寒気を感じ、我に返って飛び起きた時には、外は暗くなっていた。
息を整え、今まで起きた事を思い出し、吸血された痕から『吸血鬼のエキス』をしぼり出した。
あと一歩遅かったら、奴と同じ吸血鬼にされていた・・・!
「ハァー、ハァーッ・・・!」
体内にもう、異物感などの違和感はない。
今頃、ディオは私が吸血鬼になったと思ってるに違いない・・・。
「(まだ・・・まだ終わっちゃあいない!アンタがこの世に縋りついている以上・・・!)」
窓から飛び出し、ディオと、承太郎達の『音』を探った。
遠方から何かが建物の屋根を上って移動しているのを目にした。
あれは―――花京院!ディオ!そして別の位置にジョセフがいる・・・!
「すでにおまえの周り半径20m!おまえの動きも『世界』の動きも手にとるように探知できるッ!」
花京院がやった!だが、それではディオは倒せないッ・・・!
もし、私の予想が正しければ―――花京院が危ないッ!
「『世界』!!」
それを聞いた直後、花京院が貯水タンクまで吹っ飛んでいた。
ディオは花京院を一見してやると、ジョセフの方へ向かっていった。
「(花京院ッ!)」
何があっても助けるなと言ったアヴドゥルさんに心の中で謝ると、
貯水タンクにめり込んでいる花京院の腕を引っ張った。
腹が貫通されている・・・!『波紋』を流すだけではダメだ!
「『聞こえるか花京院!』『口を開けるんだ!』」
体は小刻みに震えるだけで、指一本動かせない状態だった。
無理やり彼の口をこじ開け、ある種を呑みこませた。
嗚呼、頼む頼む!どうかっ・・・!花京院の命を救ってくれッ!!
「うっ・・・・・・・・・・・・・・・?」
ようやく声を出せた花京院にひどく安堵した。私が編み出した(ではなく某漫画のネタ)回復系。
生命エネルギーを溜め込めた飲食可の『種』だ。
「・・・無事だったんだね・・・。」
「『それはこっちのセリフだ・・・』」
こんな時でも笑っていられるなんて・・・これ以上涙腺緩ませないでよ。
「、聞いて、くれ・・・ッ!ディ、DIOの・・・スタンド能力は・・・・・・『時間』。
『時を止める』・・・・・・!」
そうか、やはり・・・・・・。
そう言って安心したのか、花京院の心臓音が徐々に小さくなっていって、私は困惑した。
「『かっ、花京院!?』『待て!目を閉じるなァーッ!』」
「後は・・・・・・頼むよ・・・・・・・・・。」
もっと早く会えたら、一緒にゲームできたのにな・・・。
花京院の心臓が・・・・・・・・・止まった。呼吸もしていなかった。
私は・・・・・・・・・私は一体、何を浮かれていたんだッ!!
「うぐっ、ぐぁぁ・・・。」
ジョセフの苦痛な叫びに、我に返った。感傷に浸っている時間は、ないんだ・・・クソッ!
「・・・もうあの頃のように無茶だけはせんでくれ。」
「、今だから言っておく。どうか生き残ってくれ。」
「違っ・・・うんだ・・・・・・。君をっ・・・巻き込みたくないっ・・・!」
ディオを倒すまでは死ねない・・・。ジョースターの人間が、因縁に決着をつけるその時まではッ!
承太郎とディオが戦り合っている中、離れた場所にポルナレフが潜んでいるのを確認した。
タイミングを計ってから奇襲をかける気だ。
承太郎の『呼吸』が止まったのを知り、思わず立ち上がろうとしたが、
そこへポルナレフが攻撃を仕掛けて来た。
『銀の戦車』の剣が頭を貫通したと思いきや、次の瞬間にはポルナレフが壁を背に気絶していた。
また『時止め』か・・・・・・本当に恐ろしい能力だ。承太郎より先にポルナレフが危ない・・・!
「『DIO―――』」
ディオがあと一歩の所で標識を振り上げようとした所で、私は姿を現した。
平常心を保て。吸血鬼らしく、本物の悪になりきれ!
「おはよう。吸血鬼になって初めての夜はどうだ?」
「『ああ・・・』『とても清々しい気分だ!』」
そう言って、目の前に倒れているポルナレフを蹴り飛ばした。(本当にゴメン!!)
ディオは一見して満足そうに笑んだ。
「フフ、そうだろう。
ようこそ、夜の世界へ・・・・・・今夜はジョースターの血で晩餐をやろうではないか。」
肩に手を置くディオに悪寒を抱くが、顔には出さないよう感情を押し殺し、
私は無理やり笑みを浮かべて「『喜んで』」と返す。
「さて、まずはこの邪魔者達の始末だ。止めをさせ。」
「『勿論ですが・・・』『DIO様』
『承太郎の止めは私めに・・・・・・ゾンビになっても襲ってきそうですから・・・』」
ディオの目がじっと、私を見る。耐えるんだ。読まれてはいけない、自分の企みを・・・!
暫しの間、「楽にしてやれ。」とブチ抜いた標識を手渡された。
体中にナイフが突き刺さったまま仰向けになっている承太郎の側に近寄る。
ディオの視線が、背中に鋭く突く。
ゆっくりと標識を持ち上げた同時に、ディオの背後からピーターを出現させた。
―――蹴りをくらえッ、ディオ!!
「フン!こんなくだらん思いつきであることは気づいていたぞッ!」
『無駄無駄ァ!』
「『オラオラオラァ!』」
連続蹴りに対し、『世界』のラッシュ攻撃が繰り出された。
ちょうど怪我した右足の爪先に、『世界』の拳がダイレクトに当たった。
『世界』のパワーは、『ピーター』の蹴りを遥かに上回っている・・・!
私は苦痛に負けて地に伏せてしまう。更に『世界』の足が私の右足の骨を上から押し潰した。
「そこでよーく見ておけ・・・承太郎の首が切断されるのを・・・!」
標識を握りしめた瞬間、承太郎の心臓が動き出したのを察知した。
『星の白金』の拳が標識を曲げ、素早くディオの頭部に当たった。
頭蓋骨が割れる音が痛く響く。吹き飛んだ様を黙視する私に承太郎が近づた。
「おい、足は大丈夫なのか?」
「『・・・波紋を練れば・・・』『そういう君は・・・?』」
「問題ねえ・・・。できたらポルナレフの怪我看ておけ。」
助けられた自分が情けないと心の中で責める私に、承太郎は突然何かを取りだした。
それを見た途端、私は骨折さえ忘れて体を上げた。
「『私の時計・・・!』『ど、どうして貴方が・・・?』」
「てめえが池に落ちて来た際、地面に転がってた。・・・・・・遅くなって悪かったな。」
ウサギの懐中時計を私の手の中に置くと、すぐにディオを追った。
私はその後ろ姿をじっと見て、すぐにお礼を言えなかった自分に腹を立てた。
『波紋の呼吸』を整え、砕かれた骨が再生されるのを感じる。
けれど、全回復にじっとしてはいられない。痛みを堪えてポルナレフの元へ駆け寄った。
「『本当にごめんなさい、ポルナレフ』『終わったら・・・ご飯、たくさん奢るからね』」
波紋を流し終えると、2人の足音を追った。
ディオがどこへ向かっているのか―――
ジョセフの呼吸が止まったその時、初めて思い知るのだった。