「体調は良好です。ただ例の病についてですが、のど等に異常はありません。」
「そうか・・・。」
「すみません・・・。私も長年医師をやって来ましたが・・・こんな症状は一度もない。」
ジョージさんとお医者さんの会話に耳を傾けながら
「見たことない症状だ!って思ってるんだろうなあ。」とぼんやり思う。
私も人生でそんな人を見た事ないし、そんな悪い状態に陥ることになるなんて
考えてもいなかったのだから。
それ以降は専門用語?なのか、全く知らない単語ばかりが飛び交うと気を遣ってか、
「後はもう大丈夫だ。」と部屋から退出させた。
扉を閉めると、出て来るのを待っていたかのようにディオが壁に寄り添っていた。
「どうだったんだい?」
≪異常、ない。一度入院、勧められた。≫
「その必要はないさ。その優秀な医者でさえ、わからなかったんだ。
無理して変に刺激させたら大変だ。」
確かに・・・彼の言うことは最もだ。一応ジョージさんも同じように断っていたけど。
「気に病むことはないよ。良くなるまでぼくが支えてあげるよ。」
≪ありがとう。≫
優しい言葉を投げるディオに軽くお辞儀したと同時に変な違和感を抱いていた。
ジョナサンから昔の話を聞いたせいだろうか。
考えてみれば最初の時は突然居座ることになった上、声が出ない人間であるが故に警戒されていたな。
今となってはそれが嘘だったかと思わせるくらい何かと気を配ってくれる。
彼は勉学・スポーツも出来る、絵に描いたような完璧さ。いい人なのに・・・何故か落ち着かない自分がいる。
あと私の聞き間違いか、やけに自分を強調して言っていたような気がする。
「最近ジョジョと一緒にいるようだね。」
突然切り出された話に私は「えっ?」と彼の顔を見た。
ディオは至って冷静で笑みを絶やさず向いているが
まるでエモノを見定めているような瞳がギラギラと私の瞳を捉える。
「(・・・そうだ、私はその瞳が苦手なんだ)」
一体どういう意味でそんなことを聞いたのか気になるが、
早くこの場から逃げたい一心で筆記に手を伸ばす。
≪勉強、教えてもらってる。≫
「なるほど・・・勉強熱心なのはいいが、息抜きもしないとな。」
そう言って懐から出されたのは、先程ジョナサンに見られてしまったノート。
どうしてディオがそれを・・・。
気が付けばその落書きしたページを素早くめくり、とあるページで手を止めた。
「これは・・・ぼくかな?」
途中しか描かれていない絵だが、それを描いた張本人である私には、
その目付きと顔の輪郭で一体誰なのかすぐわかった。
≪ごめんなさい。私が、勝手に描いた。≫
「別に構わないさ。むしろ描いてくれる方が嬉しいんだけどね。」
そう言うと手元にあるノートを私に返してくれた。表には出さないが内心ホッとしている。
「まだおれは『家族の一人としか見ていない』・・・という訳か。」
ディオは一人で何かブツブツと言っているが私はそうとも知らず、念のためノートの中身を確認した。
完全に疑っている訳じゃないが、もしもの為だ。
「勉強ならぼくが見るよ。ジョジョだけじゃなく、ぼくにも頼ってほしいな。
君の力になりたいんだよ。」
「(えっ?ちょっ、ちょっと待って!)」
急に喋るペースを上げ、何故か私の両手を掴んだ。
まだ完璧に英語をマスターしていない私にはもう訳がわからなかった。
「誰か助けて!!」と願わずにはいられなかった。
「―――ディオ??」
この声は―――振り向くとちょうど書斎から何冊か資料を持っているジョナサンが立っていた。
思わずホッとしているとディオの方から小さな舌打ちが聞こえた。(怖ェ!!)
「やあ、ジョジョ。何か用かい?」
「父さんが皆揃ってお茶しようってさっき声をかけて来たから呼びに行こうと思って・・・。」
「そうか・・・ぼくは後から行くと伝えてくれ。・・・また後で。」
ディオにそう微笑まれたが、何だか腑に落ちない。
ジョナサンが不安な顔で見ていたが≪大丈夫。≫と笑みを浮かべた。
「あれ?ノート落ちてるよ。」
あ、ホントだ。ディオに手を掴まれた衝撃で落としたみたいだ。
≪これ、置いて来る。≫
「えっ、父さんに見せないの?」
「(まだ言うのか・・・!!)」
つぶらな瞳で訴えるジョナサンにぐっと堪えながら自分の部屋へ逃げるように走った。
(後ろから「女の子がそんな走っちゃダメだよ!」と聞こえたが)
・・・さて、無事部屋に戻れたのはいいが、もうこのノートは使えないな。
まだ余白あるけどまた同じことが起きたら流石に嫌だし・・・。
せめてもう一度、目に焼きつけておこう。捲っているとあるはずのページがなかった。
「(確か、ここらへんにジョナサンの絵があるはず・・・)」
何度も捲っていると何かがノートから落ちた。
しゃがんで見てみると、破れたあとのある何かの紙くずだった。
当然さっきまでそんな物は挟まっていなかった。だがよく見るとその紙の裏に何か書かれていた。
「(・・・まさか)」
何か書かれている面を表にして、足元に落ちた紙くずをパズルのように合わせた。
所々空いてはいたが、書かれたのが一体何なのかわかってしまった私は動揺を隠し切れなかった。
「(ジョナサン・・・・・・・・・)」
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多分、この時代に失語症(仮)とかあまり見られないから知識が追いついていないと勝手に解釈しました。
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