「、本当に大丈夫かい?」
「『大丈夫だよ、この通り』」
「まだ無理しているんじゃあないだろうね?」
「『本当だって!』『傷も塞がってますし、すぐにでも退院できるでしょう』」
どうだ!と言わんばかりに、数分前に記憶した先生の『声』を再生した。
花京院はようやく納得の色を浮かべた。
「それは安心したよ。でなきゃ『法皇の緑』でベッドに縛り付けるとこだった。」
え・・・・・・ちょっと、何でさり気なくおっかないこと言うの!?
君はそんなキャラじゃないだろッ!?
何て顔をしていると、「冗談だよ。」と笑みを返された。
とても冗談には聞こえなかったんだけど・・・・・・。
「Mr.花京院、Miss。カイロまでご案内致します。どうぞ、お乗り下さい。」
ジョセフを通じてSPW財団がやって来たのだが、どうやら花京院がうまく言ってくれたようだ。
私だけ日本へ戻るなんてたまったもんじゃない。
「へえ!もゲームをやるのかい?」
≪アクション、RPGが中心だね。特にホラーアドベンチャーにハマってる。≫
「ホラーだって!?ど、どんな!?」
≪数は少ないけど、一番好きなのは美少女がハサミを持った怪人から逃げながら
屋敷を脱出するゲームかな。≫
「そうかあ、君の生まれた時代にはそんなゲームが・・・。
早くその年にならないかな。」
正確に言えば、私の生まれた年の4年後のことなんだけどね。
ゲーマーであることはよーく分かったが、
その年になった頃には花京院、君は成人しているんだぞ?
「でも意外だね。君はゲームとかに興味ないと思っていたけど・・・。」
≪よく言われる。でも私、人と話すの苦手なんだ。スポーツ派でもない。
ゲームはもちろん、漫画やアニメもたくさん見てる。―――引いたでしょ?≫
「そうかい?ぼくは同じ趣味を持つ友達に出会えてすごくうれしいよ!」
キラキラとした瞳を向けられ、私は思わずガラス窓の方へ視線を逸らした。
何だろう・・・第二のジョナサン(ゲーマーじゃないと思うけど)に遭遇したような・・・。
「(ん・・・?)」
己のスタンドの射程距離内に入って、そのままこちらへ向かって来るのを覚った。
『人』ではない。この風を切る音は―――・・・
「、その鳥は?」
私が開けた窓から入って来たその鳥は、花京院も初めて見る種類だ。
私の周りを飛び回ったかと思えば、再び外へ出た。
今までこんな事は起こらなかった。もしかして、何か伝えようと・・・!?
「『花京院!』『悪いがあの鳥を追うよう運転手に伝えてくれッ!』」
「えっ!?わ、わかった!」
悟ってくれた花京院はすぐに対応してくれた。
彼じゃなかったら「は?何を言ってるんだ?」と不審な目で見られてそこで終わりだ。
窓の外から前方の様子を窺っていると、少年が大事そうに抱えている犬を見た。
花京院もそれを発見し、急停車させてすぐに降りた。
「『イギー!』」
「わっ!お、お姉ちゃん達は・・・?」
「脅かしてすまない。その犬は、イギーはぼくたちの連れなんだ。
ひどい怪我をしているようだが・・・。」
「そ、そうなんだ!こわい鳥に襲われたんだ!ぼくの犬と同じように・・・・・・・・・。」
花京院と顔を見合わせ、すぐに理解した。
イギーは敵と遭遇したと―――。
「偶然とおりかかったら河に流されてて・・・・・・。早く手当てしないと!」
「そうか・・・助けてくれてありがとう。後は我々に任せてくれ。
イギーは必ず助ける。」
「ほ・・・本当?お願いだよ!絶対治してね!」
イギーの為に涙ぐむ子供を見て、私はそっと頭を撫でた。
SPW財団の医師は本当に優秀だ。
イギーの前足は残念ながら無いままであるものの、歩くことに問題はないようだ。
イギーが何か言いたそうな目で私を見上げている。
「『どうしたイギー』『治療してもらったことに不服かい?』」
「ガウ。」
どうやら違うみたいだ。だったら―――・・・あ。
「『何故・・・』『遅れてやって来た私がどうやって君を見つけた』『・・・かな?』」
無言になるイギー。それが正解だったか・・・。
「『カイロ市内に飛び回ってる鳥が教えてくれたんだ』「『信じられない話だけど・・・』」
『後は君の呼吸音ですぐ覚ったよ』」
「・・・・・・フン。」
ツンと背を向けて歩き出すイギー。全く、よく分からない犬だなあ。
「お礼が言いたかったんじゃあないかな?」
「『そうなの?』」
人に興味を示さないあの子がか?
一人であーだこーだと思い耽っている内に、目的の人物達と再会した。
私を見るなり、「―――ッ!」独りバカでかいポルナレフの声が上がる。
「じゃあねーかッ!おいッ!あと花京院も!」
「ぼくはついで、ですか?」
「おいッ!もう体はいいのかッ!・・・いや違う!何故ここに来たッ!」
「『傷はもう治った』『これで文句ないだろ?』」
「う、ぐっ・・・!」
「まーまー抑えろジョ―スターさん。ここに着くまで花京院も一緒だったんだしよォ。」
「うっ、ま・・・まあ・・・・・・。」
ジョセフはかなり渋々だったが、私の体調を始めに訊いてくれたのだから本当に優しい。
もちろん、アヴドゥルさんやポルナレフも同じように言葉をかけてくれた。
そして、一人静観していた承太郎と初めて目が合った。
「『えっと・・・』『ただいま?』」
「・・・もういいのか。」
「『ええ、おかげ様で。』『君も無事で何よりだ。』」
「ああ。」
他の皆と違い、多くの言葉は交わさなかったが、いつもより瞳が優しく見える。
そんな会話も束の間、イギーはジョセフの腕から降りて、再び歩き出す。
小さな背中を追っていくと、イギーの呼吸音が徐々に乱れていく。
私達も同様だった。
「(この圧迫感・・・・・・このドス黒い感覚はッ!)」
目の前に建つ館こそ、ディオが潜伏している建物である。
ながく渡ってきたこの旅も、ついに終点を迎えるという訳だ。
門の奥にある窓のカーテンの隙間から、誰かが先程まで覗いていたような光景がある。
すると、ひとりでに扉が開いた。その付近に人の呼吸音はない。『スタンド』か?
「おい、見ろよ。このろーか・・・終わりが見えねーぜ。本物じゃあねーよな・・・。
トリックか幻覚だよな・・・。」
「ポルナレフ・・・・・・。ドアの中に飛び込むなよ・・・・・・
DIOの前にスタンド使いがひとりやふたりいるはずだ。」
「『静かに!』『誰か来るぞッ!』」
私がスタンド能力でそう叫ぶと、皆は一斉に構えた。
すると、まるで風に乗って来たかのように、男が目の前までやって来た。
「ようこそジョ―スター様。お待ちしておりました。わたしはこの館の執事です。」
「なんだかわからねーがッ!ただ者じゃあねーなッ!とにかくブッ殺すッ!」
「ポルナレフ早まるなッ!」
「ダービーと申します。テレンス・T・ダービー。
あなた方に再起不能にされたダービーの・・・弟です。」
その時、近くにいた承太郎の目が大きく見開かれていた。
「さ・・・どうぞ中へ。上着などおとりしましょう。」