私の失語症を治療するのも兼ねて、
ジョセフ達と一緒にスピードワゴンのいるアメリカへ渡った。
何日かぶりに乗った船で長く海を渡った頃には既に眠っていた。
(でも景色は最高にキレイでした)
新しく住む家の荷物を片付けていると、途中から抜け出していたジョセフがやって来た。
「おい!さっきデカイ書店見つけたから行こうぜ!」
どこかで道草してたんじゃないかって疑ってたけど、本当にしていたなんて・・・。
≪この状態見てわからない?≫
「・・・あー・・・忙しい?」
≪そう思うなら手伝ってよ。ジョセフの荷物だって整理したんだからね。≫
「それはありがとねン。・・・いつ終われそう?」
≪ジョセフが手伝ってくれたら5分で済むんじゃない?≫
「あー・・・やっぱそうなる〜?」
≪だって優しいんでしょ?お兄ちゃん。≫
「さぁ〜てどうかな〜?」
なんて知らない顔をするジョセフだが、何だかんだ言いつつ手伝ってくれた。
子供すぎる弟だ―――なんて思ったが、こういう兄がいても悪くない。
ジョセフも同様、初めて踏み入れるアメリカの土地で空が暗くなるまで家の周辺を歩き回った。
ジョセフが見つけた書店を後にして、「何か食べよう。」という案で喫茶店を探していると、
ある小さなお店のガラス越しにアンティーク調の髪留めが飾られているのを目にする。
「(あれ可愛いな・・・)」
ほんの一瞬それに目を奪われていると、横からバシバシと肩を叩かれる。
地味に痛いから本当にやめろ。
「見ろよ、あのグローブ!カッコよくねえ?」
ジョセフが指す方向には別のお店。
私が発見したお店とは完全に真逆なパンチの効いた外観である。
ガラス窓から彼の言う手袋が飾られている。ああ言うイカついのが好きなのか。
≪あれ買うの?≫
「金足りねえからムリ。」
じゃあ何故言ったんだ。・・・・・・・・・まさか。
「おれのバースデープレゼントとして買って!」
≪ジョセフの誕生日はとっくに終わったよ。≫
「じゃあクリスマスだ!」
≪"じゃあ"って何だよ。買わないからね。≫
「そう言わずにさあ・・・。ちゃんの好きなモン用意すっから!」
≪そのグローブが欲しいだけでしょ。却下却下!≫
「ちぇー。」
頬をふくらませたってその手には乗らないよ。
お金の貸し借りには結構敏感なんでね。前回のこともあるし・・・。
その話を何とか忘れようと、次に目に映した喫茶店でお茶した。
店を出るまでジョセフが意味深に視線を飛ばしていたのは決して気のせいではなかった。
疲れなど知らないと言った風のジョセフに今日も連れ回される―――はずだった。
「(勝手に連れ出して勝手に消えるなんて・・・勝手すぎるでしょ・・・)」
何回も同じ単語使ってごめんなさい。でも愚痴らずにはいられないんだ・・・!
だって知らない場所に放置するなんてどうよ?
かれこれ何時間かかったかなあ・・・。そろそろ怒っていいかな?
「ー!待たせてごめんな〜。」
相変わらず悪びれる様子がない。
「(後で思いっきりシメてやる!)」と一人で心に誓うと、
ジョセフの後ろに知らない青年がいるのを目にする。
「えっと・・・君がさん、ていうのかい?おれはスモーキー。よろしく。」
≪こちらこそ宜しくね、スモーキー。≫
筆記で応える私に意外にもそんな驚く様子はなかった。
私と会う以前にジョセフが何かいろいろと話したそうだ。(変なこと言ってなければいいけど・・・)
≪それはそうと一体どこへ行ってたの?≫
≪何回か警察官を見かけたけど・・・。≫すると何故かスモーキーの表情が悪くなる。
ジョセフもジョセフで変に咳払いなんかして様子がおかしい。
「あ〜〜〜ちょっとしたトラブルに巻き込まれてな。その場からトンズラしたわけ。」
『巻き込んだ』の間違いじゃないのか?
≪何かゴメンね。連れが迷惑かけて。≫
「いっ、いやっ・・・元はと言えばおいらが原因なんだし・・・。」
「おーい!何二人だけで会話してんだー!おれも混ぜろー!」
何があったかは聞かないでおこう。
犯罪をするような奴じゃないから心配する必要はないけど、
エリナさんには伝えない方が良さそうだ。