『紅海』―――ダイバーたちは口をそろえてこういう。
『世界で最も澄みきった美しい海』
私達はこの限りなく青き紅海を渡ってエジプトへ入ろうとしているのだが、
ある人物に会うために、目の前にある弧島へ向かっていた。
ジョセフにとっても、私達にとって大切な男だ。
草陰から様子を窺っていた人物こそが―――
「アヴドゥルの父親だ、世を捨てて孤独にこの島に住んでいる・・・。
今までおまえたちにも黙っていたのはもし、
ここへ立ち寄る事がDIOに知れたらアヴドゥルの父親の平和が乱される可能性がある。
その事を考えてのことなのじゃ。」
「父親。」
「だが・・・息子のアヴドゥルの死を報告するのは・・・・・・・・・・・・
つらいことだ。」
しんと静まり返る中、一番酷な思いを抱いているのはポルナレフだった。
「君のせいじゃあない。」とジョセフが言うも、
自分を責めて一人どこか行ってしまった。
無人島だし、そう遠くへ離れることはないだろう。
しかし、薄暗くなって来ても戻って来なかった。
「まさか敵と出会ってるんじゃああるまいな。」と承太郎が言った。
私はスタンド能力を発現させると、今こちらに向かって来る『足音』と、
もう一つの『足音』が近付いていた。
「おい!!みんな驚くなよッ!誰に出会ったと思うッ!」
「ポルナレフ!心配したぞッ!」
「どうしたそのキズは?」
「敵に襲われたのか?」
三人が揃って言うが、「キズのことはどうでもいいんだよッ!」と
ヤケに興奮気味なポルナレフは今にも鼻歌しそうな顔だった。
「アヴドゥルの野郎が生きてやがったんだよォ!オロロ〜〜〜ン!」
「さ!出発するぞ。」
「みんな、荷物運ぶの手伝うよ。」
「よう、アヴドゥル。」「アヴドゥルひさしぶり。元気?」
「アヴドゥル、もう背中のキズは平気なのか?」と三人が淡々と訊けば、
アヴドゥルさんも普段通りに応えた。
「『アヴドゥルさん』『もう動いても大丈夫なんですね』」
「ああ。傷跡が残ってしまったが問題ない。」
「こら!待てといっとるんだよッ、てめ―――らッ!」
平然とした会話を交わす私達に、ポルナレフは怒声を上げた。
そこでジョセフが軽〜い態度でアヴドゥルさんを埋葬したのはウソだと明かした。
彼だけ知らせてなかったので、飛び上がるのも当然だ。
うっかり喋られたりしたら、アヴドゥルさんは安心してキズが治せないし・・・・・・。
「そ・・・そうだ!アヴドゥル!おまえのおやじさんがこの島にいる!
おまえが来たことを知らせよう。」
「ありゃおれの変装だ。」
ポルナレフが盛大にズッコケた。
「に・・・にゃにお〜〜〜んッ!そこまでやるか・・・。よくもぬけぬけとテメーら。
まで仲間はずれにしやがって。グスン。」
・・・・・・本当にゴメン、ポルナレフ。
***
アラブの大金持ちを装ってアヴドゥルさんが買った潜水艦でエジプトを目指す。
追手も流石にここまでは来れないだろう。
しかし、その考えが甘かったのだと、後々になって思い知らされる。
「おい・・・花京院。なぜカップを7つ出す?6人だぞ。」
「おかしいな。うっかりしてたよ。6コのつもりだったが・・・。」
突然、ジョセフが持っていたマグカップが歪な形へ変化し、
彼の義手が吹き飛んだ。
「『ジョセフッ!!』」
私はジョセフを支え、承太郎はすぐさま
『スタープラチナ』の拳を繰り出そうとしたが、
カップに化けていたスタンドは後退して、カメレオンのように壁に同化した。
気を失っているだけで済んだものの、私がもっと早く察知していれば・・・!
「!何か不審な『音』はねえか!?」
「『・・・・・・いいや』『相手は完全な無機質に化けている・・・』」
探っている内に、アヴドゥルさんの言う『女教皇』が穴をあけたであろう部分から
どんどん海水が入って来る。私はたまらず、舌打ちした。
「もう移動しているッ!花京院のうしろにいるぞッ!」
スタープラチナは間に合わない・・・!
私は『ピーター』を発現させ、花京院が襲われる前に一発お見舞いした。
(本体は女性らしいけど敵である以上、躊躇しない)
だが相手の方が一枚上手のようだ。
攻撃が船に当たった時には、『女教皇』は姿を消した。
化けながらの移動。『音』を拾えないのだからタチが悪すぎる。
既にドアの取手に化けていた『女教皇』を、
今度こそスタープラチナが捕まえたのだが、剃刀に化けて逃げられてしまう。
「ヒヒャホホフハホハホハホハハハハ。」『女教皇』が高笑いした。
「かまうな承太郎ッ!また化けはじめるぞッ!」
浸水しているし、一旦閉じ込めるしかない。
承太郎は「てめーはこの空条承太郎がじきじきにブチのめす。」と
言い残して最後にドアを閉めた。
閉じ込めた所で、先程のように穴をあけてやって来るのは時間の問題だ。
「今度はスキューバダイビングかよ。おれ、経験ないんだよね、これ・・・・・・。」
そう言うなポルナレフ。私だって一度もないんだから。
「いいかみんな。まず決してあわてない。これがスキューバの最大の注意だ。」
水を入れて加圧した所でOKサインを送る。
しかし、約一名だけ両手ででやばいと訴えていた。
既にやつは、レギュレーターに化けていたのだ。ポルナレフの体内を食い破る気だ。
同時に、それぞれのスタンドの蔓や触手が、彼の鼻の奥へ突っ込んだ。
「のどの奥へ行く前につかまえたぞッ!花京院!」
「ボクもですッ!変身する前に吐き出させるのだッ!」
出て来たのはいいが、また別の物に変身していた。早く脱出しないと・・・!
バッキイイィン。水の中なので音がハッキリしないが、そんな振動を感じた。
「なんて美しい海底だ・・・・・・。ただのレジャーで来たかったもんだぜ・・・。」
「追ってくるか?」
「『いや、見えない』」
自分のスタンド能力は今じゃ無意味だ。十分後ろに注意しないといけない。
海底トンネルが近づいて来た瞬間、『女教皇』の顔であることに気づくのも遅く、
口の中へ吸い込まれてしまった。
「承太郎!おまえは私の好みだから心苦しいわね・・・。
私のスタンド『女教皇』で消化しなくっちゃあならないなんて!」
ここでポルナレフが承太郎に耳打ちする。
水の中じゃないため、私からすれば駄々洩れである。
「一度あんたの素顔を見てみたいもんだな。
おれの好みのタイプかもしれねーしよ。恋におちる、か、も。」
ちょっと待て。何だ最後の。もう少しで笑う所だった・・・。
(いや。どーせ『声』出ないんだろうけど)
手応えあったと見て、私達も似たようなセリフを言ってみたが、
心から言っていないのが即バレた。真っ先に承太郎が潰されてしまう!
「『オラオラァッ!』」ピーターの足が、上の奥歯を蹴り飛ばした。
ダイヤモンドと同じ硬さだなんて、笑わせる。
「助かったぜ。ここからはおれがやる。」
「オラオラ」の掛け声と共に、歯を次々と掘りながらへし折った。
これでようやく外に出られる。
「おい、女が倒れているぞ。」
「『女教皇』の本体のミドラーだ。」
「どうします。再起不能でしょうか・・・。」
「美人かブスか、みてくるかな。」
「『私も行く』」とポルナレフに続いた。
あ、勘違いしないで。彼と同じ理由でついていった訳じゃないんだよ?
ミドラーの歯が無くなっているので、私から見ても何とも言えない。
やりすぎたかな、と後になってちょっと悔いが残った。