乗って来たボートに再び戻った私達はボロボロになっていく『スタンド』の貨物船を背にして シンガポールへ向かう。 承太郎が気づかなければ全滅していたと冷や汗を流すジョセフだが、 一向に私を参戦させることに頷いてくれない。事情を知らない花京院も反対していた。 「ぼくもあまり気が進めませんね・・・。  『スタンド使い』でも、彼女の能力は戦闘には不向きかと・・・・・・。」 「うむ、しかし彼女がいなかったら『暗青の月』のスタンドを撃破できなかったかもしれん・・・・・・。」 「おいアヴドゥル!」 お前まで何を言ってるんだ、と声を上げるジョセフは 老いた頃のスピードワゴンのような頑固者になっていた。これは長期戦になるな・・・。 「いいじゃねえか、同行させて。」 タバコを新たに取り出して火をつける承太郎が静かに口を割った。 「話を聞く限り・・・そいつはじじいより戦闘経験が長い。  その『波紋』とやらに加え『スタンド』のパワーは十分ある。  おれが今まで会った女共より肝が据わっている・・・・・・。」 一番反対しそうな承太郎が意外な言葉を口にする。 皆はもちろん、私も食い入るように見ていた。 「おれも同感だ。この先おれ達を襲って来る敵を把握するには重宝したい。」 承太郎に続きポルナレフさんも一票入れる。 ジョセフは芋虫を噛み潰したような表情だ。 「そうですね・・・日本へ送還するとなると逆に危険かもしれない・・・。」 「ジョースターさん、あなたの気持ちはわかりますが、今はできるだけ仲間は多い方が・・・・・・。」 ついにアヴドゥルさんも賛同に出て来る。 何だかジョセフには悪いように感じるが、アヴドゥルさんがそう言ってくれるのは心強い。 「でもよ、何故そこまでを過保護するんだ?50年も昔の話だが、共に戦った仲なんだろう?  今更何を躊躇するんだ?」 答えは分かっているので訊く必要はないが、ポルナレフさんの一声でようやくジョセフが折れた。 (かなり渋々といった態度だ) 「・・・もうあの頃のように無茶だけはせんでくれ。」 ≪―――善処するよ。≫ 途中参加という形だが、これで正式にジョースター一行の一員だ。 *** シンガポールのホテルにチェックインしたのも束の間、 アヴドゥルさんから「ポルナレフがスタンド使いに襲われた。」と伝えられた。 そのスタンド使いに襲われた時の対策を練り始めたのは、 後から『悪魔(エボニーデビル)』を倒したポルナレフが来た直後であった。 それぞれ部屋に戻る中、私はジョセフと同室であるアヴドゥルさんの元へたずねた。 ≪アヴドゥルさん、一つ訊いてもいいですか?≫ 「何かな?」 ≪私が100年も前のイギリスにタイムスリップした時に・・・  そこで初めて自分が『声』を失ったことに気づきました。  ―――恐らく自分のスタンドが関係しているのではないかと思って。≫ 「ふむ・・・。確かにその可能性は高いな。  スタンド能力だけ表に出るとなると、まだ発展途上という訳だ。」 そうであるなら『波紋』が使えたことにも合点がいく。 しかし、『スタンド』自体が具現化したことで、一つ解せない点が浮かんだ。 ≪ピーターを発現したのに・・・『声』が出ないままなんです。≫ 「何?」 スタンドが原因であるとばかり思っていた私はなるべく早くこの悩みを解決しようと、 彼に相談を持ちかけたのだ。運良く解決策が出ればいいのだが・・・。 「君のスタンドを見せてもらってもいいか?」 私は頷いて、引っ込めていた『ピーター』を発現させた。 ムキムキになれなかった私の代わりに、 この子には『スタープラチナ』に負けないくらいの筋肉がついている。 今は持っていないが、『エイジャの赤石』と同じ赤い瞳をしていた。 そして何故か、『ピーター』の頭部に恐らくシカのものであろう角が二本も生えていた。 「いろんなスタンドを見て来たが・・・・・・こんなスタンドは初めてだ。  このフォルム・・・『ジャッカロープ』のようだな。」 ≪―――ジャッカロープ?≫ 「アメリカのワイオミング州などに棲息すると言われる未確認動物さ。  生体の目撃記録はないが、外見は頭部にシカの角が生えているウサギで、人の声真似が得意らしい。」 まるで『ピーター』そのものじゃないか! (いや、声を『再生』してるだけだから『真似』とは言えないか) 「期待に応えられなくて、すまない。」 「『問題ありませんよ』『話を聞いてくれただけで十分だ』」 スタンドを発現させたままだったので、別の人の『声』で返した。 用が済んだので部屋を出ようとしたが、アヴドゥルさんに止められた。 振り返ると、何故か浮かない表情でいる。 「・・・ジョースターさんには決して言うな、と止められていた・・・。  だが、この旅に加わった時点であえて伝えておきたい。  ただ・・・・・・気を悪くさせる話でしかないのだが・・・。」 「『関係ないね』『教えて下さい、その話を』」 もう一度私の顔を見ると、意を決した様子でアヴドゥルさんは口を開く。 「ジョースターさんが君を同行させようとしなかったのは・・・  わたしの占いが原因の一つであるからだ。」 そういえば、彼の本職は占い師であることを思い出す。 当たるかどうかはさておき、どんな結果が出たのか正直気になる。 「『どんな結果が出たんですか?』」 だが、アヴドゥルさんは答えない。本当に言っていいのか、と思わせる表情だ。 それが拍車にかかり、思わず冷たい口調の『声』をチョイスした。 「『何なんですか?早く言って下さい』」 「・・・君の占いに、『死』を案じさせるカードがあった。」 嫌な単語に、眉間にしわを寄せる私に対し、アヴドゥルさんは切羽詰った声をもらした。 「我々とカイロまで行けば―――『死』の運命から逃れられない。」