―――まったく、弱っちぃくせに一人で出しゃばるんじゃねえぜ。
おまえには『貸し』があるからな。だからそこで大人しく待ってな。
イギーの姿が見えなくなった同時に、私の意識が浮上して来た。
ちくしょう、カッコつけた真似を・・・!
「(ってあれ?ここ、どこ・・・?)」
ギャラリーではなく、清楚のある礼拝室だった。
スタンドで手刀を落とされた首元の痛みは既に引いていて、意識も正常だ。(爪先は完全麻痺)
それと同時に、私のすぐ隣からイギーの弱々しい心臓音を聞いた。
すぐに横を見れば、ボロボロな姿のイギーが横たわっていた。
「(イ、イギー!?何で・・・!?)」
一瞬、抱きしめたいという衝動をなんとか抑えつつ、震える手でそっと頭を撫でた。
こんな小柄だけど、私達と同じスタンド使いで・・・頭の良い反面愛想のない犬だけど・・・・・・
本当にカッコいいよ、君は。
「(まだ・・・まだ息はある!二人共助かるッ!)」
射程範囲内にポルナレフの『足音』はない。ヴァニラ・アイスのもなかった。
しかし、奴が吸血鬼になりかけていたなんて・・・・・・ポルナレフは、勝ったのだろうか。
「『イギー。悪いけどもう少し待ってて』」
「・・・・・・・・・。」
微かだったが、すん、とイギーの鼻息が聞こえた。
イギーに波紋を流すと、なんとか片腕で抱えた。
一人DIOの所へ向かっているであろうポルナレフに心の中で謝ると、
バスルームの大きな棚の中に隠させたアヴドゥルさん(勿論彼にも波紋を!)も連れて、
一度館を後にした。
館から遠く離れた所で待機していたSPW財団と合流し、
イギーとアヴドゥルさんはすぐに搬送された。
財団の人が「手当てをします。乗って下さい。」と車を指したが、私は断った。
私は助けられる為にここへ来たんじゃない。助ける為にいる!
「では我々はここを離れます。どうか、お気をつけて・・・。」
「『ありがとう』」
スピードワゴン・・・・・・。
考えてみればあの人は、100年も前から私達を―――否、ジョ―スター家を支えて来た。
その人が亡き今も、その意志を継いで動いてくれる人達がいる。
それを無駄にする訳にはいかない。この怪我がなんだって言うんだ!
「(―――ハッ!知っている足音が一つ二つ・・・四つ!もう一人は知らん!)」
よかった、ポルナレフも皆無事だ。
波紋の呼吸で折られた左腕の痛みも大分マシになって来た。
階段を何段か跳び越えて進むと、承太郎達の姿とディオの部下らしき人間・・・
否、吸血鬼がいた。(心臓音がなかった)
そいつは私がすぐ近くにいることに気づいているはずなのだが、何故言わないのか。
それは視界に映る棺桶が全てを物語っている。
「最近ジョジョと一緒にいるようだね。」
「恐らく無事では済まないだろうな。」
「これが最後の警告だ。このディオを選ぶか、ジョジョを選ぶか・・・心して答えるんだ。」
奴と最後に出会ったのは・・・1888年の12月だったか・・・・・・。
全ては『石仮面』から―――それを使ったディオ・ブランドーから始まった。
私が何年も時代を飛び越えていたのは、ディオとの決着をつける為に彷徨っていたのかもしれない。
「飛び出してくるぞ!!」
ジョセフの一声に閉じていた目を開き、私はそっと懐中時計に触れた。
どうか、私に力を与えて下さい。
ゆっくりと息を吐き、『波紋の呼吸』を始めた。
ヌケサクと呼ばれる男が重いフタを開け始めた瞬間、何故か視界が暗転した。
***
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・?
どこだ、ここは・・・・・・。何故私は、奴に拘束されている?
「気がついたか。」
『頭上』という至近距離からの発声に、私は弾かれたように両腕から飛び出した。
思ったよりも簡単に拘束から逃れられた事に、私は壁を背にして目の前にいる男を睨んだ。
「『一体こんなことをして・・・』『何の真似だ―――ディオ!』」
「ディオ・ブランドーではない。今はDIOだ。」
そんなことはどうだっていい!
ディオを警戒しつつ、静かに周囲の音を探った。この塔から承太郎達の足音が消えている。
訳あって外を出たのだろう。
「他人のことを考えるとは、昔から変わっていないな・・・。」
「『お前と悠長に話していられる程』『私はお人好しじゃないッ!』」
「そう咆えるな。わたしは100年前からおまえを高く評価している・・・。
わたしの仲間になれば全ての『恐怖』から解放してやろう。
昔やったわたしへの仕打ちも、全て水に流してやる。」
「『・・・・・・本当に貴様はあの時から!何も変わっちゃいないッ!』
『お前の精神は・・・・・・"悪"そのものだ』」
「フッ、本当にやる気か?。」
「『くどい!』」
私はスタンドを発現させて構えを取る。
しかし、いぜんとしてディオの余裕の笑みは崩れなかった。
「非常に残念だ・・・。永遠の安心感から程遠い道を選択するとは・・・・・・。」
じわりじわりと侵食していく嫌な空気になっていく中、
私は植物園からくすねた良い種子を後ろから取り出す。
「本当にお前は実に邪魔な存在だった。
貴様さえいなければあの時、おれはジョースター家を乗っ取る事ができたはずだった・・・。」
だが、そんなことはもう、どうでも良い。
ディオの赤い瞳が、私を射抜く。
「わたしは、そんなおまえを―――・・・。」
私は目を大きく見開き、耳を疑った。どくどくと流れる血が、流れる音。
指ではなく、ディオの牙が首筋に強く食い込んでいた。