いつか・・・いつか来るのではないかと半分期待していたが、本当にこの時が来るなんて・・・!!
『東京』―――つまり、ここは『日本』。
ようやく故郷へ戻れたと同時に、ジョセフ達に黙って(自分の意志ではないが)
消えてしまったことを心の中で詫びた。
≪この近くに両替屋とかありませんか?≫
不本意とは言え入院してしまった訳だし、帰りの運賃も日本円に替えてもらわないと―――。
(私が今持っているこの額なら払えるかもしれない)
「まあ!古いドル札ね。全部50年も前のものだけど・・・あなた帰国子女?」
いっ・・・・・・今なんて言った・・・?50年前だって・・・!?
≪ちなみに今―――何年代ですか?≫
もう嫌な予感しかしない。それでも私は縋る気持ちでおそるおそる聞いてみた。
「えっ?今は1987年のはずだけど・・・。」
やっぱり神様は私を見放したようだ―――。
***
そんなことだろうとは思っていた。
でも少しくらい希望を抱いたっていいじゃないかチクショー・・・。
この年代なら既にうちの両親は存在しているはずだけど、私が生まれるのはその4年後だ。
どうしようかと思っている私の顔を、先程の女性が窺っていた。
「ねえ、何があったのか分からないけど・・・よかったらあたしの家で休んでいかない?」
「(はっ・・・!?なっ、何を言っているんだ、この人は!)」
「あたしのことは気にしないで!今あたしと息子の二人しかいないから・・・きっと賑やかになるわ!」
≪―――何故ですか?他人を・・・何者かも分からない私を家に入れるなんて・・・!≫
なんて嫌なことを言うんだろう私は・・・。
それにも関わらず、その人は変わらぬ笑顔で私の両手を握り締めた。
「そんな悲しい顔しないで。可愛い顔が台無しよ。
それに―――あなたのことはパパから聞いているわ。」
「(パパ・・・?)」
私に微笑むこの女性―ホリィさんはなんと、あのジョセフの娘さんだと告白した。
何でも小さい頃から私と一緒に写した集合写真をジョセフが見せたり、どんな人物だったのか語ったらしい。
(あれ?前にもこんなことあったような・・・)
だからなのか、それともただの天然?からか、
当時と全く変わらない私を見て不審に思っていないようだ。
しかし友人の娘さんにまでお世話になってしまうなんて本当に申し訳ない。
居候することが既に決定済みのようで、
ホリィさんは「早速パパに電話しなくちゃ!」とルンルン気分だ。
「(あれ・・・?でも私、まだホリィさんの息子さんに会っていないぞ・・・?)」
それに彼に連絡もなしで勝手に住みついちゃっていいのか・・・?
「着いたわよちゃん。今日からあなたの第二のお家よ。」
自分がうんぬん考え込んでいる間にもホリィさん宅に着いていた。・・・それよりも何だ、この大きさは。
アレか。ジョースターの血が入っている人間は必ずこういう家に住む法則でもあるのか?
日本風情を感じる『和』を全面的に出しているこの家と自分の家なんて比べようにならない。
(こっちなんて賃貸だし)
「疲れたでしょ?うちの子まだ帰って来てないようだし・・・先に休んでなさい。」
ではお言葉に甘えて!!
用意された部屋にふとんを敷き、私一人には勿体無いくらいの空間を眺めた後、
フカフカのふとんにダイブした。(あ、このタイプうちの同じ・・・)
「(はあー・・・気持ちいいなあ・・・。この感触、畳の香り、木のにおい・・・すごく懐かしい・・・・・・)」
長い間、外国で生活していた私にとってこんな嬉しいことはない。
本当だったらジョセフ達の所に電話したいのだが、まだ『声』は出ない。
カーズとの戦いであの現象が起きたけど、今も相変わらずだ。
「(皆に会いたいな・・・・・・)」
疲れと睡魔に負けてちゃんと掛け布団の中に入らないまま目を閉じていた。
夜になるまでグッスリ寝ていたが、自分の頬を誰かが叩いていたことに意識が浮上した。
誰なんだ・・・?もう少し寝かせてよ・・・・・・
「おい、起きろ。」
低く威圧感のある声に思わず体を起こした。
私を起こした当の本人は帽子を深く被り直して「・・・メシだぜ。」と短く答えて部屋を出ていった。
びっくりして一瞬固まっちゃったけど、もしかしたらホリィさんの言う例の息子さんかも・・・。
「あら、ちゃん。よく眠れたかしら?」
≪おかげ様で・・・。≫
「ありがとう承太郎!ちゃんと呼んで来てくれて。」
「・・・フン。」
「あ、この子があたしの息子の承太郎よ。素っ気ない所があるけど仲良くしてね。」
そう言うホリィさんに対し、承太郎と呼ばれた人は表情を見せず無言を貫いていた。
あれ?前にもどっかであったような・・・・・・。
事はそんなに上手くいかないとは言うけど、今のこの状況はまさに・・・
「こいつはくせえッー!デジャヴのにおいがプンプンするぜッ―――ッ!!」
だよ、スピードワゴン・・・・・・。
***
実際のドル札がそうなっているかは定かではありません・・・。