辺りはしんと静まり返る。光が消えた瞬間、カーズは倒れていた。 固唾を呑んで立ち尽くす中、そいつ(・・・)はゆっくりと起き上がる。 一体どうしたことか、奴は周りを見渡していた。カーズの目線の先には一匹のリス。 「あ(・)・・・あれを(・・・)!見て(・・)―――ッ。あれを(・・・)―――ッ!」 カーズの腕がモコモコと歪んだのを見て、幻覚かと疑った。 だがもう一度目に映すと、その腕があっという間にリスとなっていた。 しかし可愛さなんてものは微塵もなく、寄って来た野生のリスの肉を食い千切ったのだ。 そのリスがカーズの所に戻ると、花から蝶へと変形していった。 「・・・やった!夜明けだッ!カーズは太陽の光に弱い!」 昇って来た太陽の光で残党は一匹残らず消滅した。 ホッとするのも束の間、太陽を背にしてカーズは立っていた。 「フフフフフフフ。究極の生物とは・・・。あらゆる生物の・・・全ての能力を身につけ、  全ての生命を兼ねる・・・。  そして、あの!美しい!なんという輝き!今まで見た何よりもすばらしい・・・・・・。  あの(・・)太陽をついに(・・・)・・・。ついに(・・・)・・・・・・克服(・・)したぞ!」 そのセリフがどういう意味を示しているのか既にわかっていた。 もうカーズには波紋も効かない。皆が絶望感で震える中、ジョセフは力強く 「たったひとつだけ策はある(・・・・・・・・・・・・)!!」と言い放ち、落ちていた赤石を持って猛ダッシュで駆け出した。 「逃げるんだよォォォ―――ッ。」 「うわーっ。やっぱりそうだったァァァァァァ〜〜〜。」 一部情けない顔をしている者がいるが、彼は決して戦いから逃げている(・・・・・・・・・)訳ではない。 そんなジョセフをカーズが黙って見過ごすはずがなかった。 「もう『波紋戦士』などどうでもいいー!だが貴様だけは『けじめ』だ!  ワムウやエシディシの復讐であり、このカーズの新しい誕生祝いッ!  JOJO!貴様だけはッ!どうしても今殺さなくてはならないッ!」 カーズは私達のことなど目向きもせず、両腕を翼に変えてジョセフを追った。 私は這いずるような不格好でリサリサ先生を抱いたまま、スピードワゴンの腕の中に収めた。 「、ま、まさか追う気か!?止すんだ!奴に勝つ手段など・・・!」 「待て!おれが行く・・・!」 シーザーはそう言って体の向きを変えようとするが、私は彼の腕を掴んで「大丈夫だ。」と首を振った。 怪訝な表情で「おれとの約束はどうする気だ。」と詰め寄った。 ≪大丈夫。余計な真似はしないよ。≫ 行くだけで十分余計かもしれないが、どうしてもジョセフに渡したいものがあるんだ。 シーザーはぎゅっと手を強く握って離してくれなかったが、「絶対戻って来い。」と解放してくれた。 ありがとう、シーザー。そしてゴメン。 もう一度波紋の呼吸をして、一直線にジョセフを追いかけた。何故か隣にはスモーキーがいる。 「ああ!?お前まで何でこっち来て―――!?」 私は懐から懐中時計を取り出して、走りながらジョセフの方へ突き出す。 ジョセフは私に了承を得ず借りていったものであることを思い出し、 「言っとくけどおれじゃねぇぞ!おれが確認した時は既に―――」 分かってる、何も言わなくていいよ。 首を軽く振ってからもう一度時計を持つ腕を近づけた。 ジョセフはよく分からないと言った顔で、静かに見ていたスモーキーも首を傾げるばかり。 「よくわかんねぇけどよ・・・・・・そいつを持ってろって言いたいのか?」 ジョセフの問いに、私はゆっくり頷いた。 何か秘策があったのかと期待を抱いていたのならゴメン。 確証はないけど、何故かそれ(・・)を持っていてほしいと願う自分がいる。 メキシコの時のように、また無事に戻って来きますようにと・・・・・・。 私の強気な目を見て悟ってくれたのか、ジョセフは余計な探りはせず黙って時計を受け取った。 「!スモーキー!おまえらはここまでだ!」 「えっ?」 「、スモーキーと戻れ!」 「待ってくれJOJO!どうして言っておく事があるんだ!  あのリサリサって女の人は!あの女の人はッ、君のッ!」 風に混じって空を切る音を耳にして、私は空に向かって種を飛ばした。 空中に浮かぶカーズの翼を貫通したが、すぐ再生してしまう。 気付いたジョセフはやや興奮気味にスピードを上げた。 「話は後で聞くぜッ!」 「JOJOォ―――ッ!」 崖から飛び降りたジョセフに向かって、スモーキーはただ叫ぶ。 見えなくなって間もなく現れたのは一機の戦闘機。乗っているのはジョセフだ。 「パワー比べをするかーッ!カーズ!」そんな聞こえたのは気のせいではなかった。 (だけど操縦できるなんて初耳だ)銃弾を浴びせるも結果は同じ。 しかしジョセフは慌てる様子もなく、そのまま軍用機をどこかへ飛ばした。 「ね、ねえ・・・・・・本当にJOJOと一緒に行かなくてよかったの?」 ≪私と一緒じゃ邪魔にしかならない。今は彼を信じよう。  あいつは―――絶対帰って来る。≫ 見えなくなった軍用機が飛んでいった空を見ながら、彼の無事を祈った。 ジョセフが今どうしているか、私達には分からない。 ジョージさんに貰った時計を握りしめながら、スピードワゴン達の所へ戻った。 ―――8時間後。ジョセフが乗っていた飛行機の浮きの中に乗り込んでいたシュトロハイムは生還後、 次のことをスピードワゴンに語った。 1939年2月28日 ジョセフ・ジョースター 地中海ヴォルガノ島にて死亡・・・