インドを離れ、半ば強制的に離脱されたアヴドゥルさんを思い出す。
感傷に浸る間もなく、シンガポールで別れたはずのあの少女がいた。
(実は列車に乗った時に気付いていたが、音が聞こえなくなったので、
そのまま放置していた)
私が複雑な表情でいると、両側から「気にするな。」と声をかけてくれた。
結局、家出少女(本人がそう告白した)を国境まで乗せることになり、
彼女の位置を入れ換わるようにポルナレフと花京院の間(?)に座った。
ただでさえ狭いのに、私のせいで運転し辛くさせてゴメン・・・。
家出少女が「あたしだって女の子だ。」
「もう少したてばブラジャーするし今しか世界を回ることはできない!」などと
言っているそばから先程ポルナレフが追い抜いた車がすぐ後ろにやって来た。
「ボロ車め!トロトロ走りやがったくせに。
ピッタリ追いすがりやがって何考えてんだ?」
私のすぐ隣で文句を言うポルナレフだが、その声がキンキン響いて耳が痛くなる。
運転くらい穏便になってほしいよ・・・。
「どういうつもりだ?またトロトロ走り始めたぞ。
ゆずってやったんだから、どんどん先行けよッ!」
「ポルナレフ。君がさっき荒っぽい事やったから怒ったんじゃあないですか?」
花京院がそう言った後に、「運転していたヤツの顔は見たか?」と承太郎が訊く。
ポルナレフも私も、ホコリまみれのせいで見えなかった。
もしかしたら追手かもしれない・・・。私は静かに『音』を聞くことに集中した。
「(くそ・・・砂利とエンジンで聞き取りづらい・・・・・・)」
すると、例の車の運転席の窓ガラスが下降する。
「先に行け。」とジェスチャーが返って来た。
ポルナレフが笑い飛ばしながら先に行こうとした時、私は耳を疑った。
「『待てポルナレフ!』『曲がっちゃ駄目だッ!』」
私の忠告も空しく、一台のトラックが目の前にやって来た。
だが、素早く発現された『星の白金』のパワーで、
何とか正面衝突を食い止められた。
その間に、例の車は走り去っていった。
「。今の車の野郎、『追手のスタンド使い』だと思うか?」
≪何とも言えないね。人のクセのある音で区別はできるけど、あっちは車だ。
それにまだ『呼吸音』すら聞けてない。≫
私が筆談で返すと、ほとんどが少し残念そうな表情で唸った。
(いや、本当に申し訳ない・・・)
「とにかく用心深くパキスタン国境へ向かうしかないじゃろう・・・。
もう一度あの車が何か仕掛けて来たら、
そいつが追手だろうと異常者だろうとブチのめそう。」
後半だけ物騒なことを言うジョセフだけど、
現に死にかけて(?)いたのだからしょうがない。
「あのトラックはどうします?
スタープラチナがなぐったんでメチャクチャですよ。」
「知らんぷりしてりゃあいいんだよ。ほっときな・・・・・・・・・・・・。」
常に警戒網を張り巡らせながら車を走らせ、途中で茶屋に寄った。
大体こういう時にいたり―――いた。
「やっ、やつだッ!あの車がいるぞッ!」
「おやじッ!ひとつきくッ!
あそこに止まっている古ぼけた車のドライバーはどいつだ!?」
「さ・・・・・・さあ。いつから止まっているのか気がつきませんでしたが・・・。」
花京院以外は茶屋で休憩しているイカついた三人組を怪しがっていて、
今にも(特に承太郎が)掴みかかりそうな雰囲気だ。
無関係な者が被害に遭う前に、『罠』に掛かってくれたらいいのだけど。
「ゲピィ!」
「(おっと。案外早かったな)」
振り返れば、古い車から少し離れた場所に、
『波紋』入りの蔓に絡まって身動き取れない
ドライバーらしき人物が転がっていた。
***
駄々こねる家出少女をほぼ無理やり香港へ送り還して数時間後、
目の前が徐々に霧で見え辛くなって来た。
これ以上は危険だと判断したジョセフが宿を取ると言う。
すると、道中で串刺しになっている犬の死体らしきものを目にした。
思わず目で追うと、既に後ろは霧で覆っていた。
後部座席に乗っている承太郎と目が合う。
「・・・お前も見たのか?」
≪あれって死体かな?≫そう返した同時に、車が停車した。
「よし!着いたぜ!」
ジョセフがレストランでホテルが何処にあるか聞きに行こうとする中、
私は妙に物静かな町に違和感を覚えた。
「(何でだ・・・?何かおかしい・・・・・・)」
奇妙な死体まで発見し、ますます疑念が深まるばかりだ。
人が死んでいるのにも関わらず、無関心な人々。
たまたま隣を横切った町人に、私はようやく悟った。
「『―――ジョセ・・・!』」
「お姉ちゃ―――ん!」
子供の声が聞こえたと思ったら、10人くらいの少年少女達が抱きついて来た。
まるで、それ以上言うなと制止するかのように、
強い力が込められていた。
「ん?何じゃ。いつの間にその子らと仲良くなったんじゃ?」
「『違ッ・・・!!』」
「遊んでェ〜〜〜!」
『違う』とスタンドで言う前に、一人の子供がよじ登って顔面を覆った。
おい、おまっ・・・!息吸えないだろッ!
これではスタンドまでコントロールできない。やはり、この子達も・・・!
「わしらはあのホテルで一泊する。くれぐれも遅くなるなよ〜。」
何を言ってんだバカ!これは『罠』なんだよ!
ああ、くそッ・・・息が―――
限界を感じた瞬間、口と鼻を塞いでいた小さな体が消えた。
「ゲホゲホ!ゴホッ!」
咳き込んで、目に涙が溜まる。
しかし未だに私は身動きできない。
気付けば、知らない建物の中に移動していた。
それにしても、一体どんな『能力』だ・・・?
彼らから聞こえるはずの『心臓音』が全くない。
つまり、動く『死体』―――まるでゾンビそのものじゃないか!
「(今はまだ3時・・・・・・。霧があるから太陽光も届かない・・・ディオか!)」
二年前(実際は100年だが)の戦いを思い出すと、
奴への怒りがふつふつと沸いて来る。
まだ、こんなことをしているのか悪趣味め。
そう悪態をついている中、先程記憶した『足音』がゆっくり近づいて来る。
ジョセフ達をホテルへ出迎えた、あのお婆さんだ。