ついに、私達はエジプトへ上陸した。
30日も掛かったのに時間というのはあっという間だ。
この地に近づく一機のヘリコプター。スピードワゴン財団のものだ。
「まさか、今度はあのヘリに乗るんじゃねーだろうな。」
「いや・・・・・・。できることなら乗りたいが彼らはスタンド使いではない・・・。
攻撃に会ったら巻き込むことになる。」
「それじゃあなぜ、あのヘリがやって来たのですか?」
「『助っ人』を連れて来てくれたのだ。」
「なんだって!?『助っ人』!?」
一瞬、シーザーのことだろうかと思ったが、話を聞いていると違うみたいだ。
『愚者』のカードの暗示をもつスタンド使い―――
ん?この呼吸音・・・・・・人じゃない?
「おわああああああ。」
出て来たのはボストンテリア。名前はイギーという。
温厚な性格とその毛色から『アメリカ犬界の紳士』『タキシードを着た紳士』
『小さなアメリカ紳士』とも言われるのだが、『紳士』の欠片さえない。
コーヒー味のチューインガムの箱を明らかに狙っていた。
イギーが飛びつく前に、『ピーター』にその箱を掴ませた。
「グウゥ・・・。」
「『そう殺気立てないで』『君に危害は加えないよ』」
その証拠に、自分のスタンドを引っ込めた。
箱から新たにガムを出して前に突き出す。
が、口で銜えるだけで警戒心は解いてくれなかった。・・・やれやれ。
***
ホリィさんの容態は危険な状態に陥っていた。
財団の医師の判断ではあと2週間しかない。
それと二日前、謎の9人の男女が、DIOが潜伏しているらしい建物に集まって、
どこかへ旅立ったという。
奴はまだ、新しい肉体に馴染んでいないらしい・・・・・・。
ディオの肉体がジョナサンのものだと思い出すだけで、怒りで頭が沸騰しそうだ。
すると前座席から「ワン!」とイギーが吠えた。
「新しいガムをよこせ。」と言ってるようだ。
「(!それを使ってうまく荷台へ誘うんだッ!)」
せまくて腹が痛いとうるさいポルナレフを横目に、
新しいコーヒーガムを取り出した。
だが、イギーは素早くガムを奪い取ると、再びシートの真ん中を独占するのだった。
「『・・・・・・ごめん』」
「クソッたれのワン公が!ちくしょ―――っ!」
「しかし、でも懐かないとはのぉ・・・。」
忘れていたが、タイムスリップしてから異様に動物に懐かれるようになったが、
決して全ての生物とは限らない。(でも本当に懐かれているのか不明だが)
イギーのようにノラで生きて来た子達がそうだ。
ツンとしてるなあ、と心の中でボヤいた瞬間、ジョセフが突然急ブレーキをかけた。
おかげで一時的に体が浮上したぞオイ。・・・・・・ん!?
「(これはッ!さっきのSPW財団のヘリコプター・・・ッ!)」
けれど、あれを見つけるまで落下した音は感知しなかった。
『ピーター』の射程距離は半径50mまでしか『音』は拾えない。
敵スタンドの攻撃の可能性が大きい。
「死んでいるぜ。・・・見ろ。指で機体をかきむしった跡がある。」
「用心して近づけ。何か潜んでいるかもしれん。」
それらしき姿もなければ『音』もない。―――否、一つだけある。
弱々しいが、操縦席から『呼吸音』がある。
「『皆!』『生きてる人がいた!』」
近くにいたポルナレフと一緒に、外に連れ出した。
震えながら「み・・・ず。」と口にした。
水を欲しがっているのかと思ったが、水筒を見た瞬間、恐怖で表情を歪めた。
「ヒィィィィィィィ。ちがうゥゥゥゥ〜〜〜ッ。
水が襲ってくるゥゥゥゥウウウウウ!!」
水筒の中から出て来た『手』が財団の男の顔を掴んで、
そのまま中へ引きずり込んだ。
私達は一斉に散らばってうつ伏せた。
遠距離で操作しているのだろうか・・・けれど未だに本体の姿は見えない。
水筒に攻撃しろと二人が騒いでいる中、花京院の側に突然水面が現れた。
徐々に形となっていく様を見て、
私はすぐさま『ピーター』で花京院の首根っこを掴んだ。
彼に怪我はなかったが、ピーターの胸元に獣のような爪痕が刻まれた。
当然、私も同じ傷を負ってしまう。しかし、『水』がスタンドだったとは―――!
「!」
「『大丈夫!そんなに深くない・・・』『それよりスタンドを出して身を・・・!』」
そう言う側から、ポルナレフの右手に水がある。このままではやられる・・・!
その時、頭を引きずり込まれた男の腕についている時計のアラームが鳴った。
水の手は方向を転回して、死体の手首を切り落とした。
私のスタンドと同じ・・・音を探知して攻撃するんだ!
「やばい。ポルナレフ、今度こそ襲ってくるぞッ!車まで走れッ!」
私達の足より、水の方が早い。このままでは本当に―――
「(二人を投げ飛ばせピーター!!)」
蹴る力より劣るが、この距離なら車まで届く。
一瞬、後ろの方を見て確認すると、振り返ってジョセフ達を見た。
「『隠者の紫』ッ!」
「『法皇の緑』!」
私の両腕にそれぞれ掴ませ、地面を蹴った。
その音に反応して水の爪が、私の足をズボンごと皮膚を切った。
車の上に乗った後から、ふらりと体がよろめいた。
「大丈夫かい。やはり傷が・・・・・・。」
「『ちょっとバランス崩しただけだ』」
激しく動いたせいか、さっき受けた胸の傷から血が滲み出ていた。
まだスタンドが潜んでいる時に、弱音は吐けない。
すると、タイヤが水の中に沈み始めた。
車まで引きずり込む程のパワー・・・同じ音を探知するスタンド同士であってか、
負ける訳にはいかなかった。