車から振り落とされると、水が沈んだ。
皆は息を止めて動こうとしないが、相手には『どの位置に誰が落ちたか』既に分かっている。
アヴドゥルさんが砂漠の地にブレスレットを投げ捨て、歩いたように見せかけた。
『移動した位置』を『魔術師の赤』で対応する気だ。
しかし、水は軌道を変えてアヴドゥルさんの首の皮膚を傷つけた。
アヴドゥルさんが倒れたのを見て、私は思いっきり砂地を蹴った。
承太郎も立ちあがって私と同じ方向へ走っていった。
水が攻撃を止めてこちらへ向かって来る。皆から遠ざけることには成功した。
次は『本体』だ―――!
「グゲゲ。」
承太郎はイギーを乱暴に掴んでいた。
普段なら即行止めていただろうが、状況がこれだ。
しかも、この子は車が攻撃される前に外へ脱出していた―――!
「さあてと、協力してもらうぜイギ――よ。どこから襲ってくる・・・。教えろ!イギー。
てめーも死ぬぜ!ガムはやらねーがなあ。」
「アウウウウウウ。」
瞬間、『愚者』が本体を掴んで宙を舞った。それをすかさず、承太郎がスタンドの腕を掴んだ。
空中から『本体』を見つける気だ―――。
しかし、あまり長距離での飛行は難しいようだ。
砂地を思いっきり蹴ると、承太郎とイギ―は再び空中へ戻った。
私も一緒に捜したかったが、二人の体重に耐えられるかどうかが謎だ。
一呼吸して、もう一度胸の傷を見た。『波紋の呼吸』のおかげで、先程よりも流血が遅くなっていた。
まだいける・・・・・・何もしないままで終われるかッ!
「・・・ハッ!止せ!この戦いは承太郎にまかせるんだ!」
・・・・・・・・・ごめん、ジョセフ。
発芽させた『葉』だけを集め、『生命磁気の波紋疾走』で私も同様に宙を飛んだ。
敵も見つけられない察知能力なんて―――その悔しさが、私のスタンドにも変化が起きたようだ。
この波紋を使うのはあの時以来だ。
タルカスから逃れようとして、そしてツェペリさんは―――・・・いや、止そう。
こんな時にしんみりしていたら、ツェペリさんにどやされそうだ。
暫くすると、承太郎達の姿を見つけた。未だに『水』が追っている。
本体はじっとしているのか、それらしき『音』が聞こえて来ない。
じわじわと胸のシミが広がって来る。
「(クソッ・・・!)」
悪態ついて、何の成果も出せない自分に苛立ちを増す。
しかし突然、私のではない呼吸音が耳に入る。(直接入ったのはピーターの方だが)
「(これは承太郎でも、イギーでもない・・・。とすると・・・!)」
よーく目を凝らすと、承太郎達が向かってる先に、誰かがいた。
詳しく把握はできないが、間違いなく『本体』だろう。距離は大体400m。
明らかにピーターの射程距離を超えている。血を流し過ぎておかしくなってしまったのだろうか?
・・・いや、それよりも敵の方に集中しないと。すると突然、何故か砂の雨が降って来た。
上空からとは考えにくい。下に視線を落とすと、『水』が空中に砂を巻き上げていた。
まずい・・・その反射音で位置を確認しているッ!
「スタープラチナッ。」
スタンドの拳よりも一瞬、相手の方が早かった。承太郎の肩を掠め、『愚者』の翼を貫く。
襲ってくる方向がわからない以上、承太郎には不利だ。
その時、イギーはなんと承太郎の体を砂地に当てるように引きずった。
そんなセコイ真似をするくらいなら―――ッ!
「!・・・てめッ・・・・・・!」
一気に下降して、自分の足を差し出した。
『愚者』のようにずっと飛び続けるのは無理がある為、私はそのまま地面に降り立った。
『水』が一瞬、動きを止める。
そうだ・・・このまま私の方へ来い。
だが、いきなり風を切る音を耳にした途端、『水』が猛スピードで『本体』の方へ戻っていった。
承太郎の方へ視線を向けると、イギーがいなかった。・・・犬を投げたのかコイツ・・・。
「ケリはおれがつける。それまでじっとしてろ。」
結局、承太郎に助けられる形になってしまったな・・・。別に嫌という訳じゃないのだけど・・・・・・。
しかし、あの至近距離でようやく到着することができたのだから大人しくするしかない。
遠くだが、スタープラチナの攻撃が決まった。けれど、相手はスタンドで自分の頭を貫いた。
「バカな。自分のスタンドで自分を!」承太郎の声だ。
「おまえ・・・・・・。このわたしから・・・・・・これから出会う、
我々のあと8人の仲間について聞き出そうと考えてたろう。
ジョセフ・ジョ―スターのスタンド『隠者』は、考えていることまで感知してしまうからな・・・・・・。
しゃべるわけにはいかないよ。あの方にとって少しでも不利になることはな。・・・・・・・・・フフフフ。」
何故そこまでして、ディオなんかに忠誠を誓うんだ?
とても、『肉の芽』に植えつけられているから―――とは思えなかった。
「『スタンド』の能力のせいで子供のころから死の恐怖なんかまったくない性格だったよ。
どんなヤツにだって勝てたし、犯罪や殺人も平気だった・・・・・・・・・。
警官だってまったく怖くなかったね・・・・・・・・・。あの犬はきっと、おれの気持ちがわかるだろうぜ。
そんなおれが、はじめてこの人だけには殺されたくないと心から願う気持ちになった。」
自分の価値をこの世で初めて認めてくれた、と男は言った。
「『死ぬのはこわくない。しかし、あの人に、見捨てられ殺されるのだけはいやだ』
悪には悪の救世主が必要なんだよ。フフフフ。」
「最も、これを聞いている彼女には到底理解できないだろうがな。」と言ったセリフに、
私は沈黙するしかなかった。じわり、と血がズボンにまで滴る。
「音を探知する同士として話を・・・聞いてみたかったものだ・・・。
自分よりも他人を優先する。・・・あの方が興味を抱く理由が少し・・・わかりかけてきた・・・・・・。
おれの名はンドゥール。『スタンド』はタロットカードの起源ともいうべき・・・
『エジプト9栄神』のうちのひとつ『ゲブの神』の暗示・・・・・・・・・・・・・・・!大地の神を意味する。」
「エジプト9栄神!?なんだそれは!」
「ククク・・・・・・。教えるのは・・・・・・・・・・・・自分のスタンドだけだ・・・・・・・・・。
おまえはおれのスタンドを倒した。だからそこまで教えるのだ。」
承太郎に向けて言ってるはずなのに、遠くにいる私に対して言っているようでならなかった。
ンドゥールの手が落ちた。彼の『生命の音』は、ここで止まった。
もし、敵としてではなく、別の形として会っていたら・・・・・・少しは変わっていただろうか。
人を狂信的に操るディオ・・・・・・心から慈愛を与えるような人物とはとても思えないが、
以前からカリスマ的なものを持ち合わせていた。
ンドゥールの話を聞いたからと言って、奴を倒すことには変わり、な・・・い・・・・・・。
「(やばい・・・・・・視界までおかしく・・・・・・)」
承太郎がこちらに駆け寄って来た時には、目の前が真っ暗になっていた。