シーザーというイタリア人は、あのウィル・A・ツェペリの孫だった。
驚いたのは勿論のことだが、あの人の血筋が今でも健在であることにうれしくなる。
(ただ先程の言動はちょっと頂けない)
私も波紋の修業をしていると伝えれば、心底驚いた顔をしていた。
リサリサ先生だって波紋使いなのに・・・何だこの差は?(女の子扱いされたい訳じゃないけど)
「しかし君はアメリカから来たのだろう?何故そこまでしてこちらに来たんだ?」
≪私には守るべき人達がいるから。強くなりたいんだ。≫
触れられたくものを秘めていると感じたらしく、それ以上は聞かれなかった。
≪そう言うシーザーは何故?≫と訊くと、彼の整った表情が険しくなる。
「おれの祖父と父の・・・・・・・・・無念を晴らす為だ。」
ぽつりぽつりと打ち明けるシーザーの話はこうだ。
ツェペリさんだけでなく、
シーザーの父までも『石仮面』絡みの因縁に巻き込まれ、非業の死を遂げた。
そんな一族の意志を受け継ぎ、計り知れない怒りを抱いているのを感じる。
それを知って、とても彼の祖父について易々と話題には出せなかった。
もしかしたら怒りに狂うのかもしれない・・・。
そう思うと余計に彼らへの罪悪感がわく。
シーザーが「顔色がよくないが大丈夫か?」と聞いてきたが、
私は悟られないよう首を横に振るのだった。
***
「、最終試練を終えたらわたしの部屋へ来なさい。」
そう言われて師範代のメッシーナとロギンズをボコボコにして来た私は、
スージーに案内された部屋の前に立つ。ここに来て大分経つが、まだ先生の部屋は見たことない。
来た当初からあまり会話もなかったし。・・・・・・・・・もしかしたら私・・・嫌われているんじゃ・・・?
「、そちらに座りなさい。」
先生が指定するイスに腰を下ろす。時折寂しげな一面を見つつ、彼女は口を開く。
「わたしが波紋を極め、今も尚この島に留まるのは、
代々波紋一族の使命を全うする義務があるからです。
これからする話は波紋戦士であるあなたにとっても、あなた自身にとって大きく関わることになる。」
それはかつてツェペリさんやストレイツォが話した、
波紋一族と『石仮面』を生み出した謎の超生物『柱の男』によるものだ。
『柱の男』と呼ばれる人間をはるかに凌駕する奴らこそ、一族を滅ぼした存在。
そして、例のウサギも・・・・・・奴らの前に散った。
ざっくり言えば吸血鬼の親玉みたいなものだ。
彼らは『エイジャの赤石』というものを用いて太陽を克服するため『究極生物』になるのを
目的としているようだ。
そいつらは今、イタリア・ローマのコロッセオ地下遺跡で石化しているが近い内に目覚めると、
リサリサ先生は言う。(ん・・・?)
「(もしかして・・・あの壁画っぽいものが・・・!?)」
「どうかしたの?」
≪なんでもありません・・・。≫
嗚呼っ・・・よりによってまさかラスボスに遭っていたなんて―――不本意にも程があるッ!
(あれは確実に目をつけられたと思っていい・・・)
「そしてこれが・・・・・・波紋一族が守る『エイジャの赤石』。」
先生に呼ばれてやって来たスージーの手に、その石がペンダントの形で乗っている。
まるで白い兎の赤い瞳のようだ。チクリと痛む首の後ろに手を当てる。
≪奴らは・・・それを狙っているんですよね?壊した方がいいんでは?≫
「それはできません。ただ一つ明確になっているのは・・・―――。」
・・・あれ?おかしいな・・・リサリサ先生の声が聞こえない。
≪もう一度お願いします。≫と筆記に手を伸ばすも―――何もつかめない。
いつものメモ帳とペンが自分の足元に落ちていた。
「(落ちた音すら聞こえなかった。何、で・・・・・・?)」
困惑な表情でリサリサ先生を見上げると、冷静だった彼女の顔が珍しく崩れていた。
何故なら私が―――
「(・・・あっ!?あ・・・つ、い・・・ッ!!)」
私の背中が火で焼かれているのではないか?と思うくらい暑さを超えた痛みに、悶え苦しんでいるからだ。
「スージーQ!急いで治療の準備を!」
「は・・・はい!」
あまりの激痛に周りが全く聞こえない。首からかけて背中の方から、その痛みが伝わって来る。
一体何故こんなことに・・・!?
何もできず体を抱きしめる私の首後ろを見たリサリサ先生がハッとした表情で私を凝視する。
抵抗できない私の背中を何故か肌け出す。
「・・・このアザは!やはりあなたは―――。」
・・・ごめんなさい先生。この痛みじゃロクに聞けないので・・・また後で聞かせて下さい・・・・・・。