杖をつきながら歩く『音』を別に、お婆さんの周囲とその本体に神経を尖らせた。 ちゃんと本人の口から息が出ているし、心臓の鼓動もある。 今張り付いている子供達のような、『他』の呼吸音は聞こえなかった。 「そう殺気立たんで下しゃれ・・・。そなたを傷つけず連れて来いとの命じゃ。  命を奪うマネはせん・・・・・・。」 「(どうだかね・・・)」 今の所この人から動揺や、嘘は言っていない。 ただ、ディオの配下というだけあって、警戒を解く訳にはいかなかった。 「殿・・・今なら遅くはない。その力をDIO様の為に使っては下さらんか?」 優しく語りかけるように言うお婆さんを、私は睨みつけた。 「『アンタは・・・』『貴女達は何の為にここ(・・)にいるんだ・・・』  『DIOは何故そこまでして私に執着するんだ?』」 私はずっと気になっていたことをスタンドで打ち明けた。 ・・・いやいや、敵相手に何を言ってるんだ私は・・・! すると、お婆さんは意外、といった表情で私を凝視した。 「なんと・・・!気づいておらんかったのか・・・!  お主が一体どういう存在(・・・・・・)か―――ハッ!」 お婆さんに続き、私も『音』がした方へ集中した。 この『足音』は・・・・・・ポルナレフだ! 「ぐぬぬッ・・・憎きポルナレフ!を隠すんじゃ!」 そう言った同時に、再び眼前が見えなくなった。 ここで私のスタンドで『声』でも発せられたらあちらも困るのだろう。 (考えれば皆そうかもしれないが) しかし、お婆さんのあの怒り具合・・・他人事ではなさそうだ。 「・・・アッ!あんたはッ!」 聞き覚えのある声に、目元を覆う手の感触がなくなっていたのを悟った。 瞼を開くと暗闇。だが次第に視界が明るくなると、 隣にいるホル・ホースに目線を向けた。 彼の心臓音がすぐ聞こえなかったということは、 やはり先程の場所から遠く離れているってことか。 しかし、仲間であるホル・ホースまで拘束されているのが意味深だった。 (だからと言って気を許すことはない) 「つい(・・)に捕まったか・・・。まあこれも何の縁だ。気楽に行こうや。」 そう言ってウインクして来たが、ツンとかましてやった。 とてもディオの手下とは思えないこの態度。 今まで会ったディオの刺客とは、似てるようで似ていない。 違う点といえば、人間性・・・だろうか? (あれ、自分でも何言ってんだ?) スタンド能力で周囲を警戒していると、承太郎はやって来た。 音が止んだことから、事は全て終わったのだろう。 私は波紋の呼吸を整えると、 『波紋疾走』で僅かに腕を動かせたのをいいことに縄が切れた。 軽く手首を動かし、チラッとホル・ホースを見た。 「な、何だあんさん・・・もしかして・・・・・・。」 「『勘違いするな。お前が誰であろうが許す気はない』  『まあ・・・返答次第じゃ気が変わるかもな』」 そう返すと、ホル・ホースは「えっ。」といった顔で私を凝視した。 「DIOの能力について、か・・・。」何だ、分かってるじゃないか。 「いくら何でもそれは言えねえなあ・・・。  心の底から慕ってるつもりはなくても、おれの命が危ねえ。  君みたいな美人のお願いでもそれだけは言えないぜ。」 「『それはご苦労。さようなら』」 「ああ!ちょっと・・・!」 流石にホル・ホースが慌て出した頃、ちょうどよく縄が解けた。 何故なら私がやったからだ(・・・・・・・・)。 「『せいぜい命ある限り逃げ回ってろ』」 次会ったら今度こそブッ飛ばす、という意味も込めて、 ホル・ホースを背にして部屋を後にした。 背後から「いい・・・・・・。」と意味深すぎる呟きが聞こえたが・・・・・・ 気のせいだ、うん。 「!無事だったか!」 「『ああ』『ところで、あのお婆さんは?』」 「承太郎のスタープラチナで押さえ付けた。  まだ気を失っておるがの。」 何でも、彼女のスタンドは霧らしく、町全体が『スタンド』だったと言う。 動く死体以上のものを見て来たので、驚くことはない。 この人を連れていくことが決まった中、 ホル・ホースの『足音』が聞こえた同時にジープのエンジンがかかる。 「ホル・ホース!あの野郎ッ、我々のジープをッ!」 「おれはやっぱりDIOの方につくぜッ!また会おうぜ。  もっともおたくら死んでなけりゃあな。」 「てめ―――ッ。戻ってこい。ジープをかえせこの野郎ッ!」 やっぱりロクでもない奴だったか、くそ・・・。 『種子弾丸』一発お見舞いしてやろうか。 「ひとつ忠告しておく。そのバアさんはすぐに殺した方がいいッ!  さもないとそのババァを通じて  DIOの恐ろしさを改めて思い知るぜきっと!じゃあーなーっ。」 奴より私を怒らせたらどんなに恐ろしいか分からせてやりたいよ全く・・・。 逃げ出すホル・ホースをただ眺めるしかない私と目が合うと、 何故かこちらに向かって投げキッスした。 思わず「(うげぇ・・・)」と表情を歪めた。 「なあ、あいつに向かって色目使ってなかったか?」 「『気のせいだろ・・・』」 「・・・・・・フン。」 何かの間違いだ、と目で訴える私に対し、何故か承太郎は不機嫌だった。 ・・・Why!?