昨日はよく眠れなかった。
気を遣って私一人分の部屋をチェックインしてくれたのに、ジョセフ達に申し訳ない。
そのおかげで例の悪夢を見ずに済んだのだから前向きに考えよう。
(ようやくボロボロパジャマからYシャツとジーンズに変えられた)
「(悪い結果だろうが・・・『死』を覚悟して来たんじゃないか!)」
自分の両頬を叩き、気合を入れ直した所で部屋を出た。
しばらく歩いていると、ちょうどジョセフとアヴドゥルさんがいる部屋の方から
尋常ではない物音が響く。(いや、そもそも物音といえるのか?)
嫌な予感を覚え、一目散に部屋のドアを叩く。
私であることを示すノック数で叩き終えると、少し間をあけてからドアが開いた。
心底ホッとしたジョセフの顔が飛び込んで来た。
「『一体何があった?』」
「いや・・・DIOの考えを読もうと『スタンド』を使ったんだが、まずいことになった!」
何があったのか説明してもらい、私は驚かずにはいられなかった。
花京院が、DIOの手下・・・?
「『・・・本気で言ってるの?』」
「わからぬ・・・わしは花京院を信頼しておる!なにか理由があるはずじゃ!」
ジョセフがこう強く言っているのだから何かありそうだ。
そういえば、承太郎と例の女の子と一緒にバスか列車の手配をしに出かけるって言ってたな。
「!承太郎達を追ってくれ!花京院も一緒にいるはずじゃ!」
「しかしジョ―スターさん。もし何かあったら・・・!」
「『任せて下さい』」
占いのことを話したからか、アヴドゥルさんの表情はあまりよろしくない。
不安がるのは無理もないが、私だって『スタンド使い』だ。
そして『波紋使い』であるってことを―――証明してみせますよ。
***
シンガポールは観光地だけあって、人の数も多い。
足音や呼吸音の数が多すぎては流石に『ピーター』の耳では聞き分けることができない。
『スタープラチナ』程の視力ではないが、一旦高いビルに入ってから屋上から捜そうかな・・・。
「(ん・・・?)」
前方がやけに騒がしいなと視線を向ければ、その本人達がすんなりと見つかった。
しかし、説明できない雰囲気に私は木のかげに隠れて様子を窺う。
「この、こえだめで生まれたゴキブリのチンボコ野郎のくせにおれのサイフを!
そのシリの穴フイた指でぎろうなんてよぉ〜〜〜っ!!」
バックブリーカーをかまし、更に下品なセリフを吐いた。
とても花京院とは思えな・・・・・・いや、あいつは花京院じゃない。
足音のくせや呼吸音、という以前に『声』が違う。
私からすれば絶対違うといえるのに、承太郎達が気付かないというのも不思議だが、
ボロ出すまで様子を見ておこう。
「(それにしても、よりによって花京院に成りすますなんて・・・・・・
とんだイメージクラッシャーだよ)」
貿易センタービルまで大人しくしていた偽花京院だが、
かなりわざとらしい動作で承太郎の背中を押した。
そこに女の子が慌てて腕をつかんだ為、大事なく済んだ。
「じょうだんですよぉ〜〜〜っ。承太郎くん。」
何が冗談だ。そしてその面でチェリーを舌の上に転がすな。
「また!なにバカづらしておれをにらんでいるんだよぉ、承太郎先輩!
あんた、まさかじょうだんも通じねえコチコチのクソ石頭の持ち主って
こたあないでしょうね〜〜〜?」
・・・・・・決めた。あいつはすぐにブッ飛ばす。
DIOの情報を聞き出そうかと思ったけど、承太郎達に危険が及ぶ前に、
ケーブルの中に押し込んでやる。
「ケーブルカーが来たぜ。乗れといってるんだ。
この、おれの切符でな。」
拳でブッ飛ばす気満々の承太郎に悪いが、ここは私がやる。
こっちは拳じゃなく、脚だけどね。
「!おまっ―――」
何か言おうとしていた承太郎の言葉が途切れた。
それもそのはず。私が蹴り飛ばした偽花京院の顔がバガッと割れた。
うーん・・・80年代くらいに出てきたSFホラー映画とかに、
こんなのあったような、ないような・・・・・・。
「これが、おれの本体のハンサム顔だ。」
どこがだよ。
なんて悪態ついていると足元に違和感を覚え、顔を上げる。
ジョセフが急いで買ってくれた靴が、謎のヘドロで絡みついている。
花京院の顔に化けていた『黄の節制』の一部のようだ。
「いっておく!それにさわると手にも喰らいつくぜ。
じわじわ食うスタンド!喰われたくなかったら大人しく付いて来な!」
「や、やろー・・・・・・・・・。」
『オラアッ!』
『スタープラチナ』の拳が男に向かっていくが、『黄の節制』によってガードされた。
それに触れたスタープラチナの腕に、巻きついた。
弱点はない!と豪語する一方、ケーブルカーに揺られながら私は考えた。
肉と一体化する『スタンド』・・・・・・間違ってはいないようだ。
そうなると『山吹き色の波紋疾走』でも効かないだろう。
ケーブルカーの窓に映った海を見て、私は承太郎にアイコンタクトで訴えた。
(うまく伝わっていればいいんだけど・・・)
「やれやれだ。」
いつものセリフを口にした後、スタープラチナの拳で床を殴り破った。
奴に捕まっているため、一緒に落下していく。
落ちた場所は海。水中に落ちてしまえばいくら無敵だろうが、
本体が死ねば『スタンド』も死ぬことになる。
男はすんなりとスタンドのガードを開いた。
「理解したか?」
承太郎はもろもろの意味を込めて質問した。答えは不要。
あとは殴るだけだから。