いろんな不安を抱えたまま新しい居候生活を迎えることになった訳ですが、
早速例の人と鉢合わせしちゃいました。
「・・・。」
「・・・。」
≪―――おはよう御座います。≫
「・・・ああ。」
なんて長い沈黙だ。ジョセフ並の体格もあってかなり威圧感がある。
今までクールな人に出会っていないからか、彼とどう対応すればいいか分からない。
ホリィさんはハートマーク付きで明るく接してるけど、流石にそんな勇気はない。
「おはよう承太郎!ちゃん!」
≪おはよう御座います、ホリィさん。≫
笑顔で迎えるホリィさんに対して承・・・空条さんは返事もせず席に座った。
これは・・・あれか。噂の反抗期か。
ホリィさんはホリィさんで「もう〜つれないわね〜。」あまり気にしていない様だ。
(いいのかなあ・・・ハッ!鮭に納豆ッ!)
「片付けくらいあたしがやるのに〜・・・。」
≪このくらい私にやらせて下さい。≫
食べ終わった茶碗やお皿を洗面台に置いて、スポンジに洗剤を浸け込んで泡を立てた。
家事の手伝いをするのはもう恒例行事だ。(先程食べた2年ぶりの『日本食』は最高に美味しかった!)
「あっ!承太郎ったらお弁当忘れてる!」
≪届けて来ますよ。≫
「あら、いいの?今ちょうど登校時間だからきっと分かるわ。」
お弁当かあ・・・。そういえば彼も私と同い年なんだっけ・・・。
(外国人の血が入ってるせいか年上に見えてしまう)
通うはずだった高校生活って一体どんな感じだろう・・・。
「(あ、何だ・・・そんな遠くから離れていなかったな)」
空条家から出て意外にもすぐ彼を見つけた。(体格とかで簡単に判断できちゃうしね)
本来なら声をかけるとこなのだが、今の私には肩を軽く叩くしかない。
すると何故か睨みをきかせた顔だけを私に振り向いた。
「・・・・・・何だ、てめーか。」
第一声がそれかよッ!
『勇気』と『声』があったなら、そう言っただろう。
一瞬鋭い眼光にビビッたが、彼を追った目的であるお弁当を突き出した。
≪忘れ物です。≫
でも本心は眉間にしわを寄せて受け取ろうとしない。
もう一度彼にズイッと近付けるが、うんともすんとも言わない。
一体何が気に食わないのか知らないが、親が一生懸命作ってくれたお弁当を受け取らないのは許せん。
「・・・!おいっ―――」
≪絶対持っていけよ。私のことはいいけど、ホリィさんのこと無視しないでよ。≫
ムッと来て、つい乱暴な口調で書いてしまったけど別にいいや。
さっさと戻ってホリィさんのお手伝いしなきゃ。
***
ホリィさんに頼まれた買い物リストをコンプリートしてスーパーから出ると―――
真っ先に怖い人達に囲まれました。What's・・・!?
「おまえ・・・空条の女らしいな。ちょっとおれ達に付き合ってもらおうか。」
「(嫌です)」
うーん・・・人を外見で判断するなって言われてるけど、本当に不良だったなんて・・・!
何か因縁的なものを感じるけど―――あの人は一体何をしたんだ?
「(面倒事はごめんだけど、公共の場にいる訳にはいかないなあ・・・)」
絡む不良達に応じるフリをしてスーパーから距離を離した後、レジ袋を肩に持ち直して路地を蹴った。
まさか逃げると思わなかった彼らはすぐ追って来たが、波紋入り『種』を数粒転がした。
発芽した蔓のえじきになっている奴らと、運良く回避できた奴らとキレイに別れた。
「(ああ〜面倒くさいなあ・・・。相手してもいいけどホリィさんに迷惑かけたくないからなあ・・・・・・)」
すると前方から聞いたことある『足音』に思わず視線を向けると、その本人が立っていた。
その緩みが仇となり、後ろから追って来た不良の一人に腕を掴まれる。
「そこ動くなよォ空条ォ!一歩でも動けばおまえの女の腕へし折るぞッ!」
やれるもんならやってごらんよ。逆にアンタの腕が使い物にならなくなるけど。
「・・・おい。」
「(ん・・・?)」
「目ェつぶってろ。」
何の意図があるのか分からないけど言われた通りにしておこう。
(何も見えなくても『音』さえ聞こえていれば問題ないし)
代わりに聞こえて来たのは『オラオラッ!』という謎の掛け声と『殴る音』、『男達の悲鳴』しかない。
音が止んだので目を開けてみると、周りが呻く男達で埋め尽くされていた。うん、すごいシュール。
「わかっただろ。」
「(はい?)」
「おれと関わるとロクなことがねえぜ。」
≪―――そのようですね。≫
それ以前に厄介事に巻き込まれるのは、これが始まったことじゃない。
空条家のお世話になる以上、関わるなって言われても避けても通れないでしょ。
≪お弁当は?≫
「は・・・?」
≪ホリィさんのお弁当、ちゃんと食べたんですか?≫
「今そういう状況じゃねえだろ。」と言いたそうな顔で長い間を作ると、ぶっきらぼうに頷いた。
≪作ってもらうことは当たり前のように思うけど、それってすごく有難いことなんだよ。≫
「・・・・・・何が言いてえんだ。」
≪今の私にはお弁当を作ってくれる人はいない・・・。
自分からすれば貴方は勿体無いことしてるなと思って。≫
あ、でも流石にこの言葉―――自分勝手すぎたな・・・。
謝ろうと空条さんを見たら、面食らった表情になっていた。
「・・・変わってるな。おまえ・・・。」
≪よく言われます。≫
再び沈黙に包まれるが、空条さんは重く(多分)息を吐いて背中を向けた。
「帰るぞ。」
思わず彼を凝視したが、我に返った私は先に歩く空条さんの後ろを追った。
ジョナサン、ジョセフに続いて(こっそり)子孫も優しくないな―――とか言ってゴメンね。
≪空条さん。≫
「何だ。」
≪二度も助けてくれてありがとう。≫
「・・・二度?」
≪池に落ちた私を引き上げたって・・・。≫
「・・・今更だな。」
≪確かに今更ですね。≫と伝えたら、フ・・・と静かに笑みを浮かべた。
「・・・それより・・・。」
「?」
「おまえ、いくつだ?」と訊く空条さんに≪同い年です。≫と答えると、また眉間にしわを寄せた。
「・・・・・・だったか?その堅苦しい口調はやめろ。『空条』と呼ぶのもよせ。」
だったら何て呼べばいいんだと訊けば、「下の名前でいい。」と真顔で返された。
(そういえばこの人いきなり呼び捨てにしなかったか!?)
何か順序が逆のように感じるけど、とりあえず頷いておいた。
はあ・・・・・・何かドッと疲れたなあ。