無事『地獄昇柱』を登り切った二人には、
メッシーナとロギンズのしごきと言う名の修業が待っていた。
別のところで修業すると、いつも決まってジョセフのふざけた悲鳴が聞こえてくる。
多分、あれから一度も目を合わせていない。
それだからか、「二人に何かあったの!?」とやけに興奮気味なスージーにやたらと質問される。
(ほとんど苦笑で流しておいた)
それから半月経ったある夜。自分の部屋のドアからノックの音がした。
訪問客はシーザーだ。
「・・・。夜遅くに申し訳ないと思ってはいるんだが・・・ちょっといいか?」
≪いいよ。≫
席に座らせ、≪飲み物何がいい?≫と聞くが、「本当に少しの間だから大丈夫だ。」と返された。
控えめに応える所は、誰かさんとは大違いだ。(あ、言っちゃ失礼か)
「・・・本当にジョジョに何も伝えていないのか?」
≪―――私が連絡なしにここへ来たこと?≫
そうだ、と肯定するように頷く。
≪伝えたくなかった・・・というつもりじゃなかった。
変なこと言ってると思うかもしれないけど―――ジョセフの邪魔をしちゃいけない気がする・・・。≫
既に戦闘の経験を持っている私が一緒について行くようなことになったら恐らく、
彼を強くする『きっかけ』を潰してしまいかねない。
それに「ジョセフなら大丈夫だ。」と根拠のない奇妙な予感を持っていたからだ。
50年前のこともあっての話なのだが、未だにシーザーには打ち明けられない。
「・・・この島に戻る前、初めてジョジョと会った時だ。
おれが君の名前を出した途端、何故か怒りをあらわにしていた。」
「(え・・・?)」
「それから『あいつとおまえはどういう関係だ。』やら『修業してるなんて聞いてねえ。』やらで
質問の嵐だ。あいつの話の話だと―――・・・」
「を危険な目に遭わせる訳にはいかない。それにあいつならエリナばあちゃんの側にいてくれる。」
「・・・そんな思いで黙って出て行ったんじゃないかな、JOJOの奴。」
何となく想像はしていた。ジョセフはこういう時に限って言わないんだもん。
そうなると彼の期待を裏切ったという罪悪感がハンパない。
「おれと過ごした時間は・・・・・・皮肉にもJOJOの方が長い。まあお互い何も言わず行動したわけだ。
おまえ達兄妹さっさと仲直りしてくれ。」
≪―――やっぱり妹ポジションか。≫
「おれからすればそう見える。」
最もな言葉に思わず笑みが浮かぶ。
(本当は『姉』がよかったのだが、空気読んで伝えるのは止した)
シーザーが一番年上だからか、私とジョセフの間に入ってくれる―――
云わば、ジョナサンとはちょっと違うお兄さん的な存在だ。
自分達の問題を彼にまで巻き込んでしまって申し訳ない。
≪ありがとうシーザー。少しだけ・・・何か楽になれた。≫
「それはよかった。決戦当日まで引きずられたら困るからな。」
真面目な表情でキッパリと言うシーザーに、ただ頭を下げるしかない。
***
隣り街まで買い出しに行った私はスージーと共に船から降りた。
「後はあたしがやるからは休んで来て。」と有無を言わさず笑顔で押された。
何だか急かされているような・・・・・・私の気のせいか?
「(ん・・・?この寝息・・・・・・)」
すぐ近くから聞こえるこの寝息―――というよりイビキが正しい。
岸に身を中途半端に投げ出して眠るジョセフだ。
両足だけ海の中に浸かっていて、よく寒くならないなと変な感心を覚えた。
相当な疲労が溜まっていたようだ。
「(世話がやけるなあ・・・)」
ジョセフの重い体を持って両足を引き上げた。
せめて毛布くらいは掛けてやろうと、その場を後にしようとした―――
「・・・・・・。」
小さく呟いたにも関わらず、私の耳には大きく聞こえていた。
一応振り返ってみたが、当の本人は未だ夢の中である。
「ごめん・・・な。おれ・・・・・・強、く・・・なる・・・・・・。」
「(・・・どうやら思ってることは同じみたいだね)」
私こそ・・・ごめんね―――。
ジョセフの乱れた髪を軽くなでた時、心臓が大きく高鳴った。
―――違う。この音は私のじゃない・・・!
定期的に鼓動する心臓のリズムが明らかに自分のものではない。
だとすればこの心臓音は―――。
「(私の耳は・・・・・・一体どこまで聞けるんだ!?)」
益々人間離れしていく実感を抱きながら、夢心地に浸るジョセフを見た。