。そしてジョセフは―――。」
「おばあちゃん。」低いトーンで呼ばれ、ハッと顔を上げると何故かこちらを睨んでいる。
もちろん、その視線の先はエリナさんではない。それが数秒で顔を逸らし、部屋を後にした。
隣りでエリナさんが「気にしないで下さいね。」と優しい言葉をかけてくれるが、正直・・・不安でならない。
***
再びジョースター家との同居生活が始まり、最悪な雰囲気でスタートした。
食事の時もロクに目を合わせず、軽くあいさつ(と言ってもほとんど頭を下げているが)をしても無視される。
私が目覚める間に、何か癇に障るようなことでも仕出かしてしまったのだろうか。
全く検討がつかない。エリナさんがどう言っても彼は知らんぷりするだけ。
「(まいったなあ・・・)」
元々私は男―――特に年の近い異性との会話はほぼ無いに等しい。
学校で度々見かける恋愛とか、そういった類には当てはまらない男女の共同活動だって考えられない。
偏見―――という訳ではない。
ジョナサンとは5つも年が離れていて、私にとって兄弟的な気持ちで付き合うことができたので
大きな壁にはならなかったが、今回はどうだろうか?
でもエリナさんの家族である訳だから、早く険悪ムードを追っ払いたい。
これ以上迷惑かけるわけにもいかないのだ。
「。スピードワゴンさんからですよ。」
エリナさんに手渡された一通の封筒。
差出名が『ロバート・E・O・スピードワゴン』とキレイな字で書かれている。
内容は「無事でよかった。」とか「元気にしているか?」という文中で埋まっていた。
30年ほど前にテキサスで油田を発掘し、『石油』の他に『財団』というものを設立したんだと言う。
今はその財団で医学などを研究しているみたいだ。すげェなこの人。
近い内に、私の失語症について会いたいと言うから何だか悪い。
「(私がいない間にこんなことがあったんだ・・・)」
次に記されている「ジョセフは少しいい加減な所があるが、仲良くやってくれ。」に思わず苦笑する。
今の現状を伝えようか・・・・・・いや、だめだ。これは私だけの問題。
それをスピードワゴンにまで巻き込む訳にはいかない。
さて、どうしたものか・・・。