先程紹介した通り、スピードワゴンの言葉に甘えてこのニューヨークへ移住した。
彼がいるであろうスピードワゴン財団の本部はワシントンD.C.にある。
ここに来てまだ数日も経っていないが、スピードワゴンからの連絡がない。
仕事に追われてそれ所じゃないかもしれない。
仲良くなったスモーキーと一緒に夕食に出かけたが、一人の巨漢が彼にガンを飛ばしながら罵り始めた。
この時代にも根付く差別をひしひしと感じると同時に、友人を侮辱されたことにイライラが募る。
「(コイツに一発種を飛ばそうかな・・・)」
周囲を気にして様子を伺っていると、先にジョセフが立ち上がる。
いつも穏やかなエリナさんもあの男の態度に相当お怒りだ。
「ほかのお客に迷惑をかけず、きちっとやつけなさい。」
その言葉にジョセフはニヤリと笑みを浮かべる。
完全にケンカする気満々の男が上着のポケットに手を入れた途端、
「ヘイおっさん!メリケンサックを探しているのなら、あんたの上着のポケットにゃあないぜ!
ズボンのうしろポケットにはいっている!」
ジョセフは堂々と、そう言った。
「えっ。」となる周囲に、男がズボンの後ろポケットに手を突っ込んだ時、
「まさか―――。」ジョセフの宣言通り、メリケンサックが男の手に乗っている。
「おまえの次のセリフは『なんでメリケンのことわかったんだこの野郎!』という!」
「おまえの利き腕の指のスリムケを見れば、
それはメリケンサックをはめてケンカしたものとわかる!
そしておまえの上着の下のシャツに付いているのは血!それも返り血!」
「さっき人を殴ってきたばかりだな!」男が驚くのをよそにジョセフは言葉を続ける。
「そして血が上着ではなくシャツについているということは
上着をぬいでケンカしてきたということ!
つまり、メリケンサックを指からはずした時、
上着は着てないからズボンのポケットにしまったことは当然の結果だ!」
探偵さながらに述べるジョセフに私も思わず口を大きく開くほど、彼を凝視した。
「次のセリフは『わかったからどうだってんだよ、このクソガキが。』だ。」
「わかったからどうだってんだよ、このクソガキが―――ッ!!」
ジョセフに向かって拳を放つ男はそのまま何度も叩き込んだ。
自分が殴っているのがジョセフではないことを知らずに。
「いったいどこ殴ってんだよ。オメーが楽しそうに殴ってたのはおれじゃないぜ。」
後ろにあった帽子かけのトゲが槍のように男の掌を貫いていた。
「オメーのような単純脳ミソのやるパターンはすべてよまれてるってことがわかんねーのか。
このウスバカが!」
圧倒的な勝利を収めたジョセフに惜しみない拍手が送られる。
結局自分は何もせず終わっちゃったけど、代わりにジョセフが果たしてくれたからいいか。
するとさっきまで大男と同じ席にいた男が立ち上がる。(彼も彼で顔付きが悪い)
「子分の無礼をゆるしてください。」と頭を下げるなり、
自分がスピードワゴンに大変世話になっていると明かす。
「さっき知った情報でまだこの国には知られてねえんだが、スピードワゴンさんが殺されましたぜ・・・。」
信じ難い話を突きつけられ、言葉を失う私達をよそに男は話を続ける。
「うわさでは殺ったのはチベットから来た修業僧。」
―――何だって・・・?
「修業僧!ストレイツォか!」
「メキシコ奥地の河で流れついたスピードワゴンとその一行らしい死体を発見した者の話だ。
どこでなぜ殺されたのか、修業僧がどこへ行ったか誰もしらない。」
「わ・・・・・・わかるような気がする。」そう震えながらエリナさんは言う。
「きっと・・・たぶんスピードワゴンさんがかつて話してくれた石仮面とディオ・・・。」
『石仮面』・・・『ディオ』―――。
忘れかけていたあの惨状が私の脳内にフラッシュバックする。
50年前に終わったとばかり思っていたのに何故―――?
「怖いのか?おばあちゃん。おれがまもってやる!」
「ちがうジョセフ・・・。おまえのことだよ・・・。おまえが運命に巻き込まれていくのがこわいのです。」
それを言った最後、ちらりと私を見たことに思わずドキッとした。
「大丈夫だよ。それが運命なら・・・それにしたがうぜ!」
抱き合う二人を前に、私は無意識に二つの懐中時計を握り締めた。