あのマフィアの男が言った話が気になり、独自で調査を試みた。
当然こんな小娘一人の手では、欲しい情報は中々手に入らない。
そこでスピードワゴンの他に、ストレイツォに送られて来た手紙を改めて見直した。
今私が読んでいるのは、つい最近届いたその人からの手紙だ。
"スピードワゴンからメキシコのアステカ遺跡の同行を頼まれた。
君の知っての通り、ツェペリが若い頃、『石仮面』を発掘した場所だ。
何故君にそれを打ち明けたか―――50年前に刻まれた心の傷を再び抉ることになるだろうが、
それでもこの手紙の文面に目を通してほしい。
君が本当に『聖母の使い』であれば、いずれ我々の宿敵と対峙する時が来るだろう。
この文通も・・・今回で最後となるに違いない。
もし私の予感が当たっていれば、これから君は私を一生恨むことになるだろう。
最悪の場合、君を殺すことになるのだから。"
それは明らかに、マフィアの男が言っていたことを表していた。
最初はびっくりして、ちゃんと目に通していなかったが、十分な情報は得られた。
今は亡きツェペリさんを悲惨な運命に巻き込んだ『石仮面』。
それを発掘した場所がメキシコにあるアステカ遺跡。
50年経った今、スピードワゴンはそこで―――何かを発見した。
「(恐らく、ツェペリさんが言っていた伝説の話に出て来た『完全生物』なのかも・・・)」
ただ、その生物は一体どういうものなのか、今の時点ではよく分からない。
けれど、これから正体不明の敵と戦うことを余儀なくされるだろう。
まだ見ぬ戦いに備えて強くならなければ―――彼らを、ジョセフ達を守れる力をつけなければ・・・!
「(ストレイツォ・・・。それは私が伝説に従っている訳じゃない)」
私がその因縁に以前から付けられていたんだろうが、なかろうが―――私は戦う道を選ぶだろう。
「(それにしてもジョセフ・・・遅いな・・・・・・)」
イギリスの高校を卒業したこともあって、まだまだ遊びたい時期なのだろう。
けれど、エリナさんを守ると言ったあの眼差しは本当に強い意志を秘めていた。
『本当にいいのですかジョセフ。何も言わずに・・・。』
『せっかく気持ちよく寝てるんだ。わざわざ起こして言うのも何か悪いし・・・―――行って来る!』
ハッと気付いた時、いつの間にか机の上でうつ伏せて寝ていた。
カーテンの隙間から日差しが差し込まれている。
時間を見ようと胸元に懐中時計を取り出して、あることに気がついた。
「(私のが・・・・・・・・・ない!?)」
残っているのはジョージさんから貰った時計だけ。ウサギの(絵が描かれている)方は何故かない。
ふと机の上に殴り書きしてあるメモを見つける。
"ちょっと借りるよン"―――こんな書き残しをするのはジョセフしかいない。
「(だけど、何で―――?)」
リビングに出て朝一番に見た光景に、違和感を覚える。
≪エリナさん、ジョセフは?≫
「ああ・・・ジョセフなら出かけましたよ。」
≪こんな朝早く・・・・・・?≫
私がそう問い出すと、エリナさんは少し表情を歪める。
「え、ええ。ちょっと遠い所へ行って来るって・・・。」まさか―――私は思わず、
≪メキシコ、ですか?≫
と聞き出す。ずっと口を閉ざしていたエリナさんの表情が徐々に崩れていく。
「ジョセフは詳しく言いませんでしたが恐らく、スピードワゴンさんに関してでしょう・・・。
そしてあなたも・・・。」
「も行ってしまうのでしょう?」と震える口が呟いた。
完全に見抜かれている―――実は言うつもりであったんだけど・・・。
「やっとあなたに会えて、ずっと一緒にいられると思いましたのに・・・
何故私の大切な人達ばかり、こんな・・・っ!」
≪―――本当にごめんなさい、エリナさん。≫
私は嫌なヤツだ。いつもエリナさんを泣かしてしまう。
『波紋法』を教わっていなかったら、きっと側にいられるだろうに・・・。
自分の性格上、そういう風にはいかないと思うけど・・・。