いくら波紋法でも、ワムウの技(後で『神砂嵐』と言うのだと分かった)で傷ついた体を
完全に治癒することはできなかった。
ここに着くまでの間はさっきより良くなっている。
波紋で痛みを補っているのもあって歩くことも可能である。
「いいか?しつこく言うがおれ達は波紋で安静させている分、戦闘では普段通り使えない。
この戦いが終わるまで余計なことはするなよ!」
シーザーが数時間前、口をすっぱくして私にそう言った。
(そういう君はどうなんだ?とは流石に聞けなかった)最初から聞く気がない訳じゃない。
カーズが目の前であんな汚いマネさえしなければ―――こんなことにならずに済んだはずなのに。
「(『蔓の鞭』―――アンド!波紋疾走のビート!)」
「ギャ―――スッ!!」
波紋を帯びた長い蔓を吸血鬼に巻きつけて一気に溶かす。
怒りで目の前が見えない私は感情に任せて、ただひたすら攻撃を続けたが足に残る傷が開き、
思わず体を崩した。
―――ハッ!・・・・・・まずい・・・!
痛みで我を取り戻したところに他の吸血鬼達が一気に押し寄せて来た。
しかし、一寸の所で目の前にいたら吸血鬼が突然消え始める。(この光は・・・?)
「おのれらッ吸血鬼!このシュトロハイムとドイツ軍親衛隊が相手だ!!!」
「我らSPW財団特別科学戦闘隊もいるぞッ!」
「JOJO!!」
「(あれは・・・もしかして・・・!)」
すっかり年を取ってしまったがあの眼差し、あの傷痕は間違いなくスピードワゴンだ!!
「!シーザー!後は我々に任せてくれ。」
「おい!勝手に動くなと言ったばかりだぞ!」
「(ごっ・・・ごめんなさい!!)」
これは本気で謝った。嗚呼、他人のこと言えないや・・・。
「(それより先生は!?ジョセフは・・・!?)」
皆が吸血鬼と対峙している中、その場にいたはずのジョセフの姿がない。
ふと視線を別の方へ移すと、なんとリサリサ先生が吊るされていた。(嗚呼・・・なんてムゴイ!)
彼女の足に通されている縄をジョセフがつかんで動けないでいた。
「うおおおおお!きさまッ、カーズどこまでもくさりきってやがるッ!
カーズ!てめーの根性はッ!畑にすてられカビがはえてハエもたからねーカボチャみてえに
くさりきってやがるぜッ!!」
ジョセフの怒の入った叫びは私もそんな気持ちでしかない。
ギリギリと睨む私を、シーザーは必死で抑えようと言葉をかけ続ける。
「おれだってここで食い止められる気はない!だが今はJOJOに賭けるしかないッ!」
そう、私が『種子弾丸』を撃ちたくてもこの数だ。
私の他にシーザー、ドイツ軍とSPW財団が紫外線照射装置を駆使しても、
百体にも及ぶ吸血鬼を全滅させるには時間がかかる。
「『てめ〜らァ、どきやがれッ。脳天ブッ砕くぜッおのれェらァ!』」
「・・・!!!お、おまえ・・・今!」
「(―――えっ?)」
「さ、さっきもそうだったが・・・・・・今おまえの口からJOJOの声が・・・!
しかもさっきあいつが言っていた言葉をまるで再生しているかのように・・・!」
なんだって・・・?
シーザーの言葉に、この状況に構わず私はフリーズした。
声が出ないとばかり思っていた自分の口から『他人の声』が―――これは私の意志によるものなのか?
それとも―――・・・
「BAAHHHOHHHHH―――!!」
「やったッ!やったぞ!カーズに波紋をくらわしたーッ。」
波紋傷を負ったカーズが水晶石の岩盤を全身で受け止める形となった。
勝利の確信を得たシュトロハイム達は一斉に残りの吸血鬼共の一掃に取りかかる中、
呆気ない姿となったカーズを見て心なしか喜べなかった。(何故・・・?)
「JOJOの奴、ヒヤヒヤさせやがって・・・。」
横でそう言って冷や汗をぬぐうシーザーの顔には笑みが浮かんでいた。
ジョセフがリサリサ先生を抱えて下りて来る姿を見て自然に足が動いたが、シーザーに腕をつかまれる。
「二人のところに行きたいんだろ?わかってるよ。」
「ちゃんとおれの側から離れるなよ。」と念を押して先頭に走り出す。
こちらに気付いたジョセフは私と目が合うなり、ズンズンと歩み寄るとシーザーを軽く殴っていた。
おーい、ケガ人だぞ。
「何でお前らここに来てんだよ!ほら!なんか傷開いて真っ赤になってんじゃんかよ!」
「やかましい!そう言うおまえは止められるのか!?」
まだ戦いの最中であるのに関わらずケンカをし始めた二人をよそに、リサリサ先生の側に寄り添った。
傷ついた体に波紋を流すと、徐々に彼女の心臓の音が定期的に鼓動し始めた。
「(リサリサ先生・・・・・・いいや、エリザベス。もう冷酷さを装うことはないよ・・・)」
あんなに小さかった天使は女神となって今、自分の腕の中にいる。
年は私より遥かに上回ってしまったが、伝わって来るこの温もりはあの時と同じ―――
「おい!言っとくが本来ここに来るべきじゃねえんだぜ!ホントにわかってんのか!?」
「(うっ。あ・・・当たり前でしょ!)」
感傷に浸っていたのに邪魔すんなよ。(いや、そういう状況じゃなかったな・・・)
そんな中、あの態度のでかいシュトロハイムの悲鳴が木霊する。
紫外線照射装置が作動するその先には『赤石』がはめ込まれている石仮面―――それをカーズが被っている!
「お・・・おお神様。」
スピードワゴンが震えながらそう呟く。奇妙な光が放たれた瞬間、ズキッと左眼に痛みを感じた。