買出しに行ってその帰り道にジョセフ氏と会った―――と言うより見かけた。
その時距離があったので此方には気付かなかったが、
一番の理由はジョセフ氏の周りを不良集団が囲んでいたからだ。
「(友達・・・じゃあないよなあ、絶対・・・)」
不穏な空気であるのは一目瞭然で、そのままゾロゾロと何処かへ消えた。
ジョースター邸から逆方向だ。
もうすぐ夜になると言うのに・・・大丈夫か?
***
夕食時を過ぎても帰って来る様子がない。
あんなに湯気が立っていたおかずはとっくに冷めている。
「帰りが遅くなるのは珍しいことじゃないですよ。」そう言うエリナさんだが、
料理を片付けているところで軽く溜息をついていた。原因は明白だ。
「気にすることじゃない。」と言うがエリナさんを心配かける訳にはいかない。
妙な責任を覚えた私はこっそり外へ出た。いくら暑い季節でも夏の夜は涼しい。
効率よく見つけるため屋根を転々と跳びながら移動する。
それらしき姿が見当たらない一方で突然、謎の怒声が脳内に響く。周囲に人影はない。
また例のか―――。
再び移動を続けるとようやく先程の音源地へたどり着いた。
「こンのガキが!手間かけさせやがって・・・。」
既に何人か倒れているが、5対1では不利すぎる。
頭から血を流すジョセフ氏の口からなんと、『波紋の呼吸』が聞こえた。
後ろから押さえつけようと襲う男を殴り飛ばしたが、その一発が限界のようだ。
私が何とかしようとしたちょうどに前方の不良がどこからか取り出した鉄パイプを振り落とすが、
ジョセフ氏に当たることはなくなった。
「なっ・・・何なんだこりゃぁぁあああ!?」
蔓が巻きついて、その鉄パイプをへし折る。
更に『種子弾丸』を放ち、その男と近くにいた残りの仲間に命中した。(一応手加減はしている)
呆気に取られるジョセフ氏の腕をつかんで無理やり体を立たせた。
「だっ・・・誰だアンタ!?」
今の私の顔には蔓が何重にも巻き付いてマスクのように模っている。
周りから見れば完全に不審者だが、最初から素性を明かしたら話がややこしくなりそうなので、
あえてこの姿にしたのだ。
「クソッ・・・早く追えッ!!」
後方から掠れた声が聞こえたが、今の状態じゃ走れることすらままならない。
見慣れた町並みが視界に映るのを頃合いに、走るスピードを落とす。
両膝を抱えて肩で息をするジョセフ氏と修業した私と比べ、
どちらが体力を多く消耗しているのかが分かる。
彼の傷を負った頭部に触れた瞬間、ビクリと体を震わせる。
「なっ、何だよ・・・!?」
警戒するジョセフ氏を無視して波紋を流す。
既に流れ出てしまった血液を復元させることはできないが、傷をふさぐことくらいなら出来る。
「頭が軽い!」痛みがなくなり、どうなっているのか頭部を手の感触で確かめているジョセフ氏。
「(これでもう大丈夫・・・)」
用が済んだ私は悟られないよう一歩ずつ下がるが、「ちょっと待て!」とすぐ止められた。
「ひょっとしてさ・・・・・・お宅、おれン家に居候してる女だったりしない?」
「(バレとる―――ッ!!)」
早く去った方がいい。だが今ここで動いてしまえば肯定しているようなものだ。
「(私は違う!!人違いだ!!)」大袈裟に首を横に振る。
「けど似すぎる・・・つーか、ほとんど同じなんだよなあ・・・・・・そのスカーフ。」
「(うわあああ・・・!!)」
急いでたせいで後ろに結んでいたスカーフがマスクから飛び出ていた。
あの時バッチリとジョセフ氏に見られたから、まだ記憶に残っていたようだ。
くそぉ・・・変装した意味ないじゃんか・・・。
「・・・じゃあ一つだけ教えてくれ。ケンカに割り込んで何で知らないおれを助けたんだ?」
「(上手くごまかして聞いて来たな、この人・・・)」
ほぼ確実にジョセフ氏は確信を得ているのに関わらず、あれを『ケンカ』と称した。
私から見ればあんなの、ただのリンチだ。そう堂々と言わないのは、彼なりの気遣いなのだろうか。
もう『バレる』、『バレない』のを忘れて、ゆっくり振り返る。
「。あの時ちゃんと言えませんでしたが、
最初に異変に気付いて駆けつけてくれたのはジョセフなんですよ。」
「ジョセフは病院に運ばれた際でもずっとあなたの側にいてくれたのですよ。
看病するに至ってあの子は積極的にやってくれました。
慣れない手つきで何度も水をこぼしていましたね。」
「今ではそれが・・・恥かしくて言えないんでしょうね。
ふふ、変なところでヘソを曲げるなんて誰に似たんでしょうね?」
黙る一方の私にジョセフ氏も何も言わない。
お互い見つめ合ったまま、私は懐からメモ帳とペンを取り出す。
そして―――
≪借りを返したまでだよ。≫
ジョセフ氏の返答を聞かずにその場を離れた。
それにしてもまた厄介なことになっちゃったかもしれない。
目が合ったら平常心を保っていないと―――。
***
「・・・・・・・・・おい、いるか?」
しばらくして私の後から帰って来たジョセフ氏が初めて自分の部屋の前に現れた。
早速尋問が始まるかと腹をくくったが、どうも様子がおかしい。
私を見るなりその場を離れるが、一旦立ち止まってまたこちらを見る。「早く来いよ。」
・・・・・・え、どういうこと?
再び外出してたどり着いたのは歴史を感じさせる小さなお店。
二人一組のテーブルで、互いに正面に向かう。
ジョセフ氏が何かを注文して更に数分待つ。ぶっちゃけ息苦しい。(だって何も喋って来ないんだもん)
「はい、お待ちどう様。」
テーブルに置かれた二つの更に盛られた料理。
ジョセフ氏がガツガツ食べている中、
ただ座っている私を見るなり「食わねェならおれが貰うぞ?」
なんて言うからおそるおそるフォークを持つ。
「(これって確か・・・フィッシュ&チップスって言うんだっけ・・・?)」
揚げられた魚を食べやすい形に切って、かかっているソースにからめて口に入れる。
うん、なかなか美味しい。(夜遅くに食べるとなるとちょっと気落ちするが・・・)
考えてみればジョセフ氏ってエリナさんにご飯抜きにされていたんだっけ。
料理に向き合うと「げっ。」前方からそんな声がもれる。
「クッソ〜〜〜こいつがあったの忘れてたぜ・・・。」
そう言ってフォークで小突かれているのはグリーンピース。彼はお好きではないようだ。
それを避ければいい話なのに変なところで気にする男だな。
どんどん私の食べる物が少なくなる一方、
ジョセフ氏はグリーンピースと睨んだまま他の料理に手をつけようとしない。
気性の荒い男だが、きっとエリナさんに「他所の出されたものはどんなものだろうと残さない。」と
教えられたんだろう。(本当はどうなのか分からないけど)
しびれを切らした私は側にあった小皿を前に出した。
「・・・ん?何?」
≪グリーンピース乗せて。≫
「は・・・?」
≪いいから!≫
筆記なので向こうの店員さんに聞かれる心配はないと思う。
ジロリと睨んでやれば素直に全てのグリーンピースを小皿に移した。
「それどうすんだよ?」その小皿をこちらに寄せて、一気に二粒刺した。
ギョッとした表情で見るジョセフ氏に≪やっぱり食べたかった?≫と聞けば、
勢いよく首を横に振った。なんて分かりやすい奴・・・。
「よく食えるなあ・・・それ。」
そう言いながらグリーンピースを完食しようとがんばる私を見ている。
「(何で食べないの・・・?)」口を動かしつつ、チラリと彼を見る。
するとフライドポテトとパイが私のお皿に移される。もちろん、これは私のではない。
再びジョセフ氏を見ると、頬をかきながら視線を泳がしている。
「その―――・・・さっきは―――あっ、いや、何でもねえ!グ、グリーンピースのお礼だ!」
「だから・・・・・・・・・食え。」か細い声で言い切ると、ようやく自分の料理にガッつき出した。
ほんの間に静止していた私も、ジョセフ氏にもらったフライドポテトを一口。
食事の間、お互い何も語らなかったが、以前より空気が軽かったのは確かだった。
***
勝手にグリーンピースを嫌いな食べ物にしてすまん、ジョセフ・・・。