「―――ッ!」
「ちゃん大丈夫!?ひどく魘されていたのよ。」
気がつくと視界にはジョセフとシーザー、ホリィさんの顔がどアップで映っていた。
皆に駆けつけられる程うなされていたのか私は。
「本当に平気か?」と心配かけてしまったが、
汗でじっとりしたパジャマが気持ち悪いのを除けば、至って平気だ。
自分の声が出ないことに病人だと決めつけられているのに、これ以上不安事を増やすのはご免だ。
「(でも同じ夢を二回も見るなんて・・・)」
『夢』というものは、自分の記憶を適当に組み立てたものだって聞いたけど、
本当に意味なんてないのだろうか・・・?
家の中が騒がしいなと思えば、すぐに静かになった。
近くにいたアヴドゥルさんに話を聞けば、ケガをした同じ学校の生徒を承太郎が助けたと言う。
事故でも何か遭ったのだろうか。
「ちゃん、花京院君って子の所に運んでくれる?」
「(もしかしてアヴドゥルさんが言ってた人かな・・・)」
ホリィさんの頼みを快く引き受け、おかゆが入った鍋を渡された。
案の定、電気が点いていた。軽く引き戸をノックすれば、「どうぞ・・・。」と控えめな声が返って来た。
簡単な挨拶を済ませ、≪後で片付けるから、ゆっくり食べてね。≫部屋を後にしようとした。
「あの・・・あなたは・・・?」
≪―――です。初めまして。≫
そうか、自己紹介していなかったからか。知らない人がいきなり出て来て困るもんね。
「そうか・・・君が・・・・・・。」
何か引っかかる言葉を思いっきり口から出したが、「何でもない。」と顔を逸らした。
とりあえず、≪ケガ治るといいね。≫そう言葉を残して部屋を後にした。
(障子を閉める時、驚いた表情をしていたのがチラッと見えた)
***
三度目の正直―――というのは、まさにこの事だ。
いつもと同じ暗い風景だが、一つ違うのは、ジョナサンの首がイバラで巻きつけられていることだ。
『夢』だと分かっていても、こんな姿のジョナサンを放っておくことはできない。
「ううっ・・・だめだ・・・来ちゃ・・・だめだっ・・・・・・。」
どうしてそんなこと言うんだ?
首だけになっていたって、ジョナサンはジョナサンだよ。
「違っ・・・うんだ・・・・・・。君をっ・・・巻き込みたくないっ・・・!」
既に巻き込まれてるんだけどな、と口にはせず、彼の元へ近づいた。
今気づいたのだが、今の私は裸足で、足元にはイバラが張り巡らされていた。
トゲが足の皮膚を引っかくが、気にせず進もうとした。だが、これ以上前には行けない。
イバラがすごく邪魔ッ!
「待っていたぞ。」
別の男の声が聞こえ、それと同時に嫌な汗が頬を伝った。
ここは『夢』の中のはずなのに、現実味があって生々しい。
反射的に振り向くと、その声の主であろう人物が立っていた。全体的に影がかかっていて、顔すら見えない。
どこかで聞いたことあるような・・・誰だっけ?
そんな私を、目の前にいる人物はくつくつと楽しそうに声を漏らす。
「予定が少し狂ったが、ようやくおまえに会えた・・・。」
腹の底から沸きあがって来るこの忌々しい感じ・・・一体誰だッ!?
「そう怖がるな・・・。わたしに身を任せれば永遠の不安感などなくなる・・・
絶対に逃がさんぞッ!!」
そいつの背後からスピードワゴンのテラスで襲って来たあの黄色い奴が現れ、
命の危機を感じた私はすかさず構えを取った。