船を大破される前に偽船長を叩けたのも束の間、突然船が動かなくなった。 もう一つの爆薬が仕掛けられていたのかと疑っていたが、そのような衝撃はない。 先程海に潜んでいた偽船長の『スタンド』がスクリューを破壊した影響らしい。 ボートに乗り移り、救助信号を受けた船が来るのを待ち続けた。 「み、み・・・み・・・みん、みんみんみん、みんなあれを!見て!」 かなり慌てた声を出す女の子に目を閉じていた皆は指摘された方へ視線を向けた。 今乗っているボートがとても小さいと思うほど巨大な貨物船だ。 (意識していなかった為、『音』を感知していない) 「承太郎・・・何を案じておる?  まさかこの貨物船にもスタンド使いが乗っているかもしれんと考えているのか?」 「いいや・・・・・・。・・・タラップがおりているのに、なぜ誰も顔をのぞかせないのかと考えていたのさ。」 その言葉に何人か私を見た。 貨物船だと発覚した時から神経を研ぎ澄ませていたが、『足音』すら聞こえない。 確かに躊躇するが、中に乗らなければこれ以上確認できない。 ポルナレフさんに続き、船員達も一斉に乗り込んだ。 辺りを見渡してみるが人影はない。それなのに機械類の『音』もちゃんと聞こえる。 「・・・どうだ?何か聞こえたか?」 「(いいえ)」 アヴドゥルさんに軽く首を振ってから、ふと視線を逸らした後、背後から何か動く『音』を察知した。 すぐに振り返り、水兵を狙うクレーンに向かって『ピーター』の蹴りをお見舞いした。 しかし別のクレーンがターゲットを変更して別の水兵の頭を突き破った。 独りでにクレーンが動いたことに動揺を隠せなかった。 でも一番ショックなのは、更に攻撃して来ることを想定しなかったことだ。 近くにいたアヴドゥルさんが宥めるように私の肩を抱いた。 「・・・君が責任を感じることはない。  あのクレーンに気づかなくても、最初からああ(・・)なる運命だったかもしれない・・・・・・。」 私は何も答えず、ただ小さく頷いた。くよくよ考えても仕方ない。 「ね、ねえ・・・・・・。」 ≪何?≫ 裾を引っ張って来たのは意外にも例の女の子だった。こっちに来てと言わんばかりに船室に案内される。 ジョセフ達が見たオランウータンだ。 「錠をあけてほしいって言ってるみたい。キーがどこにあるかわからないんだけど・・・。」 ≪それは私も同じだよ。エサをやってる人さえ見つからないし。≫ 「そう・・・。」と女の子は私からサルに視線を移す。 サルがマッチに火を点けてタバコをふかしたり、 何故か隠し持っていた雑誌を眺める様子を固唾を呑んで見ていた。 私は生物らしからぬサルの目を見て、ゾワッと悪寒を覚えた。 「おい!気をつけろ!オランウータンは人間の5倍の力があるというからな。  腕ぐらいかんたんにひきちぎられるぞ。」 「さあ向こうの部屋で我々といっしょにいるのだ・・・。ひとりになるな。」 水兵達に後押しを受けて船室を去った。 ホラー映画ばかり観たせいか、あのサルが気になってしょうがない。 *** もうすぐ日が暮れるまであと僅か。船室の中で固まる水兵を横目に周囲を警戒した。 私が周囲に目を向けているのを見張っていると思ったのか、女の子はシャワー室に入った。 緊張感があるのかないのやら・・・。 ふと、船室から何者かの気配を感じた。『足音』なんてなかったのに何故―――? 「(誰だ?出て来るならさっさと出て来い)」 『ピーター』で記憶した『声』で言えば簡単だが、後方には女の子がいる。 ましてや『スタンド』が見えない彼女に、 聞き覚えのない『声』を聞かせて変に恐怖心を芽生えさせるのはあまり勧めない。 扉から血に濡れた手を伸ばす―――オランウータンである。 その後ろの光景に目をやれば、全ての水兵が死んでいた。 やはり・・・)・・・・・・ただのサルじゃないとすればコイツが―――! すると突然外れた扇風機が後方から私の肩を突き刺した。 抜こうとする前に鋼のプロペラがひとりでに曲がった。(あ・・・何かやばい) 「ホゲッ。」 「てめーの錠前だぜ、これは!」 承太郎がオリに付いていた錠でサルの頭を殴ったことで扇風機は力なく落下した。 念のため粉々に蹴っておく。 「『承太郎ッ!』『危ないッ!』」 咄嗟に『声』を出してしまったが、やむおえない。だがその一声も空しく、ホースが承太郎を拘束した。 気が付けば私も承太郎のように壁に埋め込まれていた。 シャワー音で聞き取れなかったようだが、女の子が体を布で覆いながら不穏な気配に顔をのぞかせた。 「JOJO!さんまで・・・・・・一体何が!?」 水夫や女の子にも見える『スタンド』―――しかもこの貨物船自体がそう・・)であるなんて・・・。 でもこの巨大なパワーは、そう考えるしかあるまい。 完全に勝ち誇っているサルは無防備である女の子に近づく。 だが何かがサルの後頭部に当たる。承太郎の学ランに付いていたボタンだ。 「そのボタンはてめーの・・・・・・・・・・)『スタンド・・・・)』じゃあねーぜ・・・・・・)。」 挑発に乗ったサルは奇声を上げて承太郎に襲い掛かった。 「傷つくのは・・・!てめーの脳天だ!」 『スタープラチナ』が(文字通り)伸ばした指先でサルが律儀にもつかんでいたボタンを弾いた。 苦痛に悶えるサルの体力も限界からか、壁から抜け出せた。 一方のオランウータンは降伏のしるしとして自分のハラを見せている。 しかし既にこいつは動物としてのルールの領域をはみ出した。 「おい、も何か言ってやれ・・・・・)。」 結局何もできなかった私への気遣いだろうか。 けど、やられっぱなしは性に合わない。『ピーター』を発現させ、自分も一緒に蹴りの連打を食らわせた。