男の鼻をへし折ると、そいつは「もう再起不能だ。」と命乞いし始めた。
承太郎がこれから襲って来る『スタンド使い』の情報を脅し混じりに吐かせた。
『死神』『女帝』『吊られた男』『皇帝』の4人。
その中に、ディオに『スタンド』を教えた魔女の息子―――
ポルナレフの妹の仇がいる。
「そいつの能力は少しだけ、うわさで聞いたぜ・・・。
『鏡』だ。『鏡』を使うらしい。
実際見てねーが、ポルナレフは勝てねーだろう。」
あっさりとペラペラ喋る男は承太郎の側にある排水口を見た。
男が陸に上がりながら、不敵な笑みを浮かべる。
「そこんとこの排水口だが、ザリガニがたくさんいるだろう。
よく見てみな。」
「『それじゃあ貴様は』『そこのマンホールを見てみな』」
『黄の節制』がマンホールへ入っていく寸前に、蓋から勢いよく蔦が飛び出した。
排水口にこっそり『種』を入れておいたのだが水に浸っていたのもあって、
思ったよりも早く『成長』したようだ。
「プゲェーッ。」
ムチと化した蔦が男の顔面に命中すると、情けない声がもれた。
全く・・・『ピーター』の耳がどれだけいいか忘れたのか?
承太郎が再び水に落ちて来た男の髪をつかむ。
形勢不利とみるや態度を一変。恥も外聞もない命乞いに出た。
こいつの言動からすれば、本当にディオに金で雇われたようだ。
(しかも私だけを連れて来いって・・・何故?)
「ま・・・まさか・・・もうこれ以上、殴ったりしないよね・・・・・・・・・・・・?
重傷患者だよ。鼻も折れてるし、アゴ骨も針金でつながなくちゃあ。
ハハハハハハハハハハ。」
私は無言で男を見下ろす承太郎のそばに近寄り、静かに『スタンド』を発現した。
「もう、てめーにはなにもいうことはねえ・・・。
・・・・・・・・・とてもアワれすぎて、何も言えねえ。」
怒りが頂点に達した承太郎の口からは、ただ「オラオラァ」という怒号だけが響き渡った。
最後に『ピーター』の「オラオラァ」で締めた。
***
インドという国は、ジョセフはもちろん、私も初めてだ。
『人口が多い』『カレーをよく食べる』ことくらいしかイメージがない。
(ああ〜〜〜カレー食べたい!!!)
あれ、何かジョセフと同じこと言ってるような・・・・・・。
「要は、なれですよ。なれればこの国のふところの深さがわかります。」
「なかなか気に入った。いい所だぜ。」
「マジか承太郎!マジに言ってんの?おまえ。」
このチャーイ・・・初めて飲むけど中々美味しい。結構好きかも。
もう一杯頼もうとした所に、
突然手洗い場の方からガラスが割れたような音が響いた。
(実際割れていたのは鏡だったけど)
「どうしたポルナレフ。」
「何事だ!?」
「いまのがッ!今のがスタンドとしたなら・・・・・・・・・ついに!」
ポルナレフの表情が、いつもと違う。
仇を前にして怒りを露わにするシーザーのように。
「ついに!やつが、きたぜッ!承太郎!!
おまえらがきいたという、鏡をつかうという『スタンド使い』が来たッ。」
嫌な予感がしてならない。
念のため、『ピーター』を発現させたが、それらしき『音』がない。
人数が多いというのもあるけど・・・・・・。
すると突然、ポルナレフが別行動をとると言い出した。
「妹のかたきがこの近くにいるとわかった以上、
もうあの野郎が襲ってくるのを待ちはしねえぜ。
敵の攻撃を受けるのは不利だし、おれの性に合わねえ。
こっちから探し出してブッ殺すッ!!」
「相手の顔もスタンドの正体もよくわからないのにか?」
「『両腕とも右手』とわかってれば十分!
それにヤツの方もオレが追っているのを知っている。
ヤツもオレに寝首をかかれねえか心配のはずだぜ。」
「こいつはミイラとりがミイラになるな!
ポルナレフ、別行動はゆるさんぞッ!」
「なんだと。おめー、おれが負けるとでも!」
「ああ!敵は今!
おまえをひとりにするためにわざと攻撃をしてきたのがわからんのか!」
「いいか。ここではっきりさせておく。
おれはもともとDIOなんてどうでもいいのさ。」
香港で復讐のために行動を共にすると聞いているジョセフ達はただ無言を貫く。
「かってな男だ!」とアヴドゥルさんが言う。
「DIOに洗脳されたのを忘れたのか!
DIOが全ての元凶だということを忘れたのかッ!」
「てめーに妹を殺されたオレの気持ちがわかってたまるかッ!!
以前DIOに出会った時、恐ろしくて逃げ出したそうだなッ!
そんなこしぬけにおれの気持ちはわからねーだろーからよォ!」
「なんだと?」
「おれにさわるな。
ホンコンで運よくおれに勝ったってだけでオレに説教はやめな。」
嗚呼、だめだ・・・・・・。何を言っても聞いてはくれない。
48年前のあの記憶が、鮮明によみがえって来る。
結局、ポルナレフが一人で『両腕とも右手』の男を探しに一行から離れた。
この似たような光景を、過去に目の当たりにしていたジョセフはアヴドゥルさんに
「ポルナレフを追ってくれ。」と頼んでいる会話を私はスタンドを通じて知った。
(盗み聞きとか言わないで!)
恐らく、私があの時のようにボロボロになることを不安に思って
わざわざ私を遠ざけたのだろう。何かトラウマ植えつけたみたいでゴメン。
「(でも・・・・・・私だって彼を放っておけない!)」
心の中で謝罪しつつも、
先にポルナレフを追い始めていたアヴドゥルさんの『足音』を探る。
もう、この範囲内には当然ポルナレフはいない。
アヴドゥルさんの『足音』を見つけるのに集中していたせいか、
自分の背後に誰かが近づいて来ることに気が付いていなかった。
「『花京院!』『どうしてここに・・・!?』」
「あなたが抜け出していたのを見たので・・・・・・気になってついて来ました。」
どれだけ周囲に注意していなかったんだろう私は・・・・・・。
「さんも・・・・・・ポルナレフを?」
「『うん』」
「だったら尚更だ。一人より二人の方が何かあった時に良いと思います。」
「『・・・・・・止めないんだな』」
「え?」
「『お前だったら私を同行させないと思うんだがね』」
かなり場違いなダンディーなおっさん『声』で返してしまった。
一瞬きょとん、としたが、すぐにいつもの表情に戻る。
「最初はあなたを旅に同行させることに反対していましたが今は違う。
さんは一人の戦士として、勇敢な『スタンド使い』だ。
『女性』であるから、なんて言いませんよ。」
「それにシンガポールでは世話になったからね。」と言う花京院に
思わず苦笑を返した。