アヴドゥルさんの『足音』を聞きつけ、
それを追っていくとポルナレフの『足音』も聞こえてきた。
二人の足音が同時に着地したのを察知する。
まるでどちらかを庇って倒れたように思える。
会話はまだ聞き取れないが、戦闘態勢に入っていると思っていい。
「『二人が危ない・・・』『急ごう!』」
「わかった!」
私達は足早く建物の裏から回ると、
アヴドゥルさんが構えを取ったまま硬直していた。
よく見ると、彼の背後の水溜まりの中でアヴドゥルさんが刺されていた。
私が蔦を出す前に、弾丸が彼の頭をえぐった。
アヴドゥルさんの額あてが、地面に落ちた。
私よりも先に、花京院が彼の側に駆け寄った。
「こういうヤツが足手まといになるから、
おれはひとりでやるのがいいといったんだぜ。」
「た・・・助けてもらってなんてヤツだ。」
非難するポルナレフを、花京院が震えながら口にした。
私まで何か言う必要はない。
だって、涙の落ちる『音』がしたから―――。
「迷惑なんだよ。自分の回りで死なれるのはスゲー迷惑だぜッ!
このオレはッ!」
非難しながら涙を流すポルナレフは花京院の警告に一度は引こうとしたが、
そこにポルナレフの言う妹の仇―――そのスタンドがガラス窓に映っていた。
花京院が必死で制止の言葉をかけ続けるが、
『吊られた男』が更なる挑発をして来た。
「おまえの妹はカワイかったなあ、ポルナレフ・・・・・・・・・。
妹にあの世で再会したのなら聞かせてもらうといい・・・・・・・・・。
どーやってオレに殺してもらったかをなぁああああ〜ッ。」
「ポルナレフ挑発にのるなァーッ!!さそっているんだーッ!!」
その声が聞こえないのか、ポルナレフはスタンドを発現させた。
完全に敵の思うツボだ。
ポルナレフには悪いが、これ以上勝手なマネはさせない。
ちょうど射程距離内までいたポルナレフの所へ『ピーター』を移動させ、
彼を思いっきり殴り飛ばした。
倒れたポルナレフを引っ張って、(どこで習っていたのか)
トラックに乗ってやって来た花京院と合流した。
「ポルナレフの命をたすけるためかッ!!やりおるぜッ!」
一瞬だけチラッと後ろを見たが、
ウエスタン姿の男が銃(多分アレもスタンドだ)を構えていた。
しかし、「射程距離外だ。」と聞こえたので流れ弾が来ることはなかった。
そして最後に、静かに横たわるアヴドゥルさんの姿を思い浮かべ、
じっと目を閉じた。
「す、すまねえ花京院、。」
花京院は微かに体を震わすだけで反応しない。
「おれは、妹のかたきをとるなら死んでもいいと思っていた。」
話かけて来たポルナレフの言葉に、何も言わずただ耳を傾けた。
「でも・・・わかったよ。アヴドゥルの気持ちがわかったよ・・・。
奴の気持ちを無駄にはしない。生きるために闘う・・・・・・・・・・・・・・・!」
「ほんとにわかったのですか。」
「ああ。」
トラックの荷台にある背中側のガラス越しからだが、
花京院が肘でポルナレフの顔面に叩き込んでいた。
「それは仲なおりの『握手』のかわりだ。ポルナレフ。」
その思いに、ポルナレフは流れる鼻血をそのままに、「サンキュー。」と応えた。
トラックを走らせて数時間、いや・・・まだ数分しか経っていない。
念のため奴らが追って来ないか『ピーター』の能力を全開にして周りを警戒する。
突然、後ろのガラス窓を叩く音を聞いた。
「見張り中に悪いが、一つ聞いていいか?」
「『何?』」
「おれがまだDIOの支配下で香港へ派遣される際、
『日本にいるという娘を連れて来い』と命令された。」
それを聞いた花京院もポルナレフと同様に表情を歪めた。
私は何も言わず、次の言葉を待った。
「奴が何百年生きた化物か知らねえが、
何故それほどに執着するか理解できねえ。
奴と・・・・・・一体どういう関係だ?」
ちゃんと見てはいないが、後ろから花京院も気になる様子であるとうかがえる。
私は一旦間をおいて、ゆっくり息を吐いた。
「『私は』『100年前―――』『イギリスにタイムスリップした』
『・・・・・・いわゆる、未来人だ』」
まず、私が2006年からタイムスリップし、
ジョ―スター家の者達と交流を深め、
後々敵役となるディオとの戦いを繰り広げたことなど、
『記憶』した会話を繋ぎ合わせて説明した。
当然、それを聞いた本人達は信じられない、といった顔で私を凝視した。
「マ、マジか・・・・・・。にわかに信じ難いが、
ジョ―スターさんとの会話からして、
とても嘘つける感じじゃねえし・・・・・・。」
「『連れて来い』『・・・というのは恐らく、逆恨みかもしれない』」
「プライドの高いあの男ならやりかねませんね・・・。でも驚いた。
今は僕と同じ年なのに・・・・・・実際はもっと年下だったなんて。」
「全くだぜ!1991年生まれ・・・だって?まだ生まれてもいねえだろ!」
「『そうなんだよ』『ホント不思議』」
自然にも笑い声がもれ、私も思わず笑みを浮かべた。
「ハハ。でも、疑ったりして悪かった。
大切な人を亡くしたことまで言わせてすまねえ・・・・・・。」
謝るポルナレフに、私は顔を横に振った。
「『私の方こそ・・・・・・』『あなたに謝らなくてはならない』」
「あ?何だ?さっきおれを殴ったことか?」
「『ううん』『香港で』『・・・・・・あなたを下敷きにしたこと・・・』」
「今更!?まさかずーっと気にしてたのかよッ!?」
「『うん』『ごめんね』『ポルナレフさん』」
「おいおい、よせよ!昔の話だぜ?それにおれのことはポルナレフ!
って呼んでくれ!」
「『わかったよ』『ポルナレフ!』」
「すげえ・・・・・・そのまんまおれの声『記憶』してるぜ・・・・・・。」
「そろそろ彼女を解放させてやって下さい。」
気遣う花京院に私が短く礼を言うと、突然声を上げた。
「さんッ、ポルナレフッ。ハンドルのメッキにヤツがいるッ!」
「その荷台から離れるんだッ!」と叫ぶ花京院に対し、
私は迷わずそこから二人のいる真上へ飛び移ると、
勝手にガラスが割れていた。
それまで『音』は聞こえなかった。
本当にそこにしか存在しないのなら、ちょっとマズイかも・・・・・・。
スタンドで強引に屋根(?)を蹴り破ると二人の服をつかんで
トラックを乗り捨てた。どこぞのスタンドマンみたいだなー・・・
って悠長なこと言ってる場合じゃないか。
「うおああああ―――ッ。チャリオッツ!」
突然スタンドで転がったトラックの部品を切断したポルナレフは
「映るものから逃げるんだッ!」と叫んだ。
だけど本体め、どこにいるんだ?
するとポルナレフは「いま・・・見えたんだ・・・・・・。」と口を開く。
「やつは鏡から鏡へ!映るものから映るものへ!
飛びうつって移動しているッ。
反射をくり返してここまで追ってきたんだ・・・・・・!」
なるほど、通りで『音』がない訳だ。
これからどうしようと考えていると、子供の足音が近づいて来る。
まさか、と思いつつ視線を向ければ、
この辺に住んでいるのであろう男の子が目に映る。
(最初は敵じゃないかと疑ってしまった自分が憎い)
「ねえ、血が出てるけど・・・けがは・・・だいじょうぶ?」
その少年の目の中に・・・『奴』がッ!
「おい小僧、おれたちを見るなッ!」
「え。」
「見るなといってるだろーがあッ!目でおうな、こらァ!」
「え。」
何てゲスいマネを、J・ガイルめ・・・!
見られている以上、思うように動けないし波紋も使えない。
(この時に限って『種』がないとかツイてない)
「なんて卑劣な男だ・・・・・・・・・・・・。
アヴドゥルをひきょうにもうしろから刺し、そして今!
子供を攻撃できないのを知って利用する・・・・・・・・・ゆるさん!」
「クククク。」
「おい花京院・・・・・・。この場合!そういうセリフをいうんじゃねえ。」
目の中で首を絞められながらも、ポルナレフは余裕の笑みを浮かべていた。
「いいか・・・こういう場合!かたきを討つ時というのは
いまからいうようなセリフをはいて、たたかうんだ・・・・・・。
『我が名はJ・P・ポルナレフ』『我が妹の魂の名誉のために!』
『我が友アヴドゥルの心のやすらぎのために』
『この俺が貴様を絶望の淵へブチ込んでやる』J・ガイル・・・・・・・・・。」
その後許せ、とポルナレフが子供に向かって砂地を蹴った。
目に砂が入った子供は当然目を閉じた。
今度はポルナレフの目の中に移っていた。
「原理はよくわからんが、こいつは光なみの速さで動く。
普通ならとても剣では見切れねえスピードさ・・・。
だが子供の目がとじたなら、こいつが次に移動するのは、
おれの瞳だろうということはわかっていたのさ。
だから、こいつがおれの目に飛び込んでくる軌道はわかっていた・・・・・・。
その軌道がよめれば剣で切るのは・・・・・・・・・・・・たやすい!」
J・ガイルのスタンドが切られた同時に、
ちょうど向こうの村から叫び声があがった。
『ピーター』の耳に集中しながら、J・ガイルがいるであろう村へ向かった。
荒い息遣いが聞こえてくる。
目の前に人影が見えて来たが、油断は禁物だ。
「ついに会えたな、J・ガイル。」
律儀に名乗り出るポルナレフに悪いが、そろそろ行動に移させてもらうぜ。
「ポルナレフ!それは両右手の男じゃあないぞ!
J・ガイルじゃあない!」
そうJ・ガイルはすぐ側の岩陰で蹴られている。
「うぎゃあああああッ!?」
「『大マヌケな奴だな』
『私の能力について既に知れ渡っていたとばかり
思っていたんだがなァ・・・』」
「うぐぐっ・・・。」
「『ポルナレフ』『あいつが何かしでかす前にやっちゃって』」
「お、おう・・・。」
何でもっと早く言ってくれなかったんだ、と言いた気な表情だが、
すぐにJ・ガイルの方へ向き直った。(だって何かあるか分からないでしょ?)
「これからはてめーは泣きわめきながら地獄へ落ちるわけだが、
ひとつだけ地獄の番人にゃまかせられんことがある・・・・・・・・・それは!」
『銀の戦車』が剣を振り回し、一旦止めた。
「『針串刺し』の刑だッ!この瞬間を長年待ったぜッ!」
醜悪なJ・ガイルの顔に無数の穴が開く。
血を噴き出しながら、『吊られた男』の文字通り、
吊られながら『命の音』が途絶えた。