私がツェペリさんに『波紋法』を教えてもらうことになった際、 自分がこの時代の人間ではないことを明かした。 するとツェペリさんは波紋一族と交流を深めた『一匹のウサギ』について語り出す。 人間より遥か遠い昔に生まれた『完全生物』を知ったのもその時だ。 何故その話を私に伝えたか。その話に登場するウサギの意志を、 私が受け継いでいるのではないかと言う。 そんなこと言われてもさっき初めて知ったばかりだし、何らかの特別な力を持っている訳ではない。 ≪貴方の考えすぎでは?≫と否定の言葉を送る。 「あくまでも伝説の話じゃが・・・。君がジョースター家の所にたどり着いたのも、  何の知識もなく『波紋法』を使えたのも・・・・・・とても偶然とは思えんがのォ。」 「・・・。」 「何、別にそう(・・)であるからとお主を捕って食う訳ではない。  ただ『波紋法』の道を進む以前でも―――戦う運命にあったかもしれん。」 *** 「絶対に無理はしないで下さいね。」 「(はい)」 「手紙出すのも忘れないで下さいね。」 「(はい)」 「それから・・・・・・・・・。」 「(?)」 「自分の信念を曲げたくないのなら―――きちっと最後までやり抜きなさい。」 「(!!・・・・・・はい!)」 本心ではここに残ってほしいと思っているはずなのに、 私のわがままを聞いてくれるなんて優しすぎる。 やはり50年前にあったあの記憶が、強く影響しているのだろう。 出航するための費用まで用意してくれた。 ありがたすぎて涙が出てしまう。大切に使わないと・・・! 「(確か場所は・・・・・・ヴェネツィアか)」 ジョセフとエリナさんには知らない、 スピードワゴンとストレイツォと交わした文通で知った秘密がある。 『波紋の達人』と称されるリサリサという女性の存在。 彼女のいるイタリアまで、長い海を渡った。 青く澄んだ海面を眺めながら、メキシコにいるであろうジョセフの安否の無事を願う。 「(でも、ジョセフなら大丈夫・・・・・・。もしかしたらスピードワゴンも・・・)」 ストレイツォがわざわざ死体を捨てたのが、どうも引っかかるのだ。 それに、共に修羅場を潜り抜けたスピードワゴンだ。そう簡単に死ぬような男ではない。 「(なんて大げさすぎる、かな・・・)」 長時間にも及ぶ船の旅を終えて、ようやく街にたどり着く。 まずヴェネツィア行きの交通機関があるか確かめないと―――。 「(うぉ・・・!?)」 「ごめんなさい!」 何かと思えば、帽子を深くかぶった少年とぶつかってしまった。 ケガせずに済んでよかったが、相手は短く答えただけですぐに去ってしまった。 「(何か逃げてるように見える(・・・・・・・・・・)けど・・・・・・・・・ええっ!?)」 上着のポケットに入れておいたはずのサイフがない。 この混乱の中、さっきぶつかった少年にスられたんだと知ったのは数秒後のことだ。 そうと分かれば即行少年のあとを追跡した。 私の体質が変化でもしているのか、少年の声を拾い(・・)ながらスムーズに距離を縮めていく。 ―――が、中々スピードが落ちない。 「(くっそォ・・・結構しぶといな)」 だけどこちらもスピードを緩める訳にはいかない。 何せあのサイフにも全財産が入っているのだから!! 「(しかもエリナさんのお金を盗るなんて・・・・・・許せん!!)」 とっ捕まえたらどうしてくれようか――― なんて考えている内に、目前にかの有名なコロッセオが見える。 「(うわあ・・・本物だあ)」なんて言える余裕はない。 「(この中か・・・)」 「おい!ここは立入禁止だぞ!」 すると突然軍服の男が目の前を立ちはだかる。 そもそもこの観光スポットに軍人がいるなんて可笑しな話なのだが、 そこに気にする暇もないので――― 「(急いでるんでゴメンなさい)」 波紋で気絶させ、少年が入っていった地下へ向かう。 ・・・そういえばコロッセオに地下なんてあったっけ? 「(広い・・・)」 長い階段を下りると、大きな広間が目の前に飛び込む。少年の姿どころか『声』すら聞こえない。 おかしいな・・・確かに足音が聞こえたのに・・・。 「助けてェ―――!!」 あの少年の声だ―――! しかし声色が尋常ではない。 すぐにそちらへ向かうと、壁に少年と一体化するかのようにめり込んでいる異様な光景があった。 一瞬目を奪われるも、壁から出ている腕を引っ張った。 すると三人の石像と宝石が埋め込まれている壁面から、 針金のようなワイヤーが私の手首、首元へと巻きついた。 それに負けじと波紋を流し、そのワイヤーが緩んだのを見計らって一気に引きずり出した。 「(よかった・・・息がある・・・)」 ホッとしたのも束の間、チクリとワイヤーの先端が私の首の根を突付く。 このまま絞め殺すのかと思えば、大人しく壁の中へ引っ込んでいく。 その時、人の形をした石壁からディオ以上にドス黒いオーラを放っていたのを私は見逃さなかった。 "あの小動物(・・・)の後継者か―――" 男の声が脳内に響く。壁面はそのまま何事も起こらず静止した。嫌な予感がしてならない。 すぐさま少年を連れてその場から立ち去った。