村を離れ、しばらくすると
ホル・ホース(さっきポルナレフが教えてくれた)が現れた。
奴が姿を現す前から察知していたので驚くことはない。
何も知らないホル・ホースはでかい口を叩きながらガラスをまいていた。
全く、おめでたい男だ。
「2〜300m向こうにあのクズ野郎の死体がある・・・・・・。
見てくるか?」
「よし、見てこよう!」
既に『ピーター』をスタンバイしていた為、
ピーターに足払いされて見事にズッこけた。
バランスを崩した所でようやくジョセフ達がやって来た。
「アヴドゥルのことはすでに知っている。
彼の遺体は簡素ではあるが埋葬して来たよ。」
ジョセフが淡々と語るセリフに、私は無言を貫いた。
「この男をどうする?」
「おれが判決をいうぜ。『死刑』!」
「『あっ・・・』『ポルナレフ』―――」
「お逃げください!ホル・ホース様。」
「な!なんだあーッ!この女はッ!」
スタンドで何かを言う前に、
先程から聞こえていた女性の『足音』がぐん、と大きく響いた。
ホル・ホースはそれをいいことに、馬に跨ってその場から逃げていった。
「おい!この女が来ていたのを知ってたんだろ!?
何で止めなかった!?」
「『奴にはもう闘う意志はないよ』
『それと、女性に手荒なマネはしたくない』」
「そうだぞポルナレフ。その女性も利用されているひとりにすぎん!
今ヤツにかまってるヒマはない。」
そう言って怪我した女性の腕の処置に取り掛かった。
ポルナレフは芋虫を噛み潰したような顔に歪むが、
アヴドゥルさんがいないと聞くと、渋々頷いた。
「にしても、おまえ・・・結構フェミニストなんだな。
おれが言うのも何だがよ。」
「『・・・・・・そうでもないよ』」
特に敵対する女性には、ね。
まず、誤解される前に言っておく。
あのネーナという女性は完全な『黒』だ。
ジョセフは気付いていなかったがネーナがホル・ホースに言った言葉と、
心情を表すともいえる心臓の鼓動が一致していなかった。
つまり、『嘘』を言ったのだ。
先程の様子からすると、ホル・ホースはネーナの正体に気づいていない。
いや、もしかしたら普段は別の姿でいた可能性がある。
周囲からすれば「何言ってんだコイツ。」と思うのだろうが、
これから証明してやろうじゃないか。
「『ネーナ』」
「早かったですねポルナレフさ―――」
「『悪いけど』『ポルナレフじゃありませんよ』」
ネーナは目を大きく見開くと、その場から逃げようと足が動いたが、
突然バランスを崩す―――が、地面に倒れる前にネーナの体を受け止めた。
「『何処へ行くんですか?』『ポルナレフを待っていたんでしょう?』」
ネーナの表情は明らかに強張っていた。
逃げようとした時点で疑い度MAXなのだが、ボロを出すまで知らないフリを続けた。
「へ、平気・・・。それよりジョ―スター様の所へ行った方が・・・・・・。」
「『そうですね。ある意味手間が省けましたよ』」
「えっ。」と不思議な表情で私を凝視した。
私はここで、筆談に切り替えた。
≪あなたは何でそこまでジョセフを心配しているんだ?
腫れができただけで必ずしも命に関わるとは思わないのだけど。≫
「なっ・・・何が言いたいのですか?」
うん。そろそろ本題に移ろうか。
***
「今回ばかりは危なかった・・・・・・。
が本体を連れて来なかったら最悪の事態になっていた・・・!」
パキスタンへの国境を目指し、車で移動しながらジョセフが呻いた。
私はネーナの正体を暴いた後、彼女を強制的にジョセフのいる病院へ連れていき、
腫れの正体である『スタンド』を解除させた。
DIOについて情報を聞き出そうとしたのだが、彼女はつい最近雇われたばかりで、
DIOの『スタンド能力』すら知らないと言う。
(念のため、ジョセフが『隠者の紫』で確認したから事実だ)
腕が治った後、「我々の前に現れたら二度はない。」と、
もろもろの意味を含めた脅し文句を言って、ネーナを解放した。
顔面蒼白になっていたから、一生姿を現すことはないだろう。
(しかし実際はお世辞でも美人とは言えない姿だったなんて、
ポルナレフが知ったら青ざめるだろうな)
「でも、いつから分かったのですか?
すぐに知らせてくれれば、
そんな回りくどいことする必要はないでしょう?」
「『まあ、そうなんだが・・・・・・』」
ネーナが飛び出す以前から疑っていたが、
まだ完全に『DIOの刺客』だと確信を得ていなかった為、
すぐに伝えることはできなかった。
嘘をついているだけじゃ、証拠が足りない。
私の早とちりで、変なトラブルを起こすのはご免だ。
そう伝えると、ポルナレフはジョセフのように渋い表情で顰めた。
「だが結果的に敵だったんだろ?くっそォ〜〜〜。
恋に落ちてもいいと思ってたのによお〜〜〜。」
「ふざけるなポルナレフ!
こっちは一体化されて嫌な思いをしとったんじゃ!
全く、早く忘れたいわい・・・・・・。」
「『あの・・・・・・』『何か・・・ホントにすみません・・・』」
「過ぎたことを一々言っても仕方ねえだろ。」
「とにかく、どんなに些細なことでも気になったら迷わず、
ぼく達に言って下さい。」
「『了解』」
私が頷いた瞬間、ピーターの耳にある『音』を感知した。
あんまり会話したことがないので、『まさか』と思った時には既に遅かった。
「『ゴメン、皆・・・・・・』」
「それってどういう―――」
花京院が言い終える前に、ポルナレフが急ブレーキをかけた。
信じられねえッ!と叫ぶポルナレフの後に、
目の前の光景を見て承太郎は「やれやれだぜ。」と呟くのだった。