「。手紙もいいですが、たまには顔も見せて下さいね。」
「(はい、エリナさん)」
「おっ・・・おいらも遊びに行くから・・・!えっと・・・元気でね?」
「(うん!)」
「寂しくなったらあの、そ、その・・・!い、いいつでも・・・!」
「何言ってんのか分かんねーよ!」
「早く治って会いに来てね!」
「(もちろんだよスージー!)」
うるさい二人を残してスージーと抱き合っていると、「何だよ、この態度の差は!!」
ジョセフがブーたれていたが気にしない。
「さあ、行こうか。」
≪うん―――これからは宜しくね。≫
車に乗り込み、もう一度ジョセフ達に手を振った。
「また車酔いすんなよー!」と声が来た時は苦笑するしかない。
もう二度と会えないという空気だが、これから私達が行くのはワシントンD.C.。SPW財団のところだ。
ようやくゴタゴタが終わって本格的に療養生活を送ることになった私だが、
診察と医師達の指示以外は好きなように活動できる。
それに何度か私の口から他人の声が出るという謎の現象もあった訳だが、
今のところ同じようなことは起きていない。
「そういった事例は一度も見聞きしていないが、
君の失語症が治るのもそう長くは掛からないだろう。そうすれば君と同じ患者も救える。」
その言葉とても嬉しいのだけど最後の方だけプレッシャーかけてないかな?
「財団と言ってもそう硬くなることはない。
なるべく君の生活に支障が出ないよう心がけるつもりだ。」
何から何までありがたい。≪そんな構うことないよ。≫と伝えたら、
「友人の力になりたいのはお互い様だ。」と若い頃の彼と同じ表情で返された。
初めてスピードワゴンの仕事場が見られる、
というのもあって緊張よりもワクワク感が勝っていた。
実際に見た財団本部は自分の予想より大きかった。
石油の力、ヤベェ・・・。
検査したり、スピードワゴンやジョセフ達が営む
ジョースター不動産の仕事の手伝いをする日々が続く中、妙な違和感を覚えた。
そう思い始めたのは9月の終わり頃、財団の緑溢れる庭に出て鳥達と戯れている時だった。
・・・・・・何だろ・・・・・・。
最初は気のせいかと思っていた。
しかし時折、50年前に自分の体が消えた時と似たような感覚に戸惑いを隠せなかった。
うまく言えないが、何か時空が・・・・・・この世の空間が歪んでいるような―――
「さん、診察の時間です。」
財団の人に声をかけられた際、先程の感覚は消えていた。
もうすぐこの時代からまた・・・消えるのかな?
そもそも自分は未来から来た『よそ者』だから何時消えてもおかしくないと覚悟していたが、
何故か奇妙な不安感が胸の中で渦巻いていた。
***
深夜。今回珍しく目が覚めた。まだ太陽が出て来る気配がない。
このまま寝直すというのも考えたが、外の空気を吸おうとベランダを出た。
スピードワゴンの家に居候させてもらっているのだが広い。
ジョースター邸と負けないくらい豪邸だ。
「(あ、月赤い・・・・・・)」
『赤』をキーワードに、思い出した私は『赤石』を取り出す。
以前リサリサ先生に渡したら、「本来その石の所有権はあなたにあるのです。」とあっさり返された。
「(所有権って言われてもなあ・・・)」
今になってこの赤石が必要になるのは考えられないし、かと言って捨てるのも何だか悪い。
ネックレスの鎖はないので、何か代用はないかと考える。
胸元で鎖の音を鳴らすウサギの懐中時計に視線を下ろし、そのフタにあいている真ん中の穴を見た。
大きさからしてちょうど『赤石』をはめられる形だ。けどそんな偶然あるのか?
そんな言葉とは裏腹に試してみると、ちゃんとピッタリはまっていた。
「(あ、でもこれだと文字盤見えない!・・・・・・ま、いっか)」
元の時代に戻れない限り、時計として成り立たない訳だが、『お守り』としてならいいだろう。
そろそろ部屋に戻ろうとした瞬間、あの歪んだ感覚が体中を走る。
後ろから視線を感じて振り向くと、すぐ近くに誰かがいた。
「(何なんだコイツ・・・!?)」
一瞬怯んだが、すぐに離れて距離を取った。気配どころか、『音』すら聞こえなかった。
人間・・・じゃない・・・・・・!?
カーズの仲間か―――けれどその考えはすぐにかき消した。
『柱の男』はカーズを除いて全滅したし、(もう一人財団に監視されていたが、今は跡形もない)
アステカ遺跡に残っていた『石仮面』も全て破壊した。
人ではない・・・・・・が、全て否定するような感じではない。
「(正体はどうであれ・・・最近の違和感の原因はあいつらしいな・・・)」
黄金とは言い難いが、それに近い黄色で全身を染めている。
無表情だがギラギラと私を見据えるその瞳があの男を連想させてすごく嫌だった。
すると目の前で戦闘態勢をとって構えを見せた。
「(何だか意味がわからないけどケンカする気満々・・・ってやつだな)」
お互い喋らず(相手は話せるかどうか謎だが)じりじりと距離を取る。
様子見として波紋入りの種を転がす。相手は見向きもせず私に迫って来た。
しかし波紋によって種は発芽し、蔓が伸びて奴の右足をつかんだはずが、そのまま空を切った。
「(そんなバカな!波紋が効かなッ・・・!?)」
すぐに両腕をガードしたがコイツの蹴り、かなり来る。
それでも攻撃しようと腕を動かすが、脇側に今度こそ蹴りが決まった。
本当に何者なんだ!?波紋も効かないし、呼吸も、心臓の音までない・・・!!
骨が折れたようで、体に力が入らない。口の中に鉄の味が広がる。
そういえば私パジャマのままだったな・・・くそォ・・・。
「!こんな夜遅く何をしているんだ?」
「(ッ―――来るなスピードワゴンッ!!)」
まるで「邪魔するな。」と言うかの如く、そいつは彼の方へ飛び跳ねる。
どうやらスピードワゴンには見えていないらしい。
せめてこの人だけは―――ッ!!
体を引きずりながらスピードワゴンを庇うよう腕を伸ばす。
その時一瞬、自分の腕からもう一つの腕が伸びたように見えた。
その拳がそいつの拳がぶつかった同時に、私は白い光に包まれた。