ビリヤードのある部屋から出て、 壁にヴァニラ・アイスと名乗る男のスタンドの攻撃であろう穴がぽっかりとあいた。 私は出口を見たが、無視して更に階段をのぼって2階へ駆け上がった。 スタンドの察知能力で、ポルナレフとイギーもこちらへ向かって来るのを理解した。 これでは引き離した意味がない! 「(ん?この館の見取り図か・・・?)」 本物であるかとか、何故ここにあるかと考える余裕などなかった。 小さなテーブルに置かれてあるそれを乱暴に広げる。 この長いギャラリーの真正面に『学習室』、斜め横に『バスルーム』が二つ、 反対側には『植物園』、塔への出入り口。そして斜め後ろに『礼拝堂』。 生命反応もなく近づくスタンド・・・・・・とても厄介だ。 奴が姿を現すまで波紋探知機はもちろん、スタンド能力も役に立たない。 それでも・・・やるしかないッ! 「あの女、どこかに隠れたか。  どこにいようが、このヴァニラ・アイスの前では無力だ・・・。」 ブツブツ言える余裕ぶってないでさっさと来い! そう毒づいた矢先、足元にあった鉢植が転がった。 当然、その音を聞きつけたヴァニラ・アイスはガオン!と扉に穴をあけて入って来た。 部屋の中央に姿を現す。男の肩や顔にはピーターの蹴りによって傷ついた痕があった。 「実に不愉快だ・・・。何故あの方はたかが小娘一人に執着されるのか・・・・・・。  しかも、過去にDIO様に傷を負わせた・・・!忌々しい・・・!!」 「『長い独り言、ご苦労様』」 ヴァニラ・アイスがこちらに振り向いた同時に、左右から降って来た蔦が男の首元に絡む。 動きが止まったのを見はからい、大きく指を鳴らす。 「(巨樹(ジャイアントツリー)!ここにあった植物だから、今回はバージョンアップ!)」 波紋によって更に成長していく木は、人の形となっていく。言わば『巨人兵』だ。 巨人の腕がヴァニラ・アイスに目掛けて伸ばされる―――。 「こんなもの・・・!」 なんと、ヴァニラ・アイスは首が傷つく上で、無理やり蔦を引き千切ったのだ。 スタンドの口の中に引っ込み、再び暗黒空間へ姿を消した。 巨人の腕はそのまま空を掴み、次の瞬間、その緑色の腕はキレイに消え去った。 どんどん巨人の体が暗黒空間にのまれていく中、私の方へ接近するのを忘れない。 私が走った衝撃で床に落ちていた葉っぱが宙を舞うと、それが瞬時に消えた。 「(もしかしてあいつは・・・・・・『障害物』をのみ込みながらでないと移動できないんじゃ!?)」 私は走りながら室内にある葉っぱをかき集め、それを後方に向かって投げた。 僅かだが、軌道が読める―――! そして、私を確認するため姿を現したその瞬間!そこを狙う・・・! 「(『ピーター』―――ッ!!)」 ヴァニラ・アイスの顔面に目掛け、ピーターの足が皮膚にめり込んだ。 男の顔の骨が、折れる音がした。 何度も言わせて貰うが、敵である以上容赦しない。(ディオの部下なら尚更!) 顔から血がふき出す一方、奴のスタンドの両腕がその足を掴んだ。 な、何でまだ動ける・・・!? 「おれは死なん・・・・・・。苦痛を意に介しているヒマもない・・・・・・・・・・・・・。  不本意だが、必ずきさまを連れて行くッ!必ずジョ―スターどもを殺すッ!  わたしが死ぬのはその後でいいッ!」 グギャリン!ピーターの右足首が不自然な方向に曲がり、自分の右足首からも鈍い音が立った。 更にそのままピーターの足の爪先をスタンドの口の中へ―――引っ込めようとするも既に遅かった。 暗黒空間に触れてしまった爪先がごっそりと消えてしまった。 「『うああああああああっ!!』」 「お利口だ・・・・・・。足を下ろしてくれたな。」 わざわざ能力で『悲鳴』を上げられるなら、まだやれる! コイツの執念は暗黒空間のようにドス黒いが、こっちはディオを倒す執念があるッ! ほぼ麻痺している右足を無理やり床について、ピーターの左腕の拳を放った。 しかし、大量に血を流しているのにも関わらず、 ヴァニラ・アイスは余裕ある動きで左腕を掴んだ。 「この腕がおれを殴ろうとした悪い腕かッ!」 今度は左腕が使いものにならなくなった。 それでも冷静に説明できるのは、今までの戦闘経験を積んで来たからでこそだろう。 ヴァニラ・アイスとの距離が近いことで、私はあること(・・・・)に気づいた。 「『愚者(ザ・フール)』ッ!」 「『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』!!」 扉があった出入口から、二人のスタンドが飛び出した。 『銀の戦車』はヴァニラ・アイスを攻撃し、『愚者』の砂が私を引き寄せるように包み込んだ。 破壊のあとを呆然と眺めながら、ギャラリーに追い出された。 「アギ!」 「『・・・イギー・・・・・・』」 波紋の呼吸をしながら、こちらを見上げるイギーをじっと見た。 表情と、心臓の鼓動からして、かなりお怒りだ。 「『まさか君に心配されるなんてね・・・』」 軽く笑んだが、それでもイギーの目つきは険しいままだ。 「『だから悪かったって・・・』『それより、奴の正体(・・)が分かったんだ』  『早くポルナレフのとこへ加勢し―――』」 立ち上がろうとした途端、首後ろに強い衝撃を感じた。 意識が朦朧とする中、なんとか視線を動かすと、そこには『愚者』の姿が。 イギー、お前・・・・・・・・・。 「ニヤリ。」 そんな擬音がつく悪い笑みを浮かべるイギーを最後に、私はそのまま崩れ落ちた。