時間がないというのもあって、その時は気に留めていなかったが、ここで車酔いが発生した。 もちろん―――なったのは私です。 「大丈夫か。一旦止めようか?」 「(だ・・・大丈夫!)」 もうすぐ国境だと言うのに私のせいで足止めさせる訳にはいかない。 ・・・にしてもジョセフはよく眠っていられるなあ・・・。 あ、師範代に叩き起こされた。肘鉄痛そう・・・。 「のんきするなよJOJO。」 「いっとくがよ。おれは体力を養ってんだぜ、体力をよ。  早いとこ列車を襲って『赤石』をとり戻し、6日後のワムウ戦への作戦を考えようぜ。」 「国境を越えるまで待て!」 ・・・にしてもさっきからクラクションがうるさいな。 すぐ後ろに知らない車が停まっていた。 「うるさいぜ。行きたけりゃ追い込して先に行きやがれ!!」 突然「うっ!!」とジョセフが声をつまらせた。 どこかで見覚えのある紋章をつけた軍服―――ドイツ軍のようだ。 「フフフフフ・・・・・・・・・・・・。元気そうじゃあないか・・・・・・・・・。  ・・・たいした成長ぶりだなジョースター!!」 「え?な・・・・・・なんだって・・・・・・・・・?今・・・なんていった?  ちょっ、ちょっと待てッ!だれだきさま!?おれはドイツ軍なんぞに知り合いはいねーぞ。」 「み・・・見ろ。列車の周りを!」 その言葉につられ視線を移すと、他にも何人もののドイツ軍が取り囲んでいた。 『大佐』と呼ばれた男が無造作に包み紙を破り捨てて取り出したのは、 私達が追っていた『エイジャの赤石』だった。 「この『赤石』は我が軍が研究材料としてあずからせてもらう・・・・・・!  君たちは3週間前からすでにヴェネチアで我われに監視されていたのだよ。  ローマで実験隊が全滅してからずっとな。  波紋修業のことも、エシディシ(・・・・・)のことも、そしてこの赤石を追っていた(・・・・・)ことも・・・・・・・・・な。」 そう言って何事もなくその赤石を自分のポケットに入れた。 「我われはこの先のロッジにいる・・・。ついて来たまえ・・・。  君らに『赤石』と『カーズ』たちの話をききたいのだ。協力し合おうではないか・・・・・・。  まんざら知らぬ同士でもあるまいし・・・JOJO・・・。」 「こらァ―――なにいってんだ、てめ〜〜〜。人の名を気やすく呼ぶなこの!」 「ドイツ軍が出てくるとはな!」 「せ・・・先生!!」 「行くしかないわね・・・・・・・・・・・・・・・・・・。カーズ達に『赤石』がわたるよりましだわ。」 *** このロッジに着いて5時間経った。業を煮やしたジョセフは文句を言いに、先に部屋を出ている。 何もすることがない私は席を立って窓の外を眺めていると、雪を踏む音が聞こえて来た。 もちろん、この室内からではない。夜遅く来訪者が来るのは不自然。しかも、ずっと歩いている。 ―――まさか・・・。 そんな予感が過ぎった瞬間、下の階から地響きが起こった。 リサリサ先生達には聞こえないかもしれないが、これは重機関砲の発射音に違いない。(・・・かも) 下に下りると室内が破壊された異様な状態で、穴が開いたそこからちょうど外にジョセフの姿が見える。 先程見たあの軍人(何故か真っ二つになっている!)と、あの黒装束の男は――― 「カーズ!」 ちょうど隣りにいたシーザーがそう呼んだ。 「JOJO、はやくひろいにいけィ!十分先に追いつけるッ。」 「(あいつがカーズか・・・)」 あの男の走るスピードは『赤石』をキャッチしてそのまま飛び下りる気だ。 奴なら充分落下に耐えるだろうが、ジョセフが落ちたら確実に死ぬ。 するとジョセフが走りながらこちらを見た。(多分シーザーの方だろうが・・・) 「あああーッ!!」 カーズが足でペンダントになっている鎖をひっかけたのを目にした。 ジョセフに向けて人をバカにした"ニヤリ"を向ける。 だがジョセフの蹴りは雪を蹴るために放ったのだ。 「『赤石』をナイスキャッチしたのはおれの方だったなカーズ!!崖下にさいなら。」 そんなジョセフに向かってカーズの足から剣がバリバリと服を破って突き刺そうとした―――が、 「WONUUUUUUUU!」 私が流した波紋法で地面を突き破った蔦が防御したことで、ジョセフに何のダメージも来なかった。 波紋で帯びている蔦に触れた衝撃でカーズがそのまま谷底に落ちようとした時、彼の目が私に移す。 「(・・・この一目で見たこの感じは・・・・・・コロッセオで私の首をワイヤーで絞めたアイツ(・・・)・・・!!)」 改めて敵と認識した所で、ここで初めてジョセフと目が合った。 「あ・・・あのよ・・・・・・。さっきの波紋・・・。」 ≪―――迷惑だった?≫ 「あ。え、えっとォ〜・・・。」 ぎこちない様子で視線を泳がせるジョセフ。 彼の性格から考えれば「全くだぜ!余計なことすんなよ!」と言ってくるに違いないのに・・・ こんな彼を見るのは初めてかもしれない。 「・・・一応助かったぜ。あ、ありがとよ・・・。」 ・・・・・・・・・ジョセフがお礼を言った・・・? あのジョセフが!素直に礼を言っただとォ〜〜〜!!? 「しかしドイツ軍人。あんたやつら以上に不死身な体もってんだな・・・。  軍人!いばらないならいっしょに協力してやってもいいぜ。」 私が百面相になっている間にそんな話が聞こえたが、とてもそれ所ではなかった。