「おっはよーんちゃーん。今日予定ないんならちょいと付き合ってくんない?」 軽いノリで声をかけて来たのはこの間まで険悪だったはずの彼です。 ジョセフ・ジョースター氏です。 最初と今のギャップがありすぎて別人かと思ったくらいだ。 不仲だった私達(特にジョセフ氏が)の激しい変化ぶりに、 ポカンと口を開いていたエリナさんだったが、ようやく仲良くなれたんだと感極まっていた。 よほど心配してくれたみたいだ。ごめんね、エリナさん・・・。 「いつもお手伝いをしてくれましたからね。二人でお好きにやりなさい。」 「おう!じゃ、行って来るぜ、エリナばあちゃん!」 私の意志は無視か。 ジョセフ(さん付けで筆記で伝えたら「呼び捨てでいい。」と言われた)とここまで仲良くなれたのは、 『マンガ蒐集』という共通の趣味があるからだ。 それがきっかけで会話も弾み、ほとんどの同性が嫌がるホラージャンルも大いに盛り上がった。 (あの時は本当に楽しかった!) 彼が案内してくれた行きつけの本屋に、たまにお宝の品が見つかると言われる古本市にも足を運ぶ。 エリナさんにもらったお小遣いで買った本(主に雑誌)をジョセフと読み返した。 「なあ、日本のマンガってどういうのがあんの?」 ≪今はわからないけど、あと4、50年くらい後に私の好きなマンガが出て来るよ。≫ 「50年後って・・・じじいじゃねえかよ、おれ!!」 年老いたジョセフか・・・ちょっと見てみたいかも。 思わず口端を上げると、「何笑ってんだよ。」ジョセフにすかさず背中を叩かれた。 完全に気を抜いていた私は自分のひざに鼻をぶつける。この間のケンカを思い出してか、 ジョセフは苦い顔してすぐ謝った。(こっちはもう気にしてないのに・・・) それに関して、「鼻の骨、もうくっ付いたのか?」と指摘される。 私が普通の人間のままだったら、そんなすぐに治る訳がない。 ジョセフとケンカが終わった後日、波紋の呼吸法によって完治したのだ。 ホント、波紋法は素晴らしい! 「おれもガキの頃から波紋使えるんだけどよ、のように上手くコントロールできねェんだ。」 ≪誰かに教えてもらったんじゃないんだね。≫ 「おう。つっても練習する気ねェけどな!めんどっチィーし。」 そう言って再び趣味の話題に切り替わった。 ジョセフにとって『波紋法』はほんの興味本位でしか使わないらしい。 ・・・これトンペティ師とか聞いたらどうなるんだ? *** ジョースター邸に鳴り響く電話音。近くにいたエリナさんがその受話器を取る。 何気にその後ろ姿を目に映してから本に視線を戻すが、 「ジョセフがあなたにって。」 再び振り返る形で本を閉じた。声が出ない限り、電話に出ることは出来ない。 代わりに対応したくても、相手に返事が出せない。それを知っているジョセフは一体何の用だ? 受話器を受け取り、「(代わったよ)」と伝えるため波紋の呼吸法で応答した。 『だな!悪ィんだけど今すぐこれから言う店に来てくんない?あ!財布忘れンなよサイフ!』 私の予想通り、ジョセフの所持金が自分の買いたい品の値段より下回っていて、急遽私を呼び出したのだ。 先に会計を済ませ、外に出てすぐ足の甲を思いっきり踏んでやった。 涙目で睨まれたが(全然説得力ないけど)、こちらが殺意を込めて睨み返せば即行で土下座した。 いい気味だぜ! 「だから悪かったって!ちゃんと返すからさ!」 ≪それはいつ?≫ 「・・・あ〜そうだなァ・・・・・・おばあちゃんに小遣いもらえるのが月の始めだから、えー・・・  その時に!なっ!?」 わかった。今メモったから必ず返せよ? 「フーッ。ホッとしたら何か腹へったな。何か食わねェ?」 「(お金ないんじゃなかったのか!?)」 ・・・これはお金返してもらうだけじゃ足りないな。 ジョセフの全財産使い切る上でお菓子を買ってもらおうかな。本でもいいけど。 あ、どうせなら何か手伝わせよう。掃除はもちろん、洗濯とかしてほしいな。 男の服を洗って干すの大変なんだぞ!(何故かほぼ毎日汗まみれだし) 料理はどうなんだろ?面倒くさがりだから多分無理かな。 ・・・・・・・・・あれ、何なんだ。この母親のような感じは・・・。 「んー?どうしたの溜息なんかついちゃってさ。  このハンサムで優しいジョセフ様が聞いてあげようじゃないの!」 お前が原因だって言うのに・・・・・・苛立ちよりも呆れてしまう。 ムカつくのに憎めないのは何故なんだ。 たった数分のことだけで疲れてるのに・・・・・・。 「(もう一人弟を持った気分だなあ・・・)」 「おーいちゃーん?おれが言ったの聞いてたー?」 聞いてたよ。溜息つく理由を言え、でしょ? ≪もう一人弟を持った気分で疲れてるんだよ。≫ 「弟ォ!?そこはお兄ちゃんだろフツー!」 ≪・・・そんな感じじゃないな・・・。≫ 「・・・ケッ!おれだってご免だぜ!おまえみたいにかわいくねえ妹なんざ!」 ≪私だって嫌だよ。こんなデカイ弟。≫ 自分には一つ年下の弟がいる。今どうしているのか分からないけど・・・。 ジョセフと比べればまだ・・・否―――全然私の弟の方がかわいい! 趣味が共通している所を除いて性格はジョセフと対照的だ。私と似てちょっと人見知りな所があるけど。 「(そんなこと言った所でどうかなるって訳じゃないけどね・・・)」 そんな些細なケンカが最近よく起きている。